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作家ごっこ

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2022年10月の記事一覧

Romance

Romance

「これじゃわからないよね……。ねえ、私と付き合ってみない?」
あいつは黙ったままボケっとしている。
「も~、なんとか言ってよ。はあ……ちょっとお手洗い行ってくる。そろそろ時間だから帰る準備してて」
私は席を立った。
「あっ、そうだ!さっきの告白、オッケーなら今日のご飯代、あんたの奢りね!」
精一杯の笑顔を作った後、私はトイレに駆け込んだ。

鏡に映るのは、珍しくお洒落した私。あいつはちっとも気づい

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浪漫

浪漫

今、僕の目の前には一人の女性が座っている。
僕が恋心を抱いている人だ。

二人きりで食事をするのは初めてではないが、彼女から誘われたのは今日が初めてで、変に緊張している。
いつもは饒舌な僕も今日ばっかりはうまく話せずにいた。

「あんたもさ、そろそろ彼女の一人でもつくったら?」
ふいに彼女が言った。
「今はいいかな、一人の方が気楽だし。それに、人のこと言えないでしょ?」
当然想いは伝えられず、今日

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きこえてくるよ

きこえてくるよ

私は決意した。必ず、かの残忍酷薄な巨人どもに異を唱えなければならないと決意した。

私には、巨人の言葉はわからない。
ただ一つ確かなことは、巨人にとって私たちの命など取るに足りないものだということだ。

私の恩師は巨人に捕まり、何やら怪しげな部屋で、多くの目に晒される中、斬殺された。

私の竹馬の友は、巨人が操る鉄の塊の下敷きになって亡き者となった。

私達の頭領は、若い女の巨人に無理やり持ち上げ

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吐露

吐露

部屋に投げ込まれた洗濯物。
SNSに映し出された垢抜けた知り合いの姿。
孤独を感じるには十分だった。

「辛くなったら、この学び舎で出会った仲間を思い出してください。」
卒業式の定番の挨拶に、当時から違和感を抱いていた。
学校を卒業したこの日から、今の仲間は、「友達」か「知り合い」になるんじゃないかと思った。

学校生活では、共通の想いを持って、ひとつの目標に向かう瞬間がたくさんある。そんな人たち

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僕とあの子と世の中と

僕とあの子と世の中と

「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい。」
小学校の時に習った詩が、今さらながら心に響く。

あの子とは、高校生の時に出会った。
一つ下の後輩だったが、自然と仲良くなれた。

高校を卒業した後も、僕が学校の近くにいると知ると、あの子は授業を抜け出して、会いに来てくれた。
「やれやれ」と思いながらも、楽しそうに話すあの子の笑顔には敵わなかった。

大学生になったあの子と、久しぶりに会

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