かつて友達だった、友達じゃなくなりそうな友達に生返事でさよならの合図
私は、18歳で知り合った友達がいた。
地元の友達ではない。
地元の高校の友達も、皆がそれぞれ進路が別々になって、返信が返ってこなくなった。
そんな中、18歳で進学した学校で知り合ったひとりだけは、今でも付き合いはある。
私の家に泊まりに来たこともあったし、ファミレスも行ったし、お酒も飲んだ。
クラスは違えど、放課後に一緒に遊べる友達がいたのは心強くて、それが毎日学校に行く励みにもなった。
その子は実家暮らしでバイトをしていなかった。
だから毎回、親が学校まで車で迎えに来るところを見ると、ずるいなと少し苛立つこともあったが、それでも、県外に出て初めてできた友達だったので、とても楽しかったのだ。
でも卒業すると、友達は徐々に変わっていく。
私は大学に入学し、彼女は学校近くの物販店に就職。
それなりに厳しい就職活動の話は聞いていたから、次は我が身だと、私も進路について考えていた。
それからは学校で毎日顔を合わせることもなく、たまにファミレスでご飯を食べるだけだった。
私自身も大学生活が忙しく、合間でバイトもしていたので、それどころじゃなかった。
大学4年の春。
私は、就職活動と卒業論文、資格予備校の宿題とゼミの夏休みの宿題が重なって爆発してしまう。
それに加えてバイトもしていたから、時間的な制約もあって、とうとうお金が底を尽きてしまい、そこから仕方なく夜職で働き始めたのだ。
私の周りには夜職で働いている人はいない。
いるかもしれないけど、クラスの大半は男性で、更にその中でも付き合っているペアが何人もいたので、その可能性は低い。
だからまずその子に相談した。
と言うのも、その子は昔コスプレイヤーだった。
「金がない」が口癖だった彼女は、「私が痩せてたらバイトじゃなくて体を売ってだと思う」ということを私に話していたからだった。
最初はその意味が分からなかった。
それはいわゆる援助交際を指す言葉だと思った。
私がその仕事をすることについてどう思うかと聞くと、「やりたきゃやれば?」だった。
私は相当、切羽詰まっていた。
でも夜職なんて勇気も自信もなかった。
厚かましいが誰かに働くお店を紹介して欲しかったし、一緒に働けるものなら働きたかった。
だけどその友達にお金を貸してとは言えない。
親からこれ以上のお金の援助はないし、既に何回も送金してもらって、まだ催促するのはおかしい。
奨学金も親が管理している。
無知で、民間でお金を借りる選択肢は無かった。
だから夜職で働いて、奨学金を全額返した。
食べ物や着る服に困らなくなり、そのまま大手の企業への就職も果たした。
その子から見て私は、そういう話も出たこともあり、「あ、夜の仕事やってんだな」となんとなく雰囲気で分かったのだ。
それから、その友達は数ヶ月に一度、私にLINEで夜職をしたいと相談するようになった。
それが4年間続いた。
働いてみたい。紹介してほしい。
それが最初で、私は彼女から送られた写真をお店に見せて、働きたい子がいると紹介した。
ただやはりメンエスだと厳しいとか、デリでも店の雰囲気に合わないと断られる。
また、これはどの業界にも言えることだが、求人内容と実際は違うのが当たり前。
例えば、「待機保証12万円!」と書いてあってもそんな上手い話は無いだろう。
あっても部屋に缶詰めになって待機するとか、甘い条件ではない。
でも彼女は、誇大広告や詐欺だと思っていなかった。
それを伝えると「何で?」と言われる。
グレーな業界だから、求人数集めの釣りのために嘘を書いてると言うしかなくて、実はそれ以上の理由は私にも分からない。
ただ、「待機したら時給で1万円貰えるんじゃないのか?」と聞かれたことが、なんだか悲しかった。
1年間に数回、別の方と3人で集まる機会がある。
その度に、彼女の話す内容は変わっていく。
最初は、バイトで働いたお金でいつか高いブランドのポーチを買うのが夢と話してくれた。
それが当時、私が夜職を止める言葉のひとつにもなった微笑ましいエピソードだ。
だか日に増して、会話の内容は変わる。
バイトを辞めた話から。
まず、家賃が払えなくて実家に帰る話から始まった。
奨学金1と2種を払えない話、商材系の詐欺にあって80万円借金をしている話、今は年金を止めて払っていない話をする。
しかしまた別の日には、バイトが忙しくて月に20万円入っていたがその使い道に困っていて、
さらに、私がそのとき働いていたバイトを辞めたことを言うと、生活保護を勧められ、そのための受給条件の話をされた。
相当お金に困っているようだった。
聞き流し半分で頷いていたが、その場では夜職の話題は出さなかったものの、後になって「体を売るか悩んでいる」と再び相談がきた。
私はこの「体を売る」という表現が大嫌いだった。
それは不動産なら「家を売る」、飲食やスーパーなら「食べ物を売る」という表現になる。
人の体を売るのはもしかしたら正しい表現だけど、やっぱり生々しくて、誰が聞いても気持ちの良い表現ではない。
「ドラッグストアの薬剤師の仕事」とか「スーパーの品出しのバイト」じゃなくて、ただ「体を売る」としか言わない。
それがいかにお金を稼ぐ最終手段であるかを助長するかのような表現に思えて、私は好きじゃない。
話を聞くと、今のバイトをクビになるから、この先のバイト探しをどうしようというものだった。
だからこそ長々と相談に乗ったつもりだったが、その仕事の良いところを言っても、今なら紹介くらいはできると言っても、やり取りの果てに友達からは
「今、保険の営業の勧誘を受けてるから、それをやる。それでどうにもならんかったら体を売るわ」と。
それなら、なぜわざわざ聞いた〜!!となるわけで
会社の解雇やパワハラに同情すれば、「あなたはクビにならないだけマシだ」と
昔学校でやっていたことや、パソコンを使う事務のバイトを進めると「もう忘れたから無理」と
家族関係が悪いのは、親から離れないとどうしようもないと言うと、「車の送り迎えがないのは嫌」と。
そして次に集まる日程を決めるとき、私は「毎回、自分が関東から関西まで新幹線や夜行バスで行ってるのがしんどいので、遠征も兼ねて東京に来てみないか?もしくは中間地点で会わないか?」と言う。
もう1人からはOKの返信がきたが、その子からは「バイトクビになってお金ないので無理です」と返信を受ける。
さらには仕事のシフトの都合上、この日じゃないと無理ですと言われてしまい、私はカッとなって
「毎回あなたのシフトに合わせて私が仕事を休んで、前日の予定も夜行バスに合わせて、会う場所もあなたの家から近い場所。当日もあなたの親の送り迎えの時間に会う時間を決められる私の都合も考えろよ!本当に相手を思うなら、優先順位は親や彼氏じゃなくて、遠くから遥々来た人に対して、最優先に時間を使うべきでは?そう思わないなら、それはもう相手にリスペクトがない証拠だと思う」
...と返信を送りたかったが、耐えた。
これがただの友達付き合いのお茶会なら、その県に用事がない限り、わざわざ自分のお金と時間を使って新幹線や夜行バスで行かないだろう。
ただこれは、いわゆる社会人サークルのようなものなので、なおさら無性に腹が立った。
そんな人とは付き合わなくていい。
他の知り合い達からはそう言われるものの
私の18歳の思い出の多くを占める人だった友達だ。
だからこそこの人を失うと、若くて今よりもっと未熟だった自分を知る人は居なくなって、さらにその県にすら用事がなくなるような気がして嫌だった。
同年代の友達がなかなかできない私にとって、障害や学歴を理解し合えるからこそ、貴重な人だ。
でも人の見方は変わる。
周りが変わるから自分が変わっていないように見えるのかもしれないし、自分が変わるから周りが変わっていないように感じるかもしれない。
だからそっと離れるのが正解なのかもしれない。
次にその子から現状報告を受けたら、「あ、そうなんだね」の生返事で。
一言で流せる自分のことを大切に。
当たり障りがなくて肯定も否定もしないなんて、もしかすると私も結構酷いことをしているのかもしれないが、損をしないために離れる選択を。
苛立つと、そう言い聞かせている。
友達だったけど、これ以上友達じゃなくなりそうなここが多分ボーダーラインのギリギリだ。
乾いた生返事が、相手からは見えない私のさよならの合図なんだ。