割れた陶磁器はなんの役に立つ?ゴミだからこそ役に立つ理由とは
普段の生活で陶器のカップや磁器のお皿などを使っている方は多いでしょう。陶磁器が割れてしまったら、どうしますか?割れたら修復できないのでゴミとして捨てる、というのが一般的でしょう。割れた陶磁器が一体なんの役に立つのか、どんな価値をもつというのか。
ところが、割れた陶磁器は意外な価値をもっています。むしろ、割れたゴミだからこそ、価値をもつということもあります。この記事では、その点について明らかにしていきます
なお、この記事は割れた陶磁器のなんらかのリサイクル方法を提案するものではありません。全く別の視点から,その意外な価値を明らかにしていきます。そうすることで、ビジネスや創作などに役立つ発想のタネを提供できればと考えています。
陶磁器の価値
そもそも、陶磁器には、様々な価値があります。まずはそれを確認することが重要です。
第一に、日用品としての価値です。日々の生活を支えてくれる道具としての価値です。
第二に、芸術的価値です。陶磁器の中には、工芸品と呼ぶにふさわしいものがたくさんあります。日本産であれば、やはり有田焼や伊万里焼などが有名でしょう。
海外であれば、ドイツのマイセンなどが主だったものです。有名な話ですが、ドイツのマイセンはもともと中国の優れた陶磁器を模倣することから始めて、次第に発展したものです。
第三に、陶磁器には貿易品としての価値があります。あるいは、端的に商品としての価値といってもよいかもしれません。陶磁器は古くから国際貿易の品になってきました。
上述のマイセンの例であれば、マイセンの陶工が中国の陶磁器を模倣するためには、そもそも中国の陶磁器がヨーロッパに到来していなければなりません。
実際に、15世紀の大航海時代以降、ヨーロッパ人は中国を魅力的な市場とみなし、盛んに国際貿易を行いました。
中国からヨーロッパへの主要な輸出品の一つが陶磁器でした。特に、15−18世紀は青花の磁器が主流でした。
これがヨーロッパ人を魅了したため、ヨーロッパに大量に流入しました。17世紀頃から、このような中国趣味のブーム(シノワズリ)が起こっていきました。
そのため、18世紀初頭にはマイセンのようなヨーロッパの窯元が青花を模倣するに至ったわけです。
ちなみに、日本の陶磁器も同様にヨーロッパに輸出されていました。
したがって、第四に、陶磁器には歴史的価値があります。歴史的価値には、いろいろあります。たとえば、この記事の主要テーマとなる史料的価値があります。あるいは、人類の歴史を理解するのに役立つという広い意味での歴史的価値もあります。
そこから、第五に、陶磁器には観光ビジネス上の価値があります。実際に、ヨーロッパの美術館や博物館には、実に多くの青花の磁器が展示されています。ヨーロッパの王侯貴族がこぞってこの陶磁器を買い集めていたことが理解できます。もちろん、青花以外のものも展示されています。
これらの陶磁器は歴史的価値や芸術的価値をもつので、今日の博物館で展示されているといえます。
この記事の主なテーマ
ここで重要な点として、それらの価値の大部分には、或る大前提があります。それは、陶磁器が壊れていないことです。
たとえば、陶器のお皿が真っ二つに割れていたらどうでしょうか?日用品としては、使い物になりません。工芸品としても通用しません。もちろん、商品にもなりません。
割れた陶磁器は端的にいえばゴミです。ゴミ捨て場行きが決定的といえるでしょう。
ところが、割れた陶磁器は歴史的価値をもつ可能性があります。むしろ、割れているからこそ、史料として役立つ。ゴミだからこそ、歴史的価値をもつチャンスがある。
なぜか?この記事では、それを明らかにしていきます。
陶磁器の特徴と歴史的価値
まず、陶磁器の重要な特徴として、千年以上たっても変質しないことが挙げられます。よって、たとえば千年前に中国南部で製造された陶磁器が現代のアフリカで発見された場合、その陶磁器が千年前の中国産のものであることを正確に判別することができます。
しかも、陶磁器は壊れた破片であっても、そのように判別できます。
よって、陶磁器はかつての国際的な交流ルートの存在を教えてくれる手がかりとなります。陶磁器の製造元と発見場所がわかれば、そこに交流ルートがった可能性が高いといえます。
陶磁器は壊れやすいので、船によって海上ルートで運搬される傾向にありました。よって、遠隔地の海上交易ルートがそこから浮かび上がってきます。
史料としての陶磁器の問題
しかし、ここで一つの大きな問題があります。もし千年前の中国産の陶磁器が思いがけない場所で発見されたとしても、その場所と中国の間で交流があったとは限らない場合もあることです。
たとえば、千年前の中国産の陶磁器が五百年前のアイスランドの遺跡で見つかったとしましょう。中国とアイスランドの間で交流があったかは、それだけでは不明です。
特に、発見された陶磁器が壊れていないものであれば、なおさらです。
なぜか。陶磁器や本などの価値あるものは戦争などによって奪われたり、さらに売買されたりして、ほかの場所に移転される可能性があるためです。
壊れていない陶磁器には、工芸品や商品などの価値があります。特に、遠方からの舶来品であれば、なおさらです。よって、略奪や窃盗などの対象になりやすくなります。あるいは、骨董屋の手にわたって、さらに別の場所へと移転されていきます。
壊れた陶磁器の利点
壊れた陶磁器の利点はまさにこの点にあります。壊れているからこそ、ゴミだからこそ、芸術品や商品としての価値がなくなります。したがって、略奪や売買などの可能性が極めて低くなります。
壊れた陶磁器はゴミ捨て場行きです。よって、そのゴミ捨て場のある地域と製造元の間に、かつて交易ルートがあったと推定できます。
もちろん、壊れた陶磁器は交易ルート上の経由地でも捨てられますので、経由地もわかります。経由地や主な海洋貿易港、内陸の消費地などの交易ルートが明らかになっていきます。
ちなみに、製造元の地域は失敗作が大量にそこで捨てられるので特定できます
かくして、壊れた陶磁器のおかげで、製造元から輸出先までの交易ルートの存在が特定しやすくなります。
古文書の史料との関係
ここで、かつての交流ネットワークは古い文書の史料からでも特定可能ではないかという声もあるでしょう。もちろん、可能な場合もあります。
しかし、古文書が不正確な可能性は常にあります。よって、考古学的史料があったほうがよいといえます。
さらに、古文書が残っていない、あるいは見つかっていないケースもあります。このような場合、割れた陶磁器が、これまで知られていなかった遠距離交流の謎を解く鍵になってくるでしょう。割れた陶磁器には、まだ見ぬ歴史の景色を見せてくれる可能性があります。
割れた陶磁器のビジネス上の価値
以上のように、割れた陶磁器はゴミだからこそ、遥か昔の異文化交流の「動かぬ証拠」になります。そのような史料的価値をもつといえます。
今日において、事実として、割れた陶磁器は博物館で展示されることもあります。たとえば、都市の公立博物館であれば、自分たちの故郷が千年以上前に遠い中国と交流をもっていたことを示す興味深い証拠になるためです。
博物館で展示されているため、割れた陶磁器には観光ビジネス上の価値もあるといえます。その都市に興味をもっている外国人であれば、その展示は興味深いものとなるでしょう。
たとえば、割れた陶磁器の展示によって、ヨーロッパの或る都市と日本の遥かなる交流関係が魅力的に紹介されていたなら、そこを旅行で立ち寄ってみたいと思う方々もでてくるでしょう。
まとめと含意
以上のように、この記事では、割れた陶磁器はゴミだからこそ、遥か昔の異文化交流の「動かぬ証拠」になることを紹介してきました。そこから、割れた陶磁器には、少なくとも歴史的価値や観光ビジネス上の価値があるといえます。
この記事では、割れた陶磁器が「ゴミである」という点に着目しました。「ゴミ」の性質には様々あります。
その中でも、略奪や売買などによって運び出されることがないという性質が史料的価値や観光ビジネス上の価値へと結実しました。これがなにかの発想のタネになれば幸いです。
おすすめ参考文献
佐々木達夫編『中近世陶磁器の考古学』雄山閣, 2023
この記事が気に入ったようでしたら、スキやフォローなどしていただけると励みになります
陶磁器の価値
そもそも、陶磁器には、様々な価値があります。まずはそれを確認することが重要です。
第一に、日用品としての価値です。日々の生活を支えてくれる道具としての価値です。
第二に、芸術的価値です。陶磁器の中には、工芸品と呼ぶにふさわしいものがたくさんあります。日本産であれば、やはり有田焼や伊万里焼などが有名でしょう。
海外であれば、ドイツのマイセンなどが主だったものです。有名な話ですが、ドイツのマイセンはもともと中国の優れた陶磁器を模倣することから始めて、次第に発展したものです。
第三に、陶磁器には貿易品としての価値があります。あるいは、端的に商品としての価値といってもよいかもしれません。陶磁器は古くから国際貿易の品になってきました。
上述のマイセンの例であれば、マイセンの陶工が中国の陶磁器を模倣するためには、そもそも中国の陶磁器がヨーロッパに到来していなければなりません。
実際に、15世紀の大航海時代以降、ヨーロッパ人は中国を魅力的な市場とみなし、盛んに国際貿易を行いました。
中国からヨーロッパへの主要な輸出品の一つが陶磁器でした。特に、15−18世紀は青花の磁器が主流でした。
これがヨーロッパ人を魅了したため、ヨーロッパに大量に流入しました。17世紀頃から、このような中国趣味のブーム(シノワズリ)が起こっていきました。
そのため、18世紀初頭にはマイセンのようなヨーロッパの窯元が青花を模倣するに至ったわけです。
ちなみに、日本の陶磁器も同様にヨーロッパに輸出されていました。
したがって、第四に、陶磁器には歴史的価値があります。歴史的価値には、いろいろあります。たとえば、この記事の主要テーマとなる史料的価値があります。あるいは、人類の歴史を理解するのに役立つという広い意味での歴史的価値もあります。
そこから、第五に、陶磁器には観光ビジネス上の価値があります。実際に、ヨーロッパの美術館や博物館には、実に多くの青花の磁器が展示されています。ヨーロッパの王侯貴族がこぞってこの陶磁器を買い集めていたことが理解できます。もちろん、青花以外のものも展示されています。
これらの陶磁器は歴史的価値や芸術的価値をもつので、今日の博物館で展示されているといえます。
この記事の主なテーマ
ここで重要な点として、それらの価値の大部分には、或る大前提があります。それは、陶磁器が壊れていないことです。
たとえば、陶器のお皿が真っ二つに割れていたらどうでしょうか?日用品としては、使い物になりません。工芸品としても通用しません。もちろん、商品にもなりません。
割れた陶磁器は端的にいえばゴミです。ゴミ捨て場行きが決定的といえるでしょう。
ところが、割れた陶磁器は歴史的価値をもつ可能性があります。むしろ、割れているからこそ、史料として役立つ。ゴミだからこそ、歴史的価値をもつチャンスがある。
なぜか?この記事では、それを明らかにしていきます。
陶磁器の特徴と歴史的価値
まず、陶磁器の重要な特徴として、千年以上たっても変質しないことが挙げられます。よって、たとえば千年前に中国南部で製造された陶磁器が現代のアフリカで発見された場合、その陶磁器が千年前の中国産のものであることを正確に判別することができます。
しかも、陶磁器は壊れた破片であっても、そのように判別できます。
よって、陶磁器はかつての国際的な交流ルートの存在を教えてくれる手がかりとなります。陶磁器の製造元と発見場所がわかれば、そこに交流ルートがった可能性が高いといえます。
陶磁器は壊れやすいので、船によって海上ルートで運搬される傾向にありました。よって、遠隔地の海上交易ルートがそこから浮かび上がってきます。
史料としての陶磁器の問題
しかし、ここで一つの大きな問題があります。もし千年前の中国産の陶磁器が思いがけない場所で発見されたとしても、その場所と中国の間で交流があったとは限らない場合もあることです。
たとえば、千年前の中国産の陶磁器が五百年前のアイスランドの遺跡で見つかったとしましょう。中国とアイスランドの間で交流があったかは、それだけでは不明です。
特に、発見された陶磁器が壊れていないものであれば、なおさらです。
なぜか。陶磁器や本などの価値あるものは戦争などによって奪われたり、さらに売買されたりして、ほかの場所に移転される可能性があるためです。
壊れていない陶磁器には、工芸品や商品などの価値があります。特に、遠方からの舶来品であれば、なおさらです。よって、略奪や窃盗などの対象になりやすくなります。あるいは、骨董屋の手にわたって、さらに別の場所へと移転されていきます。
壊れた陶磁器の利点
壊れた陶磁器の利点はまさにこの点にあります。壊れているからこそ、ゴミだからこそ、芸術品や商品としての価値がなくなります。したがって、略奪や売買などの可能性が極めて低くなります。
壊れた陶磁器はゴミ捨て場行きです。よって、そのゴミ捨て場のある地域と製造元の間に、かつて交易ルートがあったと推定できます。
もちろん、壊れた陶磁器は交易ルート上の経由地でも捨てられますので、経由地もわかります。経由地や主な海洋貿易港、内陸の消費地などの交易ルートが明らかになっていきます。
ちなみに、製造元の地域は失敗作が大量にそこで捨てられるので特定できます
かくして、壊れた陶磁器のおかげで、製造元から輸出先までの交易ルートの存在が特定しやすくなります。
古文書の史料との関係
ここで、かつての交流ネットワークは古い文書の史料からでも特定可能ではないかという声もあるでしょう。もちろん、可能な場合もあります。
しかし、古文書が不正確な可能性は常にあります。よって、考古学的史料があったほうがよいといえます。
さらに、古文書が残っていない、あるいは見つかっていないケースもあります。たとえば、江戸時代初期の日本にトルコの陶磁器が存在していた経緯については、まだ古文書によって明らかになっていないようです。
このような場合、割れた陶磁器が、これまで知られていなかった遠距離交流の謎を解く鍵になってくるでしょう。割れた陶磁器には、まだ見ぬ歴史の景色を見せてくれる可能性があります。
割れた陶磁器のビジネス上の価値
以上のように、割れた陶磁器はゴミだからこそ、遥か昔の異文化交流の「動かぬ証拠」になります。そのような史料的価値をもつといえます。
今日において、事実として、割れた陶磁器は博物館で展示されることもあります。たとえば、都市の公立博物館であれば、自分たちの故郷が千年以上前に遠い中国と交流をもっていたことを示す興味深い証拠になるためです。
博物館で展示されているため、割れた陶磁器には観光ビジネス上の価値もあるといえます。その都市に興味をもっている外国人であれば、その展示は興味深いものとなるでしょう。
たとえば、割れた陶磁器の展示によって、ヨーロッパの或る都市と日本の遥かなる交流関係が魅力的に紹介されていたなら、そこを旅行で立ち寄ってみたいと思う方々もでてくるでしょう。
まとめと含意
以上のように、この記事では、割れた陶磁器はゴミだからこそ、遥か昔の異文化交流の「動かぬ証拠」になることを紹介してきました。そこから、割れた陶磁器には、少なくとも歴史的価値や観光ビジネス上の価値があるといえます。
この記事では、割れた陶磁器が「ゴミである」という点に着目しました。「ゴミ」の性質には様々あります。
その中でも、略奪や売買などによって運び出されることがないという性質が史料的価値や観光ビジネス上の価値へと結実しました。これがなにかの発想のタネになれば幸いです。
おすすめ参考文献
佐々木達夫編『中近世陶磁器の考古学』雄山閣, 2023
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陶磁器の価値
そもそも、陶磁器には、様々な価値があります。まずはそれを確認することが重要です。
第一に、日用品としての価値です。日々の生活を支えてくれる道具としての価値です。
第二に、芸術的価値です。陶磁器の中には、工芸品と呼ぶにふさわしいものがたくさんあります。日本産であれば、やはり有田焼や伊万里焼などが有名でしょう。
海外であれば、ドイツのマイセンなどが主だったものです。有名な話ですが、ドイツのマイセンはもともと中国の優れた陶磁器を模倣することから始めて、次第に発展したものです。
第三に、陶磁器には貿易品としての価値があります。あるいは、端的に商品としての価値といってもよいかもしれません。陶磁器は古くから国際貿易の品になってきました。
上述のマイセンの例であれば、マイセンの陶工が中国の陶磁器を模倣するためには、そもそも中国の陶磁器がヨーロッパに到来していなければなりません。
実際に、15世紀の大航海時代以降、ヨーロッパ人は中国を魅力的な市場とみなし、盛んに国際貿易を行いました。
中国からヨーロッパへの主要な輸出品の一つが陶磁器でした。特に、15−18世紀は青花の磁器が主流でした。
これがヨーロッパ人を魅了したため、ヨーロッパに大量に流入しました。17世紀頃から、このような中国趣味のブーム(シノワズリ)が起こっていきました。
そのため、18世紀初頭にはマイセンのようなヨーロッパの窯元が青花を模倣するに至ったわけです。
ちなみに、日本の陶磁器も同様にヨーロッパに輸出されていました。
したがって、第四に、陶磁器には歴史的価値があります。歴史的価値には、いろいろあります。たとえば、この記事の主要テーマとなる史料的価値があります。あるいは、人類の歴史を理解するのに役立つという広い意味での歴史的価値もあります。
そこから、第五に、陶磁器には観光ビジネス上の価値があります。実際に、ヨーロッパの美術館や博物館には、実に多くの青花の磁器が展示されています。ヨーロッパの王侯貴族がこぞってこの陶磁器を買い集めていたことが理解できます。もちろん、青花以外のものも展示されています。
これらの陶磁器は歴史的価値や芸術的価値をもつので、今日の博物館で展示されているといえます。
この記事の主なテーマ
ここで重要な点として、それらの価値の大部分には、或る大前提があります。それは、陶磁器が壊れていないことです。
たとえば、陶器のお皿が真っ二つに割れていたらどうでしょうか?日用品としては、使い物になりません。工芸品としても通用しません。もちろん、商品にもなりません。
割れた陶磁器は端的にいえばゴミです。ゴミ捨て場行きが決定的といえるでしょう。
ところが、割れた陶磁器は歴史的価値をもつ可能性があります。むしろ、割れているからこそ、史料として役立つ。ゴミだからこそ、歴史的価値をもつチャンスがある。
なぜか?この記事では、それを明らかにしていきます。
陶磁器の特徴と歴史的価値
まず、陶磁器の重要な特徴として、千年以上たっても変質しないことが挙げられます。よって、たとえば千年前に中国南部で製造された陶磁器が現代のアフリカで発見された場合、その陶磁器が千年前の中国産のものであることを正確に判別することができます。
しかも、陶磁器は壊れた破片であっても、そのように判別できます。
よって、陶磁器はかつての国際的な交流ルートの存在を教えてくれる手がかりとなります。陶磁器の製造元と発見場所がわかれば、そこに交流ルートがった可能性が高いといえます。
陶磁器は壊れやすいので、船によって海上ルートで運搬される傾向にありました。よって、遠隔地の海上交易ルートがそこから浮かび上がってきます。
史料としての陶磁器の問題
しかし、ここで一つの大きな問題があります。もし千年前の中国産の陶磁器が思いがけない場所で発見されたとしても、その場所と中国の間で交流があったとは限らない場合もあることです。
たとえば、千年前の中国産の陶磁器が五百年前のアイスランドの遺跡で見つかったとしましょう。中国とアイスランドの間で交流があったかは、それだけでは不明です。
特に、発見された陶磁器が壊れていないものであれば、なおさらです。
なぜか。陶磁器や本などの価値あるものは戦争などによって奪われたり、さらに売買されたりして、ほかの場所に移転される可能性があるためです。
壊れていない陶磁器には、工芸品や商品などの価値があります。特に、遠方からの舶来品であれば、なおさらです。よって、略奪や窃盗などの対象になりやすくなります。あるいは、骨董屋の手にわたって、さらに別の場所へと移転されていきます。
壊れた陶磁器の利点
壊れた陶磁器の利点はまさにこの点にあります。壊れているからこそ、ゴミだからこそ、芸術品や商品としての価値がなくなります。したがって、略奪や売買などの可能性が極めて低くなります。
壊れた陶磁器はゴミ捨て場行きです。よって、そのゴミ捨て場のある地域と製造元の間に、かつて交易ルートがあったと推定できます。
もちろん、壊れた陶磁器は交易ルート上の経由地でも捨てられますので、経由地もわかります。経由地や主な海洋貿易港、内陸の消費地などの交易ルートが明らかになっていきます。
ちなみに、製造元の地域は失敗作が大量にそこで捨てられるので特定できます
かくして、壊れた陶磁器のおかげで、製造元から輸出先までの交易ルートの存在が特定しやすくなります。
古文書の史料との関係
ここで、かつての交流ネットワークは古い文書の史料からでも特定可能ではないかという声もあるでしょう。もちろん、可能な場合もあります。
しかし、古文書が不正確な可能性は常にあります。よって、考古学的史料があったほうがよいといえます。
さらに、古文書が残っていない、あるいは見つかっていないケースもあります。たとえば、江戸時代初期の日本にトルコの陶磁器が存在していた経緯については、まだ古文書によって明らかになっていないようです。
このような場合、割れた陶磁器が、これまで知られていなかった遠距離交流の謎を解く鍵になってくるでしょう。割れた陶磁器には、まだ見ぬ歴史の景色を見せてくれる可能性があります。
割れた陶磁器のビジネス上の価値
以上のように、割れた陶磁器はゴミだからこそ、遥か昔の異文化交流の「動かぬ証拠」になります。そのような史料的価値をもつといえます。
今日において、事実として、割れた陶磁器は博物館で展示されることもあります。たとえば、都市の公立博物館であれば、自分たちの故郷が千年以上前に遠い中国と交流をもっていたことを示す興味深い証拠になるためです。
博物館で展示されているため、割れた陶磁器には観光ビジネス上の価値もあるといえます。その都市に興味をもっている外国人であれば、その展示は興味深いものとなるでしょう。
たとえば、割れた陶磁器の展示によって、ヨーロッパの或る都市と日本の遥かなる交流関係が魅力的に紹介されていたなら、そこを旅行で立ち寄ってみたいと思う方々もでてくるでしょう。
まとめと含意
以上のように、この記事では、割れた陶磁器はゴミだからこそ、遥か昔の異文化交流の「動かぬ証拠」になることを紹介してきました。そこから、割れた陶磁器には、少なくとも歴史的価値や観光ビジネス上の価値があるといえます。
この記事では、割れた陶磁器が「ゴミである」という点に着目しました。「ゴミ」の性質には様々あります。
その中でも、略奪や売買などによって運び出されることがないという性質が史料的価値や観光ビジネス上の価値へと結実しました。これがなにかの発想のタネになれば幸いです。
おすすめ参考文献
佐々木達夫編『中近世陶磁器の考古学』雄山閣, 2023
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