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「平安王朝と源平武士」 △読書感想:歴史△(0032)
名高い武士と武門たちを幅広く取り扱いながら、それらが最終的に源氏に集約されていく流れの解説が流麗。武士の誕生と発展そして権力奪取までへの道程をその暴力性と血統から分析・考察した一冊です。
(本記事/ 文字数:約5200字、読了:約10分)
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東京国立博物館,Tokyo National Museum『伝源頼朝像(模本)』(東京国立博物館所蔵) 「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-46621)
<こんな方にオススメ>
(1)武士の誕生までの背景・事情や経緯に興味がある
(2)平安時代末から鎌倉時代初期までの源平争乱が好き
(3)武家草創期の武士たちについて詳しく知りたい
<趣意>
歴史に関する書籍のブックレビューです。対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。新刊・旧刊も含めて広く取上げております。
※以下、本書の本旨や核心に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください。
「平安王朝と源平武士 力と血統でつかみ取る適者生存」
著 者: 桃崎有一郎
出版社: 筑摩書房(ちくま新書)
出版年: 2024年
<概要>
古代・平安時代の武士の誕生から説き起こして鎌倉幕府の創立により武家が日本社会の覇権を握るまでのプロセスが精緻に解説されている印象です。
構成は全十三章(序章と終章を含む)です。大きく言いますと4つに分けられると思います。
第1に、序章から第2章までは武士の代表格として源氏と平氏がほかから抜きん出て立場を確保した実情が述べられています。
第2に、第3章から第5章までは平将門の乱をおもな契機に武士の流派や門閥が淘汰されていくプロセスが説明されています。
第3に、第6章から第9章までで源平が摂関政治や院政と強く結びつき各地の受領の地位を占有していき実力を蓄えていくまでの構造が解説されています。
第4に、第10章から終章までで源平に絞られた両者がいよいよ対立を深めつつやがて日本社会の支配権を確立(鎌倉幕府の成立)までが分析されています。
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東京国立博物館,Tokyo National Museum『伝平清盛坐像(写生)』(東京国立博物館所蔵) 「ColBase」収録 (https://jpsearch.go.jp/item/cobas-46514)
<ポイント>
(1)古代から中世初期の数多くの代表的な武士と武家をとりあげて武士の誕生から確立までを分析
源義家や平貞盛など日本史の学校教科書等で取り上げられる著名な武士だけでなくそのほかの源氏や平氏の傍流はもとより藤原系の各流派の武士たちも取り上げて彼らの事績やその後の行く末までも仔細に解説されています。
(2)武家の血統のなかでも母系の血脈も重視しつつ武家の流派を考察
武家や武門を語るときにややもすると男系・父系の血統としての表面上の氏族だけで理解しがちになりですが、著者は母系・女系としてその命脈を繋いでいった武士の流派にもより焦点を当てている点に特徴があるかと思われます。
[著者紹介]
桃崎有一郎
武蔵大学人文学部教授。専門は古代・中世日本の政治史。
そのほかの著作:
「武士の起源を解きあかす 混血する古代、創発される中世」
「室町の覇者 足利義満 朝廷と幕府はいかに統一されたか」
「平治の乱の謎を解く 頼朝が暴いた『完全犯罪』」
など
リンク先:
教員プロフィール (武蔵大学)
![](https://assets.st-note.com/img/1723769392941-veupy1oyLT.jpg?width=1200)
<個人的な感想>
本書「平安王朝と源平武士」は、古代・中世初期の日本に登場した著名であった武士・武家を多く取り上げてそれぞれの流派・血統がどのように淘汰・集約されていき源氏が最終的に一強支配を成し遂げるまでに至ったのか(それが「名目上」であったとしても…)のプロセスを綿密に多元的に検証し考察した著者の自説の展開という印象です。
新書としては350ページ超というややサイズ厚めの長さになります。武士のメインストリームである源氏・平氏(個人的には「平家」という呼び方が好みなのですが…)だけでなく、さほど有名でもない(学校教科書的に取り上げられることがあまりないという意味で)ですが幅広く、当時は強い影響力を誇示していた武士・武家も取り上げられています。そして彼らがどのように集約されつつ”武士”が誕生し確立していったかが論じられています。
武士・武家について、その先天的要素や遺伝的要素に繰り返し言及しているので、その点に注目し重要視している印象を受けます(著者が後天的・環境的要素を否定したり軽視しているわけではないでしょうが)。女系の血統・血脈についても着目しており、一見、男系では没落してしまったかのような一族もけして消えたわけではない(一般的には忘れられがちですが)ことをきちんと指摘している点に特徴があるように感じられました。
複数の論点から論じられる都合上、何度か時系列的な説明を巻き戻すことがあるため、その点で全体像がちょっと混乱してしまうことがありました。「えーと、これってあーいうことだった……よね?」のような感じでしょうか。
いってみれば無法で暴れ者の武装集団がいかに権力と体制に取り込まれ(というよりも「取り入り」というべきでしょうか?)、やがて自らが事実上、最上位の権力・権威そのものとなっていくプロセスが丁寧に幾重にもわたり説明されています。
個人的には、終章で著者が語る、鎌倉幕府の北条家支配への展開がまるでドラマチックな小説であるかのようでもあり、「なるほど!」と納得感もあってとても面白く思いました。
本書「平安王朝と源平武士」でも言及されているとおり、前著「武士の起原を解き明かす」と合わせて読むことで、武士誕生と武士支配確立までの武家の歴史に関する一大ページェントという感想です。
読んで良かったです!
[本書詳細]
「平安王朝と源平武士 力と血統でつかみ取る適者生存」 (筑摩書房)
![](https://assets.st-note.com/img/1723769592561-V6269KLPwg.jpg)
「文化遺産オンライン」収録
(https://jpsearch.go.jp/item/bunka-199111)
<ある種の無血革命(?)としての日本の政治変革>
日本では中華における王朝交代や西欧における市民革命などは起きませんでした。天皇制は紆余曲折はありながらもその成立から現在に至るまでその実態を変容しつつ継続してきました。一説には「現存する最古の王朝」などと呼ばれることもあるようです。
しかしながら実質的には権力主体の交代が何度も起こっていたことは日本史を勉強された方にはよくお分かりではないかと思われます。設立当初から古代有力豪族たちが力をふるい、天皇制が確立した後にも藤原氏による摂関政治、上皇・法皇による院政を経て、武家が幕府により実質的な最上位権力者として支配する体制が固まり明治維新に至りました。
既存の権力・権威・体制が完全に転覆されるような暴力的な大規模な内乱を経ずして(中華や西欧で起きたような”争乱”でまではいえないのでは、ということですが)、既存体制等を利用しながらそのなかで中身が巧妙にすり替わるような交代劇が繰り返されてきたように感じられます。
日本の歴史上、誰もが天皇に替わる地位を得ようとするような”革命”は起こることはなかったといえるのではないでしょうか。そういうことを企んだ者はいたのかもしれませんが、大きな勢力を構成したり広い支持を得て成功することはなかったように思えます。源頼朝、足利義満、織田信長しかり。彼らも天皇に取って代わろう野心があったように言われていた時期もありましたが、現在の研究では「彼らにそのような企図はなかった」という考えが大勢かと思われます。
これは日本の特徴のひとつとも思われます。島国・日本で外敵から攻め込まれにくいという特徴的な地理条件が影響しているのかもしれません。小さくてマージナルな環境のなかで「そうことを荒立てずにうまく解決しましょう」という風土が育まれたのかもしれません。こうして日本においては比較的穏当な形で実質的な権力と体制の移行が行われてきたのでしょうか。
とはいえ、それは別に中華や西欧とは違った何か特別で特殊であったという重大なメルクマールというわけでもないという気もします。日本で起きたように平和的(?)に権力交代が起きることは他にもあったのではないでしょうか。不勉強で恐縮ですが、同様な事象は他の地域や国でもあったのではないかなとも思われます。イギリスにおける名誉革命や第二次大戦後におけるスペインの独裁政治からの民主政移行などは相似的といってもいいでしょうか。
しかし「この先は分からないなー」という気がしてなりません。グローバル化、インターネット等による情報一体化、地理的障壁の低減で、日本の岩盤が根本的にひっくり返るような出来事が起きてもおかしくないのではないかという薄ら寒い気がひんやりとします。もちろんその変化が日本、人類にとって明るい希望に満ちた未来に繋がればいいのかもしれませんが、悲劇的な状況を引き起こすのであれば……。杞憂で終わればいいのですが。
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<補足>
源氏 (Wikipedia)
平氏 (Wikipedia)
武士 (Wikipedia)
保元の乱 (Wikipedia)
平治の乱 (Wikipedia)
源平合戦(治承・寿永の乱) (Wikipedia)
承平・天慶の乱(平将門の乱・藤原純友の乱) (Wikipedia)
<参考リンク>
書籍「武士の起源を解きあかす 混血する古代、創発される中世」 (筑摩書房)
書籍「源氏の血脈 武家の棟梁への道」 (講談社)
書籍「平氏 公家の盛衰、武家の興亡」 (中央公論新社)
書籍「武士論 古代中世史から見直す」 (講談社)
書籍「武者から武士へ 兵乱が生んだ新社会集団」 (吉川弘文館)
書籍「武士とは何か」 (新潮社)
Web記事「歴史学者が語る『源氏物語』の裏面史」 (Real Sound)※著者インタビュー記事
敬称略
情報は2024年6月時点のものです。
内容は2024年初版に基づいています。
<バックナンバー>
バックナンバーはnote内マガジン「読書感想文(歴史)」にまとめております。
0001 「室町の覇者 足利義満」
0002 「ナチスの財宝」
0003 「執権」
0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
0005 「織田信忠」
0006 「流浪の戦国貴族 近衛前久」
0007 「江戸の妖怪事件簿」
0008 「被差別の食卓」
0009 「宮本武蔵 謎多き生涯を解く」
0010 「戦国、まずい飯!」
0011 「江戸近郊道しるべ 現代語訳」
0012 「土葬の村」
0013 「アレクサンドロスの征服と神話」(興亡の世界史)
0014 「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」
0015 「警察庁長官狙撃事件 真犯人"老スナイパー"の告白」
0016 「三好一族 戦国最初の『天下人』」
0017 「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」
0018 「天下統一 信長と秀吉が成し遂げた『革命』」
0019 「院政 天皇と上皇の日本史」
0020 「軍と兵士のローマ帝国」
0021 「新説 家康と三方ヶ原合戦 生涯唯一の大敗を読み解く」
0022 「ソース焼きそばの謎」
0023 「足利将軍たちの戦国乱世 応仁の乱後、七代の奮闘」
0024 「江戸藩邸へようこそ 三河吉田藩『江戸日記』」
0025 「藤原道長の権力と欲望 紫式部の時代」
0026 「ヒッタイト帝国 『鉄の王国』の実像」
0027 「冷戦史」
0028 「瞽女の世界を旅する」
0029 「ローマ帝国の誕生」
0030 「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」
0031 「暴力とポピュリズムのアメリカ史 ミリシアがもたらす分断」
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(2024/09/02 上町嵩広)