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下関市立美術館にて riluskyE 個展 ~ 潜る舟 浮く幻

ここで個展をやりたい ~ 個展開催までの流れ

2012年に観光として初めてこの美術館のある長府エリアを訪れ、この地で個展が出来ればと思いました。

翌年2013年1月に、電話で正式に「個展をやりたい」と担当部署の方に相談、「誰にでも貸しているのではなく審査があります」と念を押され、承知した上で、もらっていた申請書と自分に関する資料を郵送しました。

しばらくして、使用希望者のための資料が届き、メールで担当の方と何度か質疑応答、希望開催時期を調整しました。

内定を頂いたのは2月の半ば過ぎ、HPにも正式に決定した日程表が掲示されたのは4月に入ってからでした。

下見で再訪、「喜びと名誉」を感じる

担当の方より現地の下見をと言われていたので再訪、梅雨明けの暑い一日でした。福岡より高速道に入って、関門海峡にかかる巨大な橋を渡ると山口入り。そこから下関市内まですぐで、片道の走行時間は約100分、高速料金は2,750円でした。

海峡沿いをしばらく東に進むと、左手に小さめの美術館が見えてきます。駐車場に車を止めて見渡すと、あらためて施設周りの緑豊かさに目を奪われ、少し歩けば、かつて城下町であった面影をとどめる練塀や長屋門など、日本伝統の佇まいと趣きに浸れます。

エントランスより建物の内部に一歩入ると何本もの立派な支柱があり、中心部の天井ドームより光が降り注ぐ演出となっており、重厚さと華やかさを兼ね備えたその雰囲気にどこか違う世界に入り込んだような気分になり、ここで個展を開けることの「喜びと名誉」を感じたのでした。



個展開始 ~ 搬入から2日目まで


搬入と準備

個展初日の前日に、作品と資材を満載した自家用車で美術館に到着。午後からの準備に向けて、担当の女性の方といろいろ相談や打ち合わせを行いました。
1階展示室の前面に拡がる気品と豪華さのある美しい空間を目にして、美術館ギャラリーとしてはここに勝る会場を経験したことはないと感じました。

補足1:作品を何点展示できるか
それは、会場内の壁面長さで決まります。この会場の概算は約56m、それに加えて会場の仕切りに使う移動壁を2枚置けばさらに20m増やすことができるので「使いたい」と要望を伝えました。すると私が昼食に出かけているあいだに、ご親切にも美術館スタッフの方が設置して下さっていました。私ひとりでは移動できない大きさだったので大変助かりました。

*私の場合は、A1:60cmx84cm、B2:52cmx73cmサイズ合わせて30点近くを展示しました。

補足2:作品の展示方法
それは、使用する美術館によって異なった規定があります。大きく分けて、金属製の細いレールワイヤーを使って天井から吊るすか、押しピンや虫ピンなどを使って壁に直接固定するかです。ピンや釘を打ち込むと壁が傷むからでしょう、使用不許可の美術館もありました。作品を吊るすワイヤーの垂れが気になるならピンのほうが目立たなくいいのですが、設置に時間がかかります。

*私はピンを使うことにしたので時間がかかるだろうと覚悟していました。ところが女性スタッフの方が、専用備品であるフックと太い虫ピン、それに高さ調整のための長い道具を貸してくださり、実際に使ってみると、作業効率が格段に早く、今までの半分の時間で終了することができました。そのスタッフの方のご好意と心配りには大変有難く感謝いたしました。

ピンとアルミ複合版

補足3:作品の外観
作品が印刷された厚めの紙を、3mm厚のアルミ複合板に圧着加工させるのですが、自分ではできないので専門業者に依頼します。


最後に、広報用のポスターや案内図等をどこに掲げるか相談して決め、設置し終えたところで本日の準備完了となりました。


2013年9月25日、いよいよ初日


たすき掛けした一団ご来場

9時半ごろに会場前受付に座るや否や、肩よりたすき掛けした一団がエントランスより入場してきました。あっという間ににぎやかになり、入場者数は20名に達しました。退場される時に一人の男性に声をかけてみると、地元の老人会のメンバーの方々でみんなで集合地からここまで歩いて来たとのこと、実にお元気な集団でした。

10時を過ぎたころ、今度はさらに多くの数の団体が現れ、2階の常設展示室に進んで行かれたあと、その一部がこちらの会場ものぞかれました。あとでスタッフの方に聞くと、公民館主催「街歩きツアー」に参加されていた人たちだと知りました。午前中だけで50名という驚きの入場者数となりました。

午後になると、本来の落ち着きを取り戻したかのように静かになりましたが、こちらの想像していたよりもずっと多くの人の出入りがあり、最終的に初日の総入場者数は72名でした。


以下に、受付に不愛想な顔で座っている私に話かけられた方との「短い対話」を記しておきます:

二人連れの男性のひとり

男性:(絵の人影を見て)これ、スタイルいいね、人間、人形?
    私: 人形です

その絵は、これでした:

あなたを巡る旅
A journy of seeking for you 
created  by  riluskyE   2012


一度見て、再び見に来られて、立ち入ったこと聞く女性

女性:  田舎に住んでると、こういうのなかなか目にする機会ないわね。
   私:  私も田舎に住んでいます。
女性:  立ち入ったこと聞くけど、これを売り込んで営業しているんですか?
   私:  画廊では販売ありですが、美術館は販売不可で見るだけです。
女性: じゃ、趣味でやってるんですか?
 私:  いや趣味というか、一応、作家活動しているつもりです。
女性:  あ~そう、よくわからないけど何かとても面白い絵ですね・・。


兄がトヨタのCM制作していた女性

女性:  これは写真を使った抽象絵画なの?
    私:  まあ、心象風景のようなものでしょうかね・・
女性: 
(どうやって作るか簡単に説明すると)兄は、トヨタや日産なんかの CMフィルムを作ってとても有名な人だったことを亡くなってから知ったの。お葬式に関係者がたくさん来てたから。
    私: そうなんですか、じゃ、TVでそのCMを見ていたかもしれませんね。
女性: 
兄は映像だけど、あなたの静止画を見てて、兄がどういう風に作っていたかわかるような気がしたの・・・がんばってくださいね。
 私: こちらこそ見に来てくださりありがとうございます。


初日はこうして無事に終了しました。


個展2日目


相変わらず美術館への来訪者は中高年の方々中心に途絶えることがなく、午前中だけで30名の方が来場しました。

NHK取材班か!?
午前早くに、カメラ機材を抱えた3人の男性が受付に来て、その中の背広姿の男性が、「NHKですが、ルミエールですか?」と聞かれました。もしや自分の取材に来たのかと一瞬思いましたが、隣の会場で地元同好会主催の「ルミエール油彩画展」が行われていることに気づき、そのことを告げるとすぐに移動されました。

お昼過ぎる頃には、本来の静けさに戻ったようになり、読書などしながらそのうち眠気が襲ってきました。

机上に見える入場者数カウンター


ワーッと中学生集団の来襲

13時半を回ったころでしょうか、突然、中学生の集団がワーッと入ってきました。何人か大人も混じっていました。しばらくすると、またワーッと出て行って、最後に会場から出てきた男性にそれとなく聞きました。
その方は引率の教師で、いくつかの学校の「特別支援学級」の生徒たちの課外活動で来訪しているとのことでした。生徒と教師合わせて30名以上はいました。その後、ある男子生徒が4回ほど会場へ入っては出るの繰り返しで、しっかり入場カウント数に入れました。   少年よ、協力ありがとう! 


書道家の男性との対話

書道家: 
あなたの作品では “遥かな地 寄せる夢”が気に入りましたよ。自分は書道をもう62年やっています。今年の3月にここで80作展示の個展を開き、1,000人来ましたよ。
私:
千人ですか、すごいですね、やがて午前10時ですが、あなたが今日最初のお客さまです。
書道家 :  ・・・・・
私:
書道は小学校の授業以来なじみがありませんが、やはり厳しさの中に楽しさがあるのでしょうか?
書道家: 
昔の師から日に3時間は書きなさいと言われ、できるだけ実行すようにしています。
私:日々の積み重ねが大事なんですね。
書道家:  あなたもがんばってください。

その作品 “遥かな地 寄せる夢”

遥かな地 寄せる夢
created  by  riluskyE   2010


2日目は、初日より7人多い79名でした。

個展3日目となりました


来場者に多いタイプ

昨日までは団体客が多かったので気づきませんでしたが、訪問客に一番多いタイプ、それは、中高年のご夫婦です。お二人で美術館に絵の鑑賞というのはなかなかできにくいことでしょうから、何かの用事のついでだったかも知れませんが。
それから、ひとりで来られた中高年の男性。「孤高」か「孤愁」の風情を漂わせてしまうのは、私も含めた世の男たちのたどり着く宿命でしょうか・・その点、美術館に来られるような女性たちはどなたも慎ましさと華やかさを兼ね備えて活き活きなさってる印象です。


受賞経験者の女性画家のこと

地元で油絵を描いておられる女性ふたりが来場されました。ひとりの方は、下関市芸術文化祭で「市長賞」もお取りになられたということで、いろいろと興味深いお話をうかがうことができました。

以下は、その方の述べられたことを私が主観的に要約したものです:

私にはビビっとくるものがあって、すごく刺激を受けました。こういうコラージュの作風なら山口県美に出されたらどうですか。去年は確か、写真コラージュ作品が大賞を取りましたよ。
自分は、今まで何回も特選をもらいましたが、それを超えられないのが課題でした。実際にヨーロッパで見た風景を描いていましたが、ある時、指導される先生から、描く対象を全く別のもにしたらとアドバイスされました。それで違う対象を描いたら「市長賞」を獲得しました。現在も作品を制作中ですが、次回作は、あなたのように何かテーマを決めて作ってみようと思いました。


その作品 “ 午後に吹く風 ”

午後に吹く風
the wind in the afternoon
created by riluskyE   2012



来場者は44名。今日も貴重な話をうかがえて、いい一日でした。

どなたかのコメント




4日目 ~ 5日目:最終日


入場者数歴代2位!

個展も4日目は51名、最終日は68名と、5日間合計314名という入場者数となりました。この数は、3年前の福岡市立美術館の800名に次ぐ多さとなりました。当初は正直な話、この下関のロケーションと規模からはこんなに来場してくださるとは全く期待していませんでしたので、それだけにとても喜ばしいこととなりました。

この入場者の多さは何が理由?

そして、ふと考えてみました・・この入場者の多さは何が理由だろう?

三つ予想してみました、

一つ目:
この美術館は、山口県下でも屈指の観光地エリアに位置していて、観光客がよく訪れてきていること。
二つ目:
この小規模な美術館の構造上、エントランスホール入ってすぐ正面奥に私の個展会場があったので、来場者は2階の常設展示会場か、隣の油彩画同好会「ルミエール」会場か、私の会場か、どこかにまず足を運ぶ流れができていたこと。

三つ目:
下関市やここ長府エリアの地域に住む人々が、この美術館も活き活きと地域共同活動する拠点のひとつになっていること。


さまざまな来場者たちとの対話


ミドルエイジ男たちの「まだまだやるぞ宣言」

見終わられたあと、受付に来て、無料配布している作品絵葉書を「これ、もらっていいですか?」とたずねられた男性がいました。そこからいろいろ話が始まりました。
この方は、字を自分独自にデザインして世に広めたいという願望をお持ちで、何かグランプリの賞でも取れば、名刺に肩書きを刷れていいのですがねと言われました。その方の願望と自分が重なる面も感じたので、自分の考えも述べました。
「グランプリを取るのにも才能プラス時の運があるように思いますね。毎年、グランプリ受賞者がいて、その後も継続して活動できている人はどれぐらいいるのでしょうか?・・グランプリを望むのも若いうちで、加齢とともに情熱も薄れ、自分でできる範囲の地道な活動になっていきますね・・」

と、私の実感と本音を言うと、その方はこう答えられました、

「自分はやりたいことはやる性分ですから」

こうして、人からは「もう若くないんだからやめなよ」と言われようが、「自分がやりたいことはやるぞ」と、虚勢を張るミドルエイジ男たちの心意気をお互いに確認し合ったのでした・・。


遠慮がちな旦那様と、聞きたいことだけ聞く奥様

ご自身も絵を描いているという男性が奥様と一緒に受付に来られ、少しお話しました。人の良さそうなご主人で遠慮がちな方でしたが、こういう場合、
やはり女性の方が一番関心のあることをズバッと聞かれます、

奥様:あなたプロですか?
    私:プロという意味はこれで生活しているという意味ですか?
奥様:そうです。
    私:だったらプロではないです。
奥様:じゃ、趣味なんですね?
    私:いや、一応、作家活動しているんです、無名ですけど・・
奥様:はあ~・・・

これは、絵など実用性の無いことをやっている男性に対する、おそらく絵にはほとんど興味の無い女性の典型的な反応ではないかと思います。


夢や希望を語る90歳の男性

「いや、素晴らしい。写真でこんなことができるんですか。」

と、大きくはっきりした声で感想を述べてくださいましたので、いろいろお話をしていると、今年で90歳になられたとのこと。見た目は70代後半に見えるのでお若い秘訣は何ですかとお聞きしました。するとこんな答えが返ってきました、

「若い頃に結核を患いましたので、無理をしないように心掛けてきました。別に長寿の家系ではありませんよ。秘訣は、希望や夢を持つこと、欲を出しすぎて無理をしないことでよ。」




すべてが終わり、後片付けとなりました・・

最終日、来館者がいなくなった段階で撤去作業を開始し、約1時間半ほどで搬出を完了しました。館長はじめ、スタッフ、警備員の方々の親切でさりげなくやさしい心遣いに支えられて、なんとか無事に終えることができました。本当にありがとうございました。

個展の広報用B2ポスター 
 “ 潜る舟 浮く幻 ”


個展での情報

2013年9月下関市美術館・市民ギャラリーにて「潜る舟 浮く幻」

美術館HPより引用;
下関市立美術館は1983年の開館以来、美術を愛するみなさんに親しまれてきました。各方面のご好意を得てコレクションを充実し、芸術文化の創造と振興の場として、開かれた美術館づくりが進んでいます・・・

・・以後、特色・基本方針・活動内容が、誰にでも理解できる簡潔明瞭な言葉で箇条書きされています。


使用情報
良い点は+ 今後の改善点は ? を表記しています

使用料:1日7,420円は普通
使用会場面積:264㎡は十分な広さ
使用会場:趣のある建物と内装 ++++
展示方法:釘、ピンも可能  +
独立可動壁:使用可能 +++
広報活動:チラシ等の広報あり
宣伝用掲示:ポスター・チラシの掲示場所あり
アクセス:JR下関駅から車で15分はちょっと不便 ? 
入場者数:314名

感 想
決して広くない施設ですが、やや高台にあって、手入れの行き届いた庭に囲まれたその外観の簡素な洗練美、入ってすぐに視界に入ってくる吹き抜けの天井の見事な装飾と構造には他では味わえない「典雅な空間美」があり、とても素晴らしく心地よいです。もっと多くの方に知られ、見てもらいたい美術館です。

必ずしもアクセスが良いとはいえず、施設規模も小さいにもかかわらず、常に人の出入りがあって活気があるのは、おそらく地域の市民より親しまれ大事にされていることや、美術館スタッフの方々の日々の努力の成果なのではないでしょうか。

そういえば、個展終了後の撤去を手伝ってくださったスタッフの方は、美術館の館長その人でした。限りのある人員に上下の階級を超えたシフト制を導入した結果なのでしょうが、おそらく学芸員の肩書もあるであろう館長自ら現場作業に参入するということは他ではありえなかったことです(そもそも、他の美術館で館長や学芸員の気配を感じたことは一度もないですが・・)。

この美術館は機会があればまたぜひ利用したいと思いますので、
総合評:A+ 最高評価点!