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My Mind Wanders

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短編小説をまとめました。 有料部分に小銭を投げ込むと、投げなきゃよかったなーと思うような数行のあとがきが表示されるとか。
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2015年3月の記事一覧

お墓でランチ

 春彼岸に訪れた、午後の墓地。

 天候には恵まれていたけれど、人の数はまばらだった。 

 線香の匂いが漂う中を歩いていると、小さな女の子がひとり、サンドイッチを食べていた。

 ストライプ柄のレジャーシートに座り込んで、ふたの開いた魔法瓶からは湯気が出ている。

 場所が墓前であることさえ考えなければ、ピクニックのようだった。

 私は自分の用事をすませてから、依然としてランチを続ける女の子に

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ポレン・イーター

「日曜どこいこっかー」

 学校の帰り道。
 マスクの中で口をもごもごさせているユイは、ただ喋っているだけではないことを、私は知っている。

 花粉症シーズンはアレルギー持ちの人にとって辛く苦しいものだけど、彼女はそうじゃなくて風邪でもなんでもなかった。

 いや、なんでもないことはない。

 ユイは、花粉を食べているのだ。

 もともとはそんな特殊な体質の子じゃなかった。

 二年前、ユイは風邪

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心折設計

「なんか、心が折れちゃった」
「どっち方向に?」
「え?」
「右? 左?」
「どっちでもいいでしょ。なんでそんなこと聞くの」
「反対方向に折りなおしたら戻るかと思って」
「そんなことしても折り目は残るし」
「残るか」
「残るの」
「残り物には福が」
「ない」
「しっかり折れてるねえ、心」
「折れてるんだよ」
「よし、そんな君にいい言葉を授ける」
「なに」
「折れるような物質的な心なんかいらない!」

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枯れ葉ネコ

 物事が明るみに出て、表ざたになり、具体性を帯びて実害を生みだすのは、量の問題だ。

 あなたが毎日寝ている布団にも、実はこんなにダニや埃が! とか、何気なく使っている日用品のあれこれに、実はこんな汚れが! とかは、通販番組でよく目にする光景だけれど、ああいうのも、事実を知るまではそれまでの状態が通常で、量が減ったことを実感することがあったとしても、知らないままであれば、「あるなし」は問題にならな

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