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「星の王子さま」感想

言わずと知れた名作、星の王子さま。
私がこの本を読んだのは20代後半くらいだったと思う。
名前は知っているけれど内容はよく知らなくて一度読んでみたいと思っていた本だった。

でもいい大人が児童書をそのまま読むのもつまらない気がしたので英語版を選び、辞書を片手に読んでみた。

感想だが、まず最初がまどろっこしい。
物語に引き込まれる前に妙に長々と6歳のころに描いた絵についてだとか大人とのやり取りだとかが語られ、不慣れな英語を訳しながら読むには骨が折れた。
しかし、最初の山場を越えると何とも個性的で魅力的な登場人物たちがあらわれる。そこからは児童書とは思えない面白さに夢中になった。
英語だから理解するまでに時間がかかる。拙い英語力なので精いっぱい想像力を働かせて補いながら読むことで日本語でさらっと読むよりも世界に奥行きが出たのかもしれない。

星の王子さまと言えば、こんな言葉が有名だろう。

「ほんとうに大切なものは目に見えないんだよ」

星の王子さま

大切なものは目には見えないし、言葉にだってしにくいような気がする。

星の王子さまの簡単なあらすじはこうだ。

王子さまは小さな自分の星に住んでいた。少しわがままなバラを大切に育てたり、小さな火山を見守ったりする生活。しかしそんなある日、旅に出ることにする。
そしてゆく先々の星で一癖ある人たちと出会い、別れ、知らなかった世界に触れ、自分にとって何が大切なのかといったことを考えていく。

そんな旅の中で王子さまとキツネが出会って親しくなる流れが純朴で美しい。かけがえのない存在は一朝一夕に生まれるものではない、ゆっくりと時間をかけて築いていくものだと少し胸が焦がされる。

また、たった一つのバラだと思って大切に育てていたあのバラも別の星では群生している大勢のバラの一つに過ぎないと知りショックを受ける王子さまも面白い。しかしそれでもあの小さな星で大切に世話をしたバラはやはりたった一つの大切なバラなのだと王子さまが感じ入るところも良かった。

目に見えない大切なものを大切にしなくてはね、なんて素直に思う。

でも、実は私の印象に一番残っているのはそんな王道ではない。
王子さまがちょっと立ち寄った酒飲みおじさんの星が印象深いのだ。

そのおじさんはアル中だった。
児童書にそんな人物が出てくるのもびっくりするのだが、その描き方がシンプルながら深くていい。

酒を飲むおじさんに王子さまは聞く、なんでお酒を飲むの?
アル中のおじさんは答える、忘れるためさ。
王子さまはさらに質問を重ねる、何を忘れたいの?
アル中のおじさんは答える、恥だ!
王子さまはまた質問する、何が恥ずかしいの?
アル中のおじさんが答える、酒を飲んでばかりで恥ずかしいんだ!

”Shame!"

アル中のおじさんはそう怒鳴っていた。
この ”Shame!" がなんだか真に迫って聞こえた。
堂々巡りの袋小路、その中にいておじさんは恥ずかしいと思っている。
ただ抜け出す道筋が見えないのだろうか。酒を辞めて前に進む勇気や希望をなくしてしまったのかもしれない。それはなんでだったんだろう。

世の中には色んな人生があって、キラキラした成功譚ばかりじゃない。
むしろ上手くいかないことは誰にでもあって、歯車が狂えばアル中のおじさんみたいにアル中である恥を忘れるためにまた酒を飲むという本末転倒で出口のない行動にはまり込むことだってなくはないだろう。

大切なものは目に見えない。
アル中のおじさんが立ち直るために必要な何かも目には見えないし、アル中のおじさんがかつて胸に抱いていた大切なものも目には見えない。

目に見えず語られもしなくてもそれは存在しないわけではないのだけど。

そんな大切なものを心の中に残しておくことは大事なことなんだと思う。

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