話しかける、話しかけられる(かける、かかる・01)
誰なのか。
このように作品の冒頭で話しかけられると、「誰なのだろう?」と読む人は迷うにちがいありません。
話しているのは誰なのか、話しかけられている相手は誰なのか、と。
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ものいいかける、話しかける、呼びかける、問いかける。
肩に手をかける、相手の顔に息を吹きかける、相手の顔に唾をかける、相手に言葉をかける。
「かける」ことで相手や対象とのかかわりあいの切っ掛けをつくるということでしょうか。
かかわる、かかわりあう、言う、言いあう、話す、話しあう、呼ぶ、呼びあう、問う、問いあう、問いあわす、問いあわせる。
あう、会う、合う、逢う、遭う、遇う。
「あう」という、かかわり合いにいたるまでの切っ掛けが「かける」なのかもしれません。
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話しかけるときには話しかけられる相手がいるとは限りません。いたとしても相手が聞いていない場合もあります。ものが言えない場合もあります。
このことに川端康成は敏感だったと思います。
一方的に話しかける、呼びかけることはよくあります。
森羅万象を相手に、人は名付けたうえで分けていますが、これは一方的な呼びかけであり話しかけである気がします。
人が分ける生き物であるのは確かなようです。
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*はかる:人が苦手な行為。人は、「はかる」ための道具・器械・機械・システム(広義の「はかり」)をつくり、そうした物たちに、外部委託(外注)している。計測、計数、計算、計量、測定、観測。機械やシステムは高速かつ正確に「はかる」。誤差やエラーが起きることもある。
*わける:人が得意な行為。ヒトの歴史は「わける」の連続。分割、分離、分断、分類、分別、分解、分担、分裂、分配、分け前、身分、親分・子分。言葉と文字の基本的な身振りは「わける」。つかう道具は、縄と刃物とペン。線を引き、切り、しるす。
*わかる:人が自分は得意だと思っている行為。「はかる」と「わける」は見えるが、「わかる」は見えない。見えないから、その実態も成果も確認できない。お思いと同様に共有できない。行為や行動と言うよりも観念。一人ひとりのいだく思い込み。解釈、判断、判定、判決、理解、誤解、解脱、悟り。
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切っ掛け、とっかかり、取っ掛かり、取り掛かる、手がかり、手掛かり、手始め、とりつき、とっつき、取り付く、取り憑く。
思いが浮ばないときや、なかなか言葉が出ないときに、とっかかりを求めて言葉を転がしていくと、思わぬものが出てくることがあります。
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かける、掛ける、懸ける、架ける、賭ける、欠ける、駆ける、翔る、駈ける、掻ける、書ける、描ける、画ける。
音だけを重視して転がすと、思いがけない展開になることがあります。
こういうことが「かける」なのでしょう。
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掛詞、歌、唄、謡、詩、詞、譬えといったものでは「かける」の働きが大きいのだろうと想像します。
かけ離れたもの同士をかけてつなぐのです。かけてどうなるかは分からない。その意味では「かけ」です。
かけたところで、それが相手につうじるかも分からない。その意味でも「かけ」です。
かけてかかるかはかけ。宙ぶらりん。宙吊り。
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思いつくままに言葉をならべたり、辞書を見ながら言葉をひろって言葉をつらねていくとき、これは「かける」というよりも「かかる」ではないかと感じることがあります。
人が言葉をつかっているのではなく、言葉が勝手に出てきて勝手にならんでいくような印象を覚えるのです。
かけるというよりもかかる。
言葉の夢、夢の言葉。夢のような言葉、言葉のような夢。人が言葉の夢を見るように、言葉が人の夢を見る。
人は言の場。言の葉が集い、そこで舞いまどう場なのです。
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