「アルケミスト 夢を旅した少年」感想
世界的ベストセラーと聞いて読んでみた本。
この本を読んだのは10年くらい前だったと思う。
心を動かされるタイプの本を読みたいと思っていた時に手に取った。
静かで落ち着いた文章が読みやすかったし、ファンタジックな世界観は子供のころに好きだったロールプレイングゲームを思い出させ、すぐに世界に引き込まれた。
主人公の少年は羊飼い、そしてタイトルにあるアルケミストは錬金術師。
羊飼いだった少年が宝物を求めて旅をし、そして真理を知る。そんなお話。
読んだのは10年くらい前だからあらすじも朧気だけど、印象に残っているシーンがある。
主人公の少年が傷つくことを恐れていると錬金術師に話すシーンだ。
錬金術師がこう返す。
私にはこの言葉がとても刺さった。
この本を読んだ頃、私はこれから起こる変化を不安に思っていたし、その不安の大部分は根拠のないネガティブな予想と悪い方向に物事が進んでしまって打ちのめされる自分というイメージでいっぱいだったからだ。
不安に感じることそのものは仕方のないことかもしれない。
でもこの小説のこの一言がそんな不安に不思議な距離感を与えてくれた。
一体化していた「自分」と「こころ」が少し離れて俯瞰的に自分の不安を見れたような気がする。
後に自分のことであっても第三者的な視点から見ることは有益だと何かで読んだ。
「彼/彼女は落ち込んでいる。彼/彼女はもう努力したって無意味だと思っている」
そんな風に三人称で眺めると自分の主観に引っ張られすぎずに済むと。第三者から見れば落ち込むのは仕方がないが、努力はまた別の場所で実を結ぶことだってあるし、人生がこれで終わるわけじゃないことは分かる。
たぶん、私はこの錬金術師の言葉で不安を感じているのは「こころ」だと切り分けられた。「こころ」は自分ではあるが、感情を擬人化して眺めると怖がりすぎずに前に進める気がした。
こころに一番残ったのはこのシーンだが、他にも随所にいい言葉があった。
いい本なので、いつかまたのんびりと読み返してみたいな。