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小中学生はこれで決まり! とにかく小学館文庫の『坊っちゃん』が読みやすい

 数ある夏目漱石の『坊っちゃん』の中でも、比較的新しい時期に出版された小学館文庫の『坊っちゃん』。おそらくは小学館の編集者の方々が今までに出版されたものを十分に読み比べた上で発行したのでしょう。注釈から解説に至るまで工夫が凝らされていてとても面白く、『坊っちゃん』を初めて読む方にもおすすめしやすい仕上がりになっています。
 今回はそんな小学館文庫の『坊っちゃん』をレビューしたいと思います。 



表紙です

面白いところ1. 注釈が同じページに書かれていて便利

 小学館文庫の『坊っちゃん』を開いてみてまず目に留まるのは、注釈がそれぞれのページの下部に書かれていることです。岩波文庫は巻末に言葉の意味だけ書かれているため、行きつ戻りつする必要がありますが、小学館文庫はその必要がありません。


いちいち巻末に戻る必要がありません。

 もちろん下部に注釈が置かれていることで本文が圧縮されてしまうため、窮屈に感じる人もいるでしょう。この点に関しては賛否が分かれるところでしょうが、個人的にはこの試みはありじゃないかと思います。いちいち読み進めるのを中断して巻末で単語の意味を探すのは面倒ですし、そのページで完結するのはやはり便利です。

 また、小学館文庫の方が新潮文庫や岩波文庫のものよりも文字の線が太く、同じ文庫サイズでも読みやすく感じられます。

面白いところ2. 夏川草介氏の解説が挑戦的

 解説は『神様のカルテ』シリーズでおなじみの、夏川草介氏によるものです。
 夏川氏は14ページほどの解説で、『坊っちゃん』の解釈として主流になっている「勝者は赤シャツで坊っちゃんは敗者」論や、作品の底部に流れる孤独や悲劇性についてわかりやすい言葉で説明したうえで、自身の『坊っちゃん』観を書かれています。

 「勝者は赤シャツで坊っちゃんは敗者」論や作品の悲劇性についてはけっこう難解でちゃんと理解しようとするは大変なので、わかりやすい言葉で説明されているのは親切でありがたいところです。

 そして夏川氏の『坊っちゃん』観がなかなか挑戦的なものとなっていて、

 坊っちゃんはたしかに教職を失った、清も去った。しかし最後の一文まで、坊っちゃんは変わらず坊っちゃんであり続けたということを、忘れてはなるまい。東京に帰った坊っちゃんが赤シャツを退陣に追い込むべく陰謀をめぐらし始めたのならいざ知らず、悠々と教職を棄てて街鉄の技手をこなしている。それを坊っちゃんの敗北とすることは、いささか筋違いというものであろう。「この小説は、哀しい物語だ」などという声を坊っちゃんが聞けば、それこそ「ひとを馬鹿にしていらあ」と、呆れ返るに違いない。

小学館文庫 夏目漱石『坊っちゃん』 『坊っちゃん』を読むということ より

 といった具合に、江藤淳氏平岡敏夫氏の『坊っちゃん』論と対立するものとなっています。

 同じ作品でも読み手によって、ここまで解釈が分かれるのは面白いですね。

小学館文庫の『坊っちゃん』は、初学者にもおすすめの一冊


 以上の2点が、小学館文庫の『坊っちゃん』のいいところとなります。新潮文庫岩波文庫はそれぞれよくないところを2点も上げただけに、ちょっと不公平かなとも思いましたが、やはり小学館の編集者の方々が先行作品をじっくり研究した上で発行されたのか、とにかく読みやすい仕上がりになっています。

 これから読書感想文を書くつもりの小中学生に関しても、小学館文庫の『坊っちゃん』はおすすめの1冊となっています。

 例えばですが、

「『坊っちゃん』の解釈について、勝ったのは赤シャツで坊っちゃんは損をしたという意見があるみたいです。ですが解説の夏川草介さんは、悠々と教師を辞めて街鉄の技手をこなしている坊っちゃんを敗北者扱いするのは筋違いだと言っています。それについて僕はこう考えます~」

 といった具合に話を展開させることができます。こうすることで話の方向性が定まって感想を書きやすくなりますし、文字数も稼げますので、ぜひ試してみてください。
 ということで、私なりにあらすじと登場人物をまとめた上で、読書感想文を書いてみました

 以上で小学館文庫の『坊っちゃん』の感想を終えたいと思います。

 この調子で、残り19冊の『坊っちゃん』のレビューをしていけたらと思います。



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