キングフィッシュの本場カレー サルディーニャの島ワイン
週末の昼食をフードコート内のインドカレーで。
海外滞在中、どこを行っても冷房が効きすぎていて身体が冷えているからか、香辛料を欲していた。フードコートといっても侮りがたいインド料理屋にはカレーメニューだけで17種ある。大好きなバターチキンに加え、ラム、エビ、チーズ、ジャガイモとカリフラワー、ほうれん草を使ったカレーなど。チキンを使ったものだけで4種類もある。
私がオーダーしたのはアムリトサリ・フィッシュ・カダイ。アムリトサルはインド北部のパンジャブ州の都市、カダイは中華鍋のような形状の鍋を意味するとのこと。アムリトサル風 魚の鍋カレーといったところか。インド人店員さんから辛さはどうしますか?と聞かれ、ミーディアムと答えると、ニヤッとしつつあなたにとってのミーディアムに調整するね、と。インド人にとってのミーディアムと日本人にとってのそれが異なることを分かってるから調整するねという気遣いだろう。後ほど、この気遣いをもってしても、インド人と日本人の辛さ感覚を埋められなかったことに気付かされるのだが笑
材料の魚は何か尋ねるとキングフィッシュと聞いたことのない魚の名前。後で調べてみると、大西洋沿岸に分布するニベ科Menticirrhus属の大型の食用魚の総称とある。ニベ科はその上位分類で、スズキ目スズキ亜目に属す。スズキ亜目にはスズキやサバが属しているので、まぁそのあたりとそう遠くない魚と整理する。
料理が出来上がりカウンターに呼ばれる。
いかにもフードコート的なプラスチックの皿にカレールーとライスが別々に盛られている。もとよりの中東の物価高と円安が重なりこれで約2,000円だ。大ぶりのキングフィッシュがゴロゴロと入っている。
バターのコク、ショウガ、そして口に運んだ直後はそうでもないのだがじわじわと効いて額に汗するスパイスブレンド。さて、これらの脂とスパイスの海に揉まれたキングフィッシュの存在感はどうなるのか。パンチの効いたカレールーに魚の繊細なテイストは気持ちよいほどにバッサリと切られる。そして、感じるのは歯が入るとハラリと幅広の繊維で大きめにほぐれるふかふかとした魚肉の食感、スパイスと脂に負けない魚の奥にある一点の旨味だ。スパイスに谷底に突き落とされ、這い上がってくる旨味への試練のようだ。他の味わいがそぎ落とされた分(スパイスで麻痺させられた分)、この一点を楽しむことに否が応でも集中させられる。素材をすみずみまで楽しむというオーソドックスな調理法に比べ、この異次元のアプローチは新鮮な驚きだがこれはこれで楽しい。
量が多すぎて食べきれなかったのと、これをワインに合わせたらどうなるか気になって、残った半分をホテルにテイクアウトする。夕食時間帯に残ったカレーに白ワインを合わせてみる。
ピエロ・マンチーニ, マンチーニ・プリモ, ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ, サルディーニャ, イタリア, 1,898円
Piero Mancini, Mancini Prim O, Vermentino di Gallura DOCG, 2020, 13.5%
アプリコット、パイナップル、ライチ、パッションフルーツ、グァバ、南国果実が豊かに広がり、しっかりと効いた樽のバニラ香に絡み魅惑の香り、ボリュームは大きいが微かにメントール系、ライムなどの青い色の柑橘香が爽やかに抜ける。
ジューシーな果実味ながらやや抽出量は多いか香りからくるほどの果実の強さは味わいにはない(それでも果実味はしっかり)、鼻腔を抜ける柑橘果皮のビターなニュアンスも相まってややビターなニュアンスを明確に、香りからは想像できないほどしっかりとした酸味もワインにメリハリを与えていて心地よい。
スパイスとコクの豊かなルーに圧倒されつつも、南国系果実香を背骨にしっかりと踏みとどまるワイン。さらに、脂とスパイスの谷間に現れる魚の旨味に、ワインが拡声器のように働き、キングフィッシュが持っている他の風味、ほのかな磯の香りも拾い上げワイン無しで食べるのとは違う世界を楽しませてくれる。サルディーニャの島ワインの潮風の香り、魚介との相性が良いヴェルメンティーノ品種の底力だろうか。スパイスと驚きの調理アプローチに身体が芯から温まった。楽しい驚きも相まって、このペアリングは五つ星としたい。
相性: ★★★★★
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