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乳酸のエネルギー利用

前回のnoteで乳酸が産生される仕組み、乳酸が疲労物質なんかではないということを書きました。今回はさらに乳酸が疲労物質どころかエネルギー源としても利用されるということを書きます。理学療法士トレーナー、普段トレーニングをしてカラダを鍛えてる人、代謝の授業が分かりにくいといった学生の方にもタメになればと思います。

逆に代謝の仕組み、乳酸の作られ方、使われ方がバッチリ理解できているという方にはおすすめできる内容ではありません。

乳酸ができる仕組み おさらい

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何度も登場してきているこの図ですが、今回も登場です。

前回、グルコース(糖)を利用してエネルギーを得ようとした場合、その副産物として乳酸が出来上がるということを説明しました。(上の図で青色で囲まれたのが乳酸)

グルコースからピルビン酸までの経路でATPが出来上がる経路を「解糖系」と呼びます。そして、ピルビン酸から乳酸が出来ます。

グルコース⇄ピルビン酸⇄乳酸 

の流れです。(逆方向の流れがあるのはいわゆる「糖新生」と言われるやつのことですが、これは一旦置いときます。)

グルコースは糖ですので、糖が使われるということは運動強度が高い運動を行ったということが下の図からも分かります。

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結果的に乳酸が産生されたということは、運動強度が高く、糖を使ってATPを作ったのだな、と推測できるのです。

LTトレーニングとは

今流行のLTトレーニングとは運動中の血中乳酸濃度を測定して、自分の筋代謝能力を高めようとするトレーニング方法ですが、これも簡単に説明できます。

LTとはLactate Threshold(乳酸性閾値)の略です。閾値とは限界点のようなイメージで、その域を越えると急激に物事に変化が起こるようなものです。

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この図でいうと、この方はランニングスピードを徐々に上げていくと8mph(約3.5m /s)で乳酸値が急激に上がっています。そこの境界点をLT値と呼んでいます。乳酸が急激に血中へ放出される点だと思ってもらえば結構です。このLT値が右にシフトする=LT値を上げる(ランニングスピードが上がっても乳酸値が上がりにくい)ほどパフォーマンスは高いとされています。

でも、どうして運動強度を上げていく中で急激に乳酸値が上がってしまうのでしょうか。

いくつかの理由(ホルモンバランス、筋繊維、エネルギー源…)が考えられますが、今までの話の流れからするとランニングスピードが上がる(運動強度が上がっていく)につれ、が使われていきます。つまり、高い運動強度だとカラダは脂肪を使ったエネルギー供給が間に合わないと判断し、素早くをエネルギー源として使用します。その結果、乳酸が急激に産出されると考えられます。

それでは、乳酸をできるだけ産出しない(糖を蓄えておく)ためにはどうすれば良いのでしょうか。

そのために行うのがLT値を高める、主に筋の代謝能力を上げる、まさにLTトレーニングなのです。

糖はできるだけカラダに温存していた方が、パフォーマンスを高く維持する為には都合がいいのです。

LT値を高めるには?

一つは脂肪を使ったエネルギー代謝を行うことです。

脂肪を使ったエネルギー産生のメカニズムはミトコンドリアの中で行われ、水素酸素が結合することで大量のATPを作ることができます。しかし、デメリットとしてATP産生まで時間がかかるということでした。

LTトレーニングを行うことで高い運動強度でも、脂肪代謝を使ってエネルギーを産出することができます。

つまり、糖を温存して脂肪を使ってカラダを動かすことができれば乳酸値を高めることができます。高めると表現するとややこしいのですが、LT値が高くなるとは上の図でいうとランニングスピードが上がっても血中の乳酸値が上がりにくい(つまりは糖ではなく脂肪で対応できている)ということを意味します。

乳酸を作る筋肉、使う筋肉(速筋と遅筋)

運動強度と筋繊維の関係についてみていきます。ようやく、ここからどうやって乳酸がエネルギー源として使われるかの説明です。

乳酸を作る筋肉、速筋

速筋遅筋という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

速筋は無酸素運動に向いていて、遅筋は有酸素運動で使われるなどと習った方もいるでしょう。正確には無酸素運動という表現事態が間違っているのですが、ややこしくなるので一旦置いときます。

まずは速筋についてです。速筋は別名「白筋」と呼ばれています。

なぜ、白いのでしょうか。それはこのあと説明する遅筋(赤筋)と比較し、ミトコンドリア、ミオグロビンの含まれる量が少ないからです。

ミトコンドリアやミオグロビンは酸素を使ってエネルギーを作るために必要なものです。これが少ないということは速筋は酸素とは別のものを使ってエネルギーを得ているということです。別のものが何かというとご存知、糖(グルコース)ということです。速筋はグルコースからピルビン酸に至る過程(解糖系)の中で素早く作られたATPを原料にしています。

それにより強度の高い運動に対応しています。

つまり、糖を使う速筋は乳酸を作り出すということが理解できたと思います。

乳酸を使う筋肉、遅筋

一方、遅筋はどうでしょう。別名「赤筋」です。なぜ赤いのかというと先程の説明通り、ミトコンドリアやミオグロビンを多く含んでいるからです。

ミトコンドリアと”酸素”は相性抜群です。というかミトコンドリアは酸素がないとATP作りません!

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代謝経路を見直しても、アセチルCoAからTCA回路に入り、水素イオンを取り出して電子伝達系というところで酸素と結合します。

水素と酸素が結合することで水とATPが大量に出来上がります。

いわゆる有酸素運動では、酸素を取り入れながら、このような複雑な代謝過程の中で時間をかけながら大量のATPを作り出しています。だから、有酸素運動は長時間続けることがきるのです。

遅筋はミトコンドリアの中で酸素を取り入れて作られた、大量のATPを使って運動を行っているということです。

ここで遅筋のエネルギー源についてもう少し細かくみていきます。

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ミトコンドリアを多く含む遅筋では、脂肪は重要なエネルギー源です。また速筋で解糖系により作られた乳酸は、再びピルビン酸に戻りミトコンドリアに入っていく経路もあります。そこからアセチルCoA、TCA回路、電子伝達系へと続く経路は遅筋にとって大量のATPを得るため重要となります。

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分かりやすく、まとめると上の図の通りです。

つまり、速筋で作られた乳酸は血中に飛び出しミトコンドリアを多く含む遅筋や心筋に届けれられます。乳酸を受け取った遅筋はそれを再びピルビン酸に戻し、ミトコンドリア内でエネルギー源としてATPを大量に作っているのです。

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乳酸は疲労の原因なんかではなく、遅筋や心筋などのミトコンドリアを多く含む組織の重要なエネルギー源になっているということがご理解いただけたと思います。ちなみに、筋肉は糖の貯蔵はするけど使うのは自分だけだと説明したことがあります。なんか自己中なやつだなと…

そのことを今、謝ります。筋肉は決して自己中なんかではなく、糖を分解し乳酸を通して全身にエネルギー源を送っていたんですね。

ありがとう筋肉♡大好きだよ。

まとめ

お腹いっぱいの内容をまとめると、

・糖は運動強度の高い運動で使われる。

・糖を使うと乳酸ができる。

筋繊維でいうと主に速筋が使われる。(速筋のエネルギー源は素早くできる解糖系から)

LTトレーニングとは運動強度が上がっても乳酸を血中に出しにくくするためのトレーニング。

・そのためにはLT付近でのペース走などが推奨されるが、それは実際、糖ではなく脂肪を使ってエネルギーを作り出そうとしてる。それにより運動強度が上がっても乳酸が産生しにくくなる。

・遅筋はミトコンドリアを多く含み、別名「赤筋」と呼ばれる。

・ミトコンドリアで「酸素」と「水素」を結合させて大量のATPを作っている。

・遅筋はミトコンドリアが豊富な為、速筋が出した乳酸をピルビン酸に戻し、ミトコンドリア内でアセチルCoA→TCA回路→電子伝達系と繋がっていき、大量のATPを作りエネルギー源にすることができる。

・このように乳酸は疲労物質ではなく、ミトコンドリアを通して全身のエネルギー源になる。

・筋肉は「糖」として全身に送ることはできないが、「乳酸」としては全身にエネルギー源を送ることができる。

それでは、また次回お会いしましょう。

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