”大失敗するインセンティブ設計”のやり方
はじめに
noteに足を踏み入れてくれてありがとうございます!林です。
(24年3月から12ヶ月連続のnote投稿を実施しております。7本目です。もし興味あれば他のnoteもご一読ください!)
連続投稿といいましたが、先月は現職の公式noteから発信となりましたので1ヶ月ぶりになります。
さておき、今回のテーマは”インセンティブ”の付け方についてです。
営業組織を管掌していると度々「目標達成の組織戦術の1つとしてセールスにインセンティブ還元をすべきなのではないか?」と必ず1回は議論になります。
業績に関連したインセンティブ(金銭報酬)をモチベーション増加の一手として取り入れている会社も数少なくはありません。
インセンティブを設けるということ自体は決して間違っている訳ではありませんが、思考実験しきれないまま設定してしまうと大きなリスクをはらんでいる方法とも言えます。
そこで先例に学ぶ”大失敗するインセンティブ設計の仕方”についてご紹介します。うまくいく方法ではなく、失敗してしまった企業の例です。
これから営業組織のインセンティブの検討をしている企業経営者の方、営業管掌されている方や人事組織に関わる方の参考まで。
林のnoteでは組織づくり、事業づくり、エンタープライズセールスといったテーマに沿って誰かにシェアできるよう、10分以内で読めるようにまとめていますので気になった方はぜひ他のnoteも参照ください!
インセンティブとは
そもそもインセンティブとは?というところから簡単におさらいします。
上記の通り、”従業員にやる気を起こさせるような動機づけ”として使われます。色々なインセンティブがありますが、このnoteでは特に”営業における給与以外の金銭報酬”を軸に記載させていただきます。
不正が発生した企業の例
今から約10年前の2016年、アメリカの大手金融サービス会社で数百万件規模の架空口座が不正に開設されていたことが発覚しました。(参考)
この不正に対し、1億8,500万ドルの罰金だけでなく、顧客への数百億ドルの手数料返還、関与していたマネージャーやメンバー5,300人の解雇など、同社も大打撃を受けることになったのです。
当然その後の顧客獲得は難航したでしょうし、信用が崩壊したことにより、上記以上のダメージがあったことは言うまでもありません。
この手の話は同社に限らず、日本国内でも保険会社や、営業会社でも度々問題として挙げられており、”不正”ということだけでいうとよくある話の1つ。自社には関係のない、”対岸の火事”のようにも見受けられます。
ただここで重要なのは「なぜ、そのような不正が発生したのか?」という点です。ここに学びがあるのだと言えます。
なぜ不正が発生したのか
結論、この会社は当時、”追加の口座開設に合わせて営業にインセンティブが発生する制度”を設けていたのです。
経営陣やあらゆる専門家が議論を重ねた結果、不正の根源として「営業へのインセンティブの付け方”に問題があったのではないか」という結論に至りました。
特に営業のような数値で判断しやすい組織を管掌している方であれば、数値成果を伸ばすための起爆剤としてインセンティブを検討することは当然視野に入ってきます。
この時点では誰しもが、”不正の温床にしてやろう”なんてことは思わず、むしろ頑張っているメンバーへの感謝の気持ちも込めて設計するはずです。
同社も業績を最大化させる一手として個人業績連動の金銭インセンティブを設けたのが始まりです。
実際にこのnoteをご一読いただく皆様、そして自身が出会ってきた営業の方々を思い返してみて、どうでしょうか。
というインセンティブがあったとして。
「お金さえ稼げればその後に解約しようが関係ない」
「キャンペーン期間に集中してアポイントを取ろう」
「ほぼ無理やりアポイントはとったけど、最終営業次第だからいいか」
「お客様からクレームが来ても新規営業部隊だから関係ない」
と、自分自身は誓って”やりません”という方でも、周りの営業マンでも”そんなことを考える営業は100%いない”と言い切れるでしょうか。
”事業”や”組織”ではなく”個人”を主語にしたら、人間の心理的にはどうしても、手段を問わない人が出てくるのは想定しておく必要があります。
特に業績と”直接連動”するインセンティブは”不正の温床”になる想定をしておく必要があります。
もう1つ別の会社の話をします。
ある通信会社が新規事業としてサービスを開発しました。社長からは営業全体に号令をかけ、「今後の社運を握るサービスのため、既存の売上の大半を占めるメインサービスとともに販売して欲しい」と伝えました。
ところが全く売れません。
なので社長は会社のハイパフォーマー営業に同席をして、なぜ売れないのか?一次情報を掴みにいきました。
結果。
商談同席して気づいたのは、そもそも「提案」していないことでした。
途中で社長が切り出しても、その営業は話を繋げながら元のメインサービスを提案し続けたのです。
この裏側にあったのはメインサービスの販売にのみインセンティブがかかっていたからでした。
これは”不正”ではないんですが、当然、インセンティブがかからないプロダクトは相対的に販売動機が薄れます。
会社視点で動いてもらえる人は育ちにくいですし、利他の精神も育みにくくなります。ここで「ウチの会社にはそんな人はいないし、採用しない!」と考えるのはリスク想定が甘いかもしれません。
性悪説とまではいきませんが、人間の心理的には可能性が十分にあり得ることを想定して戦略や制度を設計しないと、最終的には企業の信頼も、その先のお客様も失うことになりかねません。
そうはならなくても組織の求めるバリュー体現と営業部署だけ相反する行動をとる。なんてことにもなりかねないため参考まで。
インセンティブの考え方
では逆に、どういったインセンティブなら”不正”になりにくいのか。またどういう企業体質であればインセンティブは有効なのか。も簡単に触れておきます。
わかりやすい例としては外資系企業のように、成果の有無でドラスティックに個人の進退が決まる会社です。
大前提、インセンティブは”アメとムチ”でいう”アメ”です。アメが亡くなった瞬間に機動力や成果が落ちる、モチベーションがなくなるということはよくある話です。
そもそも日系の内資企業では、成果の有無だけで進退を決めきれない側面もありますので、インセンティブ(外発的動機付け)よりもドリブン(内発的動機づけ)を優先すべきです。
また、”不正をしにくい”設計にするのであれば”直連動”をさせずに、二律背反する目標を両方達成した場合に支給するなどの条件をつけることです。
他にも達成条件を満たしていたらインセンティブが取得できる”チャンスを得られる”設計(例えばインセンティブ取得できるゲームに参加できるチャンスが得られるだけで直接付与されない)など、業績と直連動させないことが必要になります。
もしくは目の届く範囲にする(マネジメントが利益相反にならないよう監視と育成をし続けられる範囲の組織で実行する)などもありますが、組織成長とともに大体は崩壊します。
また金銭報酬以外にもインセンティブはあります。
金銭報酬・経験報酬・感情報酬の3つはマネジメントや転職先の検討においても覚えておいて損はありません。
人によっても報酬に対する価値は異なります。お金はいらないけど経験は欲しいという人もいれば、何よりも労い、賞賛の言葉が欲しいという人もいます。金銭報酬はその内の1つでしかありません。
金銭インセンティブはわかりやすいですが、結局、”廃止したら全然動かなくなる”なんて話もよく聞く話なので正しく扱うことが求められます。
金銭的な報酬は衛生要因でしかないです。
「インセンティブがあるから会社を好きになる」ではなく「インセンティブがあるから嫌いにならない(なくなったら嫌いになる)」という心理状態になります。
取り扱っているサービスの特性や会社の文化・採用方針などによって必ずしも金銭的なインセンティブは悪いものではありませんが、中期目線での策定が重要になります。
さいごに
組織というのは1つのボタンの掛け違いで雪だるま式に破滅することも、逆にモメンタムをつくることで雪だるま式にうまくいくことも両方あり得ます。
いろいろな戦略や制度があっていいです。そして世の中のうまくいっている、いわゆる”ベストプラクティス”だけを信じるとその前提条件を見失う可能性があります。
Googleの最高の組織の作り方を真似してもほとんどの企業はうまくいかないと思います。それはビジネスモデルも給与体系も働く人の価値観も違うからです。
だからこそ、組織運営をする際にはベストプラクティスだけでなく、これはやらなくてよかったという”大失敗=しくじり”も聞くことで”同じ轍を踏まなくて済む可能性はぐんと上がります。
重ねてになりますが、どう組織に浸透させていくのか、どう進めていくべきなのかはぜひ興味あれば、お話しさせてください。
最近、X(旧Twitter)も始めたので良ければこちらでもご連絡お待ちしております。※主に事業・組織づくり・エンプラ営業についてノウハウ開示してますのでぜひ!
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