『存在感』
はい、こんにちは☀️
今日も音楽レビュー行って見ましょう!今回ご紹介するのは、”KREVA”の『存在感』です。
KREVAといえば、言わずと知れた邦楽界の大物ラッパーの1人ですね。代表曲は、『イッサイガッサイ』や『音色』でしょうか。
あるいは、伝説のヒップホップグループである。“KICK THE CAN CREW”の方が有名かもしれません。いずれにせよ、邦楽のヒップホップ界隈の黎明期に、先陣を切ったアーティストの1人なのは間違いありません。
私は、日本語ラップ黎明期に物心がついていたわけではないので、開拓者たちの切り開いた時代をリアルタイムで感じてはいないのですが(さんぴんCAMPの記憶がある人とか羨ましい)、米国から始まったヒップホップ・ラップと言うカルチャーをそのまま輸入して流すのではなく、自分たちの母国語、すなわち日本語にて再解釈し、新たなカルチャーとしてお茶の間に広めていった歴史の中にいるグループでした。
"KREVA"の楽曲(今回は便宜上、ソロの楽曲のみで考えます)には大きく分けて2つの時期に分けられます。今回はトラックの製法での区分です。
2004年のソロ1作目『新人クレバ』から2009年のアルバム『心臓』までは"サンプリング"を用いたトラックを制作して いました。そして2010年リリースのミニアルバム『OASYS』から、現在に至るまではすべて自作、打ち込みにてトラックを手がけています。
先ほどちらっと触れた、彼の"代表曲"である"音色"や"イッサイガッサイ"、それに"アグレッシ部"などの世間一般の有名曲は、全てサンプリング期に集中しています。すなわち代表曲は全部、活動初期の作品なのです。ここ、地味に重要です。
また、サンプリング期には、自他共に認める最高傑作であるアルバム『心臓』も残しています。彼のサンプリングの絶技が光る、最終作にして到達点です。知らなければ間違いなく必聴です。サブスクにはないのでCDをゲットしよう!!こっちの時期も魅力たっぷりなんですが、今回ご紹介する『存在感』は後期、つまりトラックが自作になってからの楽曲です。
"KREVA"のトラックの特徴のとしてよく挙がるのが"音数の少なさ"です。JPOP的なゴージャスなアレンジとは、逆の道をゆくような"スカスカ具合"です。本人がインタビューで"音のポケット"と呼称するように、音と音の間の空白を生かした作風となっています。この傾向は、近年ほど顕著で、特に2017年リリースのアルバム『嘘と煩悩』ではスカスカ具合のピークを迎えます。高いラップスキルを持つため、トラックを必要以上に前面に押し出さなくても印象深い音楽が作れることがひとつの理由だと思います。実力者ゆえの余裕、最適化といえるかも知れませんね。
スカスカ路線の一つの到達点『居場所』です。まじで音数が最低限に抑えられています。バックトラックはあくまで骨組み、力強いメッセージをリスナーに届けるための滑走路といったところなのでしょうか。
熱い応援ソングでありながら、"ただただポジティブな言葉を連呼する"ような歌詞ではなく、客観的な説得力がありますね。無気力にダラダラと毎日を過ごしている私にはブッ刺さります。つらい。
余談ですが、この傾向は、2015年の楽曲『Too Many Girls』で共演したトラックメーカー"tofubeats"の影響も大いに受けていると聞きます。(でもこの話ソース、昔に2ちゃんねるでそんなような書き込みを見た気がしたってだけなので、間違ってたらごめんね)
余談に余談を重ねますが、最近チューハイの”ほろよい”のTVコマーシャルで、tofubeatsの『水星』とオザケンの『ブギーバック』のリミックスが流れてて個人的にビビりました。渋谷系に憧れるサブカル層を狙い撃ちですよ。ただ、地味に悲しくなったのが、こういったCMを作ってるマーケティング業界の人々の思う”サブカル感”というものは、それらの曲が流行った地点からアップデートされていないのでは?って懸念を抱いてしまったところですね。
まぁ、有名な曲じゃなきゃ広告に注目してもらえないんで、仕方ないところです。でも、最近のアーティストだってたくさん素敵な曲を生み出しているので、そういう存在とのタイアップも進めてほしいのです。てな感じで業界となんにも関係のない素人がぶつくさ言ってみたわけですよ😩
話がそれましたね。さて歌詞の話に行く前に一旦聞いてみましょう。『存在感』という、インパクトの強いタイトルや、彼の過去の"イケイケ"な楽曲からイメージすると意表をつかれるかもしれません。さぁレッツゴー。
いやーどうしちゃったんでしょうか(笑)
彼ほどの成功者が何を悩んでいるのか。やはりスターにはスターの苦悩や葛藤があるわけですね。個人的に好きな曲が山ほどがある"KREVA"の中で1発目のレビューをこれにしてみたのは、この曲が1番、"リリックや韻がブチギレている"からです。
サウンド的には、このディスク『存在感ep』リリースした当初に流行していた音楽ジャンルである"トラップ"の要素を取り入れていますね。世にあるトラップミュージックの例に漏れず、小刻みなハイハットや重低音が癖になります。そんな中で異質なのはピアノの"物悲しげなフレーズ"でしょうか。この伴奏に合わせた"自省的"なラップを聞かされると気分がどんどん"下へ参ります"ね。
「決定打が出ていない気がした。」このフレーズ面白すぎませんか? "決定打"と"出ていない"で韻を踏んでるんですが、こんな身も蓋もない文章で韻を踏めるのが、恐ろしいです。ラップのことを"ダジャレ"だとか馬鹿にする人がいますが、基本的に"KREVA"のリリックは、親父ギャグ感、ダジャレ感が少ないです。今回の曲はそれこそ、話し言葉そのままに近いです。
またこの節の韻って、踏み方(フロウ)のテクニックによって成せる技なんですよね。本人がたまに披露するラップ講座を思いっきりパクリますが、"決定打"と"出ていない"ってよく考えると別に"全然韻を踏んでない”んですよ。先行するワード、"決定打"に対して後続で掛かってくる"出ていない" を、"けっていだ"みたいに"でっていナイ"って発音することで、我々の耳にはあたかもバッチリ韻を踏んでいるかのように見せかけているんです。(聞いているんだけどね)。
こういったラップの妙技を駆使することで"韻ありき"で無理矢理語尾を揃えたような"ダジャレ感"や”あいうえお作文感”の強いラップから脱却しているのです。
これは2回目のHOOK(いわゆるサビ)に出てくる"代表作がないような"でも同じことが言えます。ラップにおけるテクニックに関していろいろ解説してきましたが、やっぱリリックの内容が危なっかしくて最高です。
最初に"KREVA"の来歴の段階でさらっと触れましたが、確かに最近リリースした曲の中で代表作はありません(私の大好きな曲はいっぱいありますけどね)
最近はコロナでやってないですが、"KREVA"って夏フェスで1番でかいステージでパフォーマンスをしたりするわりに、大衆に知られている曲って、"活動初期の曲"ばっかりです。まさに存在感"は"ある(どころか邦楽界隈でトップレベル)なのに"決定打が出ていない"気がしているのです。いやそれ自分で言っちゃうんかい!って。
この人のセンスがやばいのは、こんなしみったれた内容の曲をエンタメとして、シングルとしてリリースしちゃうところだと思います。これも彼の素直、誠実さを、よく表しています。サブスクやカラオケのデンモクなどで、彼のリリースした歴代の楽曲名を一覧で見て見ればわかりますが、ホントに"直接的なタイトル"の曲ばっかりです。詩的なものは、ほぼありません。ポエム的な作詞の対極、すなわち限界まで"伝わりやすさ"を重視しています。また彼のライミング自体も、ラッパーとは思えないくらい"聞きやすくてハキハキ"しています。惚れ惚れするほどの滑舌の良さです。これが彼の音楽活動における、誠実さというスタイルなのでしょうね。
最後になりますが、去年出た最新アルバム『LOOP END / LOOP START』も今のところ代表曲と呼べるような曲は入っていませんが、完成度が高くて聴きごたえあります。というか、曲のクオリティーがこのキャリアの長さなのに、右肩上がりに良くなっていく、稀有なアーティストだと思います。ですので、少しでも興味があれば、ぜひとも手にとってみて下さい。昔の"イケイケな代表曲"だけ知ってるような方だとイメージとのギャップが大きくて新鮮味があると思いますよ。ちなみに最新アルバムの完全版が明後日(2/16)発売のようですよ。
と言うわけで今回は”KREVA”の『存在感』の紹介でした。
インディーズ系のバンド界隈ばっかり紹介していたので、たまには超メジャーアーティストのレビューも楽しいですね。紹介したい曲はたくさんあるのでまた取り上げるかもしれません。
おしまい