アカデミック読書会(第39回)- 環境が人間に与えた影響 -
読書会概要
2月10日(木)、20:00~21:30、オンライン(Zoom)にて、アカデミック読書会(第39回)を開催しました。参加者3名、ファシリテーター1名、合計4名で会を進めていきました。
課題本は、フェルナン・ブローデル『地中海I』。「環境と人間との関係とは何か?」をテーマに、「第I部 環境の役割 第5章 人間の単位 ― 交通路と都市、都市と交通路」を読み、対話しました。
ブローデルの記述は推論も多く見られます。それでもブローデルが第I部を書いたのはなぜか、が対話のテーマになりました。
第I部全体を見てみると、長い16世紀の地中海地域の特徴が描かれています。簡単にまとめると、以下のとおりです。
地中海は貧しい地域である(明日のこともわからない)
地中海地域は疫病(マラリアやペスト)に悩まされた
地中海地域内で人の移動があった(山岳住民が都市に移動する、など)
地中海地域外につながる交通路もあり、人の移動もあった(人間の移動範囲という観点からみると、地中海は地理的な地中海よりもずっと広範囲だった)
都市では、商業→工業→金融の順で、産業が発展した
「第4章 自然の単位 ― 気候と歴史」で、ブローデルは、地中海地域の帝国主義の始まりについて、以下のように述べています。
『地中海I』を読むと、ヨーロッパでの分業体制の下地が、長い時間をかけて作れられていったことがわかります。
「第II部 全体の動きと集団の運命」では、社会史を扱います。第II部の第1章は、「経済 ― この世紀の尺度」、当時の経済活動の規模の話になります。地中海地域の人々が他国と経済的につながらなければならなかった理由、つながることができた条件をブローデルは描きたかったのだろうと想定しています。
今回の読書会で、「第I部 環境の役割」(『地中海I』)をすべて読み終えました。次回は、「第II部 集団の運命と全体の動き」(『地中海II』『地中海III』)に進んでいきます。第I部の総まとめができた読書会でした。
読書会詳細
【目的】
一つでも気づきが得られればよい
都市の新しい見方を知りたい
自然が人間の営みに与えた影響に関して、ブローデルなりの解釈についての理解を得られたら嬉しい
【問いと答えと気づき】
■Q
都市と疫病、自然、気候の関係について、思うところを述べてください?
■A
人口が増えていきました
食糧不足と疫病→飢饉とペスト
ベネチア→1/3~1/4が亡くなってしまった→政治が若者中心に変わった
山岳からの移民もやってきた(より積極的に取り込んだ)
金持ちが郊外に移住する
■気づき
都市への人口集中があった(なぜかはわからない)
金持ちが郊外に行ったりしたが、山岳から人がやってきた
都市に人口が集まる→メリットもデメリットも
プレイヤー:都市、領土国家、田舎
■Q
社会問題の原因は何か?
■A
人口の増加が関連している
食糧不足(輸送や収穫の問題)
→小麦が出ていくのを強引に禁止した異教徒を追い出した
■気づき
(ブローデルは)推測を交えている
(16世紀当時は)いろんなことが強制できた
衛生問題、ペスト(ネズミの死骸を知らずにさわった)
人口が集まっているのと関連している
金融都市の発展
工業→金融の発展
銀行はイタリアから興った(特徴的)
16世紀は原始的なので強制できた、インフレもおこっている
■Q
都市は人間を幸せにしたのか?
■A
都市とは発動機(エンジン)である
昔からの不幸:食料と疫病
幸せについては書かれていない
■気づき
海:幸せにも不幸にもしている
発動機:前進する、ヘーゲル的な歴史観?マルクス的?長く続いて発展する、というのが見えた
都市時代が衰退したらどうなるのか?、という疑問がおこった
世界の中心が、北(ロンドン、アムステルダム)に移っているが、それについては、ブローデルは書いていないのかな、と思った
あくまで地中海が賑わっていたときの時代の話を書いている、と感じた
【対話内容】
■地中海に行った経験
地中海へ行ったことがあるか?
→クロアチアに言ったことがある
■ブローデルが出した利益率の根拠は何か
『世界経済システム』は、書くのに20年かかった
利益率の話がでてくる、どこからそんな計算がでてくるのか?
交通の話ばかり
→陸路と海路の平均利益率はどのように出しているのか?(p.484)
→計算の根拠が書かれていない。(ブリュレが書いている)
→陸路はばらつきが少なく、海路はばらつきが多い保険の問題も仮定が入っている
当時も保険料率が設定されていたのか?
→海運業には何らかの保険があったのは間違いない
■16世紀の地中海地域の人口
人口は実際に増えたのか?
→全体はどうなのか?
→都市別に折れ線グラフはあるが、わからない
→どうやって人口を計算したのかもわからないあやふやなもの、推測の域を超えていない
第2巻のために、まずは仮説を立てた
→資料にはあたっている、客観性のあるものは入っているナポリとローマでは、9割が死んだ「らしい」
ほとんどが死んでいる
平野は豊かというイメージがあるが
→平野はしんどかった常識とは違うと伝えたかった
疫病・災害・戦争で死んでいった
→現在は、いかに幸せに暮らしているか
こどもの公衆衛生
→いまとはかけ離れていた
■都市と道路
都市に人口があつまったぽい
→工業が発展して、働き口が増えていった
→移民が増えていった
→陸路と海路の最初のところに書いてあった:ヨーロッパは人口が足りなかった
→地中海は都市で構成された地域、都市は農業の大成功の原因である(p.465)
→都市と道路が結びついて発展した都市と都市を結ぶ道路が発達→貿易と交易が盛んになった
■日本の交通網
日本には海上輸送がない→広がりがない
日本は海外からの本数、積載量でいうと、96%は海運、船で運んでいる
→神戸、大阪に陸揚げ
→国内に向けて、海で輸送
→高速道路網でトラックで輸送されるようになった(大阪が地盤沈下した理由)
→大阪は河川、海上交通の要
→蝦夷のものも一回大阪に集まった(一回中継する)
→大阪では昆布だし、関東では鰹節だし
→16世紀は、本願寺があった、秀吉が大阪城を作った
■ブローデルが第I部(環境の役割)を書いた理由
ブローデル:陸路と海路は戦いあうものと考えられているが、ともに発展するものと考えた(p.488)
ブローデルの記述はあいまい、資料にあたってもわからないところがあるから、仕方がないというところもある
第II部を書くのに、第I部をつなぎとして書いた
ブローデルの細かい記述
→当時の状況を想像してほしいと考えたそれを想像させるのが数字
■現在の地中海地域の諸問題
経済危機が起こっているのは、地中海地域ではないか
→紛争地域でもある
→資源を巡っての争いもある
→政治問題にもなりそうな感じがする
→通貨危機も起きやすい発展しているのは、北欧(ドイツ、イギリス、ノルウェー)
【気づきと小さな一歩】
■気づき/学び
地理的フロンティアの喪失と同じように、知識フロンティアの喪失があったのかもしれない←人文系の知識の掘り下げが先に行われ、自然科学が後回しにされたのではないか
■小さな一歩
こういう切り口でしばらく生活する(理系的な知見を以て、人文系の何かを読みたい)
内井惣七先生(『科学哲学入門』)を買う
■参考
科学哲学は野家啓一さんの本(『科学哲学への招待』)がおすすめ
■気づき/学び
人間は環境にすごく左右される、塵のようなもの→都市に入ることで、環境と距離を取れた
都市に魔術的な求心力がある、人間を引きつける何かがある
■小さな一歩
ウェーバーが都市について本を書いている→探して本を読みたい
■気づき/学び
金融都市のほうが面白かった
フィレンツェはメディチ家が作った、トスカーナ公国を超えた
都市が国の範囲を超えた
金融資本家が出てきた→富が集中した
ジェノバやフィレンツェは、GAFAに相当する
→ GAFAやテンセントなどが、これからどうなっていくのか楽しみ
■小さな一歩
歴史から学べることも多い
→未来の予測も兼ねて読んでいきたい日本が地盤沈下している
→解が出ない暗号通貨、NFTを研究する
【読書会で紹介された本】
次回の読書会のご案内
開催日時:2022年2月24日(木)20:00~21:30
場所:オンライン(ZOOM)
テーマ:16世紀の経済の尺度とは何か?
課題本:フェルナン・ブローデル著、浜名優美訳『地中海II 集団の運命と全体の働き』「第1章 経済 ― この世紀の尺度 」
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