
アカデミック読書会(第42回)- 胡椒貿易と小麦貿易の違いは? -
読書会概要
3月24日(木)、20:00~21:30、オンライン(Zoom)にて、アカデミック読書会(第42回)を開催しました。課題本は、フェルナン・ブローデル『地中海II』「第II部 集団の運命と全体の動き」「第3章 経済 ― 商業と運輸」、テーマは、「16世紀の地中海では、どのような貿易が行われていたのか?」です。
今回の読書会では、主に、胡椒貿易と小麦貿易の違いについて対話が進んでいきました。胡椒は贅沢品として輸入されました。一方で、小麦は日常品として、地中海地域の食糧事情が悪化したときに輸入されました。同じ輸入でも、胡椒貿易と小麦貿易は、性質の異なるものでした。
これらの貿易が成立したのは、アメリカ大陸から貴金属(特に銀)が地中海にもたらされたからでした。16世紀の地中海は、もともと豊かな地域ではなく、他国と貿易することで発展しました。
地中海の歴史の中心において、貧困や明日の不安といった制約が大きな意味を持っている。多分それが人々が慎重、粗食、器用である理由であり、またいくつかの帝国主義 ― 本能的な ― 動機でもあるが、帝国主義は時には日々のパンを必要とすることにほかならない。地中海は、自分の弱さを補うために、行動し、外国にまで出かけ、遠方の国々の協力を求め、それらの国の経済と手を結ばなければならなかったのである。そのようにして、地中海はその歴史を著しく拡大したにちがいない。
この貿易は、世界規模の分業(世界経済システム)の予兆にも考えられます。基本的に自給自足であった地中海地域が、他の地域の小麦を輸入することで、少しずつ、分業体制が確立していったのではないかと考えられます。
16世紀の地中海の貿易の性質から、世界経済システムのはじまりを予感させる読書会でした。ご参加されたみなさまには、厚く御礼申し上げます。
読書会詳細
【目的】
貿易物資としての胡椒と小麦の知見を得たい
地中海について、貿易(胡椒と小麦)を読み込んで理解したい
【問いと答えと気づき】
■Q
胡椒と小麦の貿易の違いは何か?
■A
胡椒の産地は限定されていて、小麦の産地はいろいろある
輸送のありかたが違う
時代によって違うだろう
■気づき
小麦のほうが複雑そう
ポルトガルは小麦の栽培を広げようとしていた→アクションの仕方が違う
作れる、ということで違いが生まれる
小麦は必需品なので、不作が影響する(小麦は切迫度がある。胡椒はない)
■Q
胡椒と小麦の貿易がどうして地中海の主たる貿易産品となったのか?
貿易によって地中海の勢力図がどのように変わったのか?
なんで胡椒が重宝されたのか?
■A
ポルトガルが胡椒で大成功した(喜望峰を渡って、胡椒を独占できるルートを得た)
スペインはアメリカ大陸の銀が大量に入った→胡椒との交換ができた
胡椒は肉を食べるのに重宝された
常に人口増加に対して、小麦不足に陥った→(小麦の貿易には)海路が使われた(陸路は高くついた)
■気づき
なんでポルトガルが胡椒貿易を独占できたのか?→喜望峰を見つけたから
ポルトガルは世界を一周している
胡椒を求めたのは、肉食文明だったからではないか?
お茶は17世紀あたりからか?
【対話内容】
■なぜブローデルは胡椒と小麦と大西洋に注目したのか
どうして胡椒を競って輸入していたのか? 必需品ではないが…
当時どういう料理だったか興味がある(牛とか豚とかを焼いて食べたのか?)
どうしてヨーロッパ人は、胡椒を必要としたのか?→肉を食べるから? 貴重品だから?
塩と胡椒は似ている(少量でよい)
たまたま使っているのを見つけたのを、いけると思った
どうして、胡椒と小麦と大西洋に注目したのか?
→全部インドに関係するのではないか?インド行き・(インド)航路の大西洋と捉えた
南アメリカ大陸も、スペインとポルトガルが分け合っている
銀の供給地としてのアメリカは出てきているが…
大西洋を描いたのは、覇権がそちらに移っていくことを描きたかったからなのではなないか
消費する地中海を描きたかったのではないか
世界経済と外の世界の貿易が始まったことを描きたかったのか?
ぶどうのほうが、小麦よりも儲かった
■胡椒貿易と小麦貿易の違い
胡椒はやりたいからやっている、小麦は必要に迫られてやっている
胡椒は嗜好品に近い、中国では漢方として使われていた
胡椒貿易と小麦貿易は、貿易の動機が違う
→その違いは何か?お金になる作物を作りすぎて、穀物(小麦)を作らなくなった
→穀物の窮乏みんなお金に振り回されている
胡椒は贅沢品(p.358)
アメリカ大陸の金銀が胡椒貿易を可能にした
小麦の諸問題を研究することは、地中海の生命の弱点の一つを捕まえることであり、同時にこの生命をその充実した厚みにおいてとらえることである(p.361)
(小麦の貿易について)ただ大都市だけが大変重い商品を長距離にわたって移動させるという贅沢をすることができる(p.361)
金持ちのパンと貧乏人のパン
→金持ちの小麦は不純物が取り除かれている地中海では小麦が不足しているのに、なぜぶどうやオリーブを作ったのか?
→儲けたいから人口が増えた→作物の供給が追いつかなかった
日本の場合は、米がお金(地中海とは違う)
日本は閉じていて、地中海は開いている
→地中海は開かざるをえなかったのかもしれない都市に集中して、人口が増えたから、と読めなくはない
地中海は貧乏(人口が増えたから?)→他に出て輸入
日本は自給自足
人口が増えたのは何がドライバーなのか?
→人口が増えても他から持ってこられる
→地中海は金銀をもっていたからできた
■金銀に価値がある理由
みんなが金銀に価値を認めるのが不思議
→光輝くから
→貨幣に鋳造しやすいから
→珍しいから
→きれいだから
→傷まない
→加工しやすい
→交換する尺度として必要だった
→最初はメモ帳のようなものだった
【気づきと小さな一歩】
■気づき/学び
小麦と胡椒と、交易品と貿易品の代表として(ブローデルは)書いた
小麦:需要が発生する→分業が発生する
胡椒:贅沢品、交易品
小麦の貿易は嫌々行った→餓死するまで転作しなくても→統計は大事だと思った(風が吹けば桶屋が儲かる的)
必要は発明の母
■小さな一歩
風が吹けば桶屋が儲かる的なメカニズムを探す
■気づき/学び
胡椒と小麦はそれぞれ大きく違っている
小麦:生活必需品→過剰なところから不足しているところ(狭いところで)
胡椒:広い範囲で、遠方まで、大航海時代→植民地時代へ
貿易が広がることで、貨幣経済が一気に流通したのではないかと思った
■小さな一歩
大昔のことをよく書けるなと思った(推量と想像力)→事実に対してどのように推測して納得できる答えを導くことが大事なのか、見えない現実に対して応用したい
歴史観を今に当てはめて考えたい
次回の読書会のご案内
【開催日時・場所】
2022年4月14日(木) @ZOOM
【テーマ】
帝国はどのように発展し衰退したか?
【課題本】
・フェルナン・ブローデル著、浜名優美訳『地中海III 集団の運命と全体の動き2』「第4章 帝国」
【詳細・申込み】
※『地中海I』「第I部 環境の役割」まとめ動画:
いいなと思ったら応援しよう!
