「ソース焼きそばの謎」 △読書感想:歴史△(0022)
B級グルメの代表のひとつであろうソース焼きそばの起源とその歴史について考察する一冊です。ご当地焼きそばが網羅されており便利。
(本記事/ 文字数:約3300文字 読了:約7分)
「ソース焼きそばの謎」
著 者: 塩崎省吾
出版社: 早川書房(ハヤカワ新書)
出版年: 2023年
<趣意>
歴史に関する書籍のブックレビューです。対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。新刊・旧刊も含めて広く取上げております。
※一部、本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください
<構成>
全体は4章構成になっています。大きく言うと2部構成といってもいいかもしれません。
まず前半でソース焼きそばの起源・発祥について考察と解説がされています。次に後半では日本全国にソース焼きそばがどのように広がっていったのかが説明され、また日本各地でバラエティ化したご当地焼きそばなども幅広く紹介されています。
<ポイント>
(1)通説を覆すソース焼きそばの“戦前浅草誕生説”
これまで幅広く語られることが多かったソース焼きそばの発祥である「戦後の大阪闇市」説を覆して「戦前の浅草」説を提示しています。各種の新聞雑誌記事や書籍等の記録を具体的に示しておりたいへん説得力のある見解で歩と感じられます。
(2)日本各地のご当地焼きそばの紹介
ソース焼きそばが日本各地に広まっていくなかで他の料理と同様に各地の風土などを反映して多くのバラエティ豊かな焼きそばが誕生しました。これらを各地の老舗の焼きそばの名店とともに紹介しており、一種のガイドブックのようにも活用できそうです。
<著者紹介>
塩崎省吾
ブログ「焼きそば名店探訪録」管理人。本業はITエンジニア。
国内外1000軒以上の焼きそばを食べ歩き。
リンク先:
「焼きそば名店探訪録」 ※著者運営ブログ
<私的な雑感>
とてもエキサイティングな民俗史の本といえるかもしれないなーという印象です。
料理や食材の歴史を扱う本はほかにも多くありますが、そのなかで特定の料理一品だけ、しかも“ソース焼きそば”というB級グルメに着目してその歴史を読み解く本はめったにお目にかかれないのではないでしょうか。
テーマ上、なかなかプロの歴史学者などが取上げることは難しいと思われ、まさに愛好家たるアマチュアならではの面目躍如と感じます。とくに感嘆したのは単なる私見、体験談や印象論に終わることなく、過去の史料を具体的に洗い出して主張をきちんと裏付けている点です。ここまできっちりとやり遂げるには時間と労力が総統に必要であったと推察でき、頭が下がります。
惜しむらくはソース焼きそばに類似するその他の焼きそば料理(中華の炒麺や焼うどんなど)への言及が少ないためちょっと物足りなく感じるところでしょうか。ただこれは本書に先行する二巻本の電子書籍の下巻で取り扱われているテーマであり、著者もそのように言及されています。いずれ本書の続編として出版されることを楽しみにしたいと思います。
前述しましたが、日本各地のご当地焼きそばとその名店も掲載されていますので、どこかに旅行に行ってちょっと食べる機会を見つけて行ってみたいなーと心そそられました。
ソース焼きそばを通じて日本の庶民の食と料理と生活を面白く知ることができる貴重な一冊であると思われます。
読んでよかったです!
<本書詳細>
「ソース焼きそばの謎」 (ハヤカワオンライン)
<ソース焼きそばはなぜ日本人に愛されたのでしょうか?>
ソース焼きそばはいわゆるB級グルメの代表的な一品であり、カレーライスやラーメンなどと並んで日本人の国民食のひとつと言っても過言ではないかもしれません(すくなくとも普遍的に親しまれている料理とは思われます)。ラーメンと同様にバラエティ豊かなご当地焼きそばの存在はその証左といえるのではないでしょうか。どうしてここまで広く日本人に定着したのか。思いつくままに書き連ねたいと思います(まあ、勝手な印象論です)。
まず、日本人のソース好きという味文化があるのではないでしょうか(ここでの“ソース”はいわゆるウスターソースなどの市販ソースです)。塩でも醤油でもなくソースであったところがひとつのポイントだったのでしょうか。ソースはかつては洋食の雰囲気を味わせてくれるちょっと非日常感のある調味料であり、それを使用することにより料理がお手軽ななんちゃって洋食になるというところが人々の好奇心を引きつけたのかもしれません(焼きそばは本来は中華料理でしょうが)。
また、ソース焼きそばにはある種の特別感や非日常感があるようにも思われます。ソース焼きそばというとやはり祭りや縁日での屋台料理を想起します。普段、私は焼きそばを食べたいとはあまり思いませんし作りもほとんどしません(自分で料理はときどきやります)。しかし祭りなどで屋台に出ていたり、海や観光地に行って屋台の焼きそばがあるとちょっと心引かれます。
大きな鉄板の上で数人分のてんこ盛りの焼きそばが炒められている様子を見るとそのソースの香ばしい匂いにそそられてしまいます。そんな非日常の場での特別感があるように感じます。それは高級や上等ということとは異なる次元での人間の心を引きつける力があるように思われます。子供の頃の体験に紐付く郷愁が思い出が呼び起こされるような感覚でしょうか。
さらに、インスタント焼きそばの存在も無視できないのではないでしょうか。お湯で温めて湯切りして食べるので、けして“焼きそば”ではないと思いますが…。このインスタント食品が日本全国に広まったことで日本人の日常にも広く深く浸透することになったのではないかなーという気がしています。
<備考>
焼きそば (Wikipedia)
<参考リンク>
Web記事/文春図書館 著者は語る (文春オンライン) ※著者インタビュー記事
書籍「焼きそばの果てしなき旅」 (ワニブックス)
敬称略
情報は2023年10月時点のものです。
内容は2023年初版に基づいています。
<バックナンバー>
バックナンバーはnote内マガジン「読書感想文(歴史)」にまとめております。
0001 「室町の覇者 足利義満」
0002 「ナチスの財宝」
0003 「執権」
0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
0005 「織田信忠」
0006 「流浪の戦国貴族 近衛前久」
0007 「江戸の妖怪事件簿」
0008 「被差別の食卓」
0009 「宮本武蔵 謎多き生涯を解く」
0010 「戦国、まずい飯!」
0011 「江戸近郊道しるべ 現代語訳」
0012 「土葬の村」
0013 「アレクサンドロスの征服と神話」(興亡の世界史)
0014 「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」
0015 「警察庁長官狙撃事件 真犯人"老スナイパー"の告白」
0016 「三好一族 戦国最初の『天下人』」
0017 「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」
0018 「天下統一 信長と秀吉が成し遂げた『革命』」
0019 「院政 天皇と上皇の日本史」
0020 「軍と兵士のローマ帝国」
0021 「新説 家康と三方ヶ原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く」
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(2023/10/08 上町嵩広)
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