紅茶の致死量
目の前の就活サイトに目を凝らす。
やる気を出そうとお洒落ぶってポットで淹れたアッサムのミルクティーが盛大にお腹で暴れている。3杯分も飲んだらそらお腹もびっくりするだろうよ。
私の場合、何か作業をするときは飲み物が欲しくなってしまう。私の場合はそれが紅茶。特に牛乳や豆乳を入れてミルクティーにするのが好きだ。
プルルル。
「はい、」
今日も誰からか分からない電話を取る。最初はご丁寧に電話番号を登録していたが、それももう疲れてしまった。
「…はい、はい、失礼いたします。」
はあ、と意識していないのにため息が出る。
今日も今日とて不採用の連絡がきた。もう何社目だろう、どうしてこうも人生はうまくいかないんだろう、とネガティブな感情が胸をぐるぐるして気持ち悪い。
この前だって、派遣会社の社員と職場見学に行ったとき「実は同い年なんです!」と嬉しそうな顔で言われたことを思い出す。とっさに笑顔を取り繕ったが、こちらとしてはまったくもって嬉しくないし、同世代がちゃんと正社員をしているのを見て生まれるのは劣等感だけだ。
結局そのあとその会社には落ちたし。
あまりにも辛いので私は無能な人間なんだって言い聞かせることにした。
仕事をしないと生きていけないわけじゃない。お金がないと生きていけないのだ。頭が悪い私は、労働をしてお金を得ないと生きていけないのだ。
にもかかわらず、私は無能すぎる。さっさと死んで、生命保険のお金で家族が少しでも楽になるならそれがいい、とも思う。
死ぬときに私に関わった人たちから私に関する記憶が全て消えるボタンがあるのだとしたら、私は心置きなく死ねるだろう。
私をこうして現実に引きとめているのは、私が死んだら私に関わった人たちに迷惑がかかるということだけだ。
すっかり冷たくなった紅茶を飲んでまたはあ、とため息が出る。
紅茶ですら私に冷たいなんて、世も末だ。
そういえばカフェインを摂取しすぎると死亡すると聞いたことがある。紅茶にも入っているだろうが、どのくらいなんだろうか。
でもきっとたくさん飲まないと死ねないんだろう。
死因が「紅茶」なのは少し面白い。冥途の土産になりそうだ。
紅茶の致死量はどのくらいなのか、私はまだ知らない。