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膝関節を守る「踵骨-下腿運動連鎖」の役割とは?

膝関節の変性疾患である変形性膝関節症(以下、膝OA)は、加齢や過剰なストレスの蓄積により発症することが知られています。特に、膝に過剰な負担がかかるメカニズムとして、踵骨(かかとの骨)と下腿(すねの部分)の動きの連動性、いわゆる「運動連鎖」の重要性が近年注目されています。

本記事では、膝OA患者と健常な高齢者を比較し、「踵骨-下腿運動連鎖」が膝OAの進行にどのように関与しているのかを解説します。さらに、この知見をどのように臨床や日常生活に応用できるかを具体的にご紹介します。



運動連鎖とは?—そのメカニズムと役割


運動連鎖とは、身体の一部の動きが他の部位に連動して伝わるメカニズムを指します。踵骨-下腿の運動連鎖では、かかとの内側回旋(回内)や外側回旋(回外)の動きが、下腿の回旋運動(内旋・外旋)を誘発します。この連鎖は、以下の役割を担っています。

1. 膝関節への負担軽減
踵骨の動きがスムーズに下腿へと伝わることで、膝関節へのストレスが分散され、衝撃吸収が効率的に行われます。

2. 膝関節の安定性向上
適切な運動連鎖が働くと、膝関節の配列が整い、膝の安定性を保つ筋や靭帯の負担が軽減されます。

3. 歩行や立位時の効率的な動作
この連鎖が正しく機能することで、立脚初期の膝内反ストレス(Lateral Thrust)の発生を抑え、歩行や立位時の動作が滑らかになります。



実験の概要と対象者の特徴


今回の研究では、以下の方法で「踵骨-下腿運動連鎖」の動態を調査しました。

対象者
• 膝OA群: 5名(両側の膝関節に症状がある方3名、片側に人工膝関節を持つ方2名を除外し、8肢を測定)
• 健常高齢群: 29名(58肢)


測定方法
• 三次元動作解析システムを使用して、踵骨回内外と下腿回旋の角度変化を計測。
• 立位での両足の能動的な回内外運動を測定対象とし、踵骨と下腿の動きを一次回帰式で分析。
• 測定項目には、踵骨回内外に対する下腿回旋角度の比率(連鎖比)を用い、運動連鎖の指標としました。


結果—膝OA患者の運動連鎖の特徴


1. 連鎖比の違い

膝OA群の連鎖比は 1.5 ± 0.6 で、健常高齢群(1.0 ± 0.2)に比べて有意に高い結果が得られました。このことは、膝OA患者では下腿回旋が強調された運動連鎖が生じていることを示しています。

2. 足関節背屈角度の影響

膝OA群では、計測時の足関節が平均 7.1 ± 2.5度 背屈しており、健常高齢群(0.4 ± 3.0度)よりも有意に背屈位でした。この背屈位が踵骨-下腿運動連鎖に影響し、連鎖比が大きくなったと考えられます。

3. 膝関節機能との相関

膝OA患者では、以下の膝関節機能と連鎖比に有意な相関が見られました。
• K-L分類(重症度評価): 正の相関(rs=0.85)
• 足関節背屈可動域: 正の相関(r=0.71)
• 膝関節伸展可動域: 負の相関(r=−0.82)


考察—運動連鎖が膝OAに与える影響

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