【戯曲】或る死者の日/盲目
わたし
母
父
おじいちゃん
知らない人
五人 机を囲んで食事
わたしと知らない人は向かい合っている
わたし「今日ってお盆だよね?」
父「そうだよ」
わたし「そうだよね。それでお盆っていうのは、死んだ人が帰ってくるんだよね?」
母「そうよ」
わたし「うん。それで、去年死んじゃったおじいちゃんが、そこに座ってるのは、別に不思議じゃない。理解できる。問題はその隣。……。お前、誰だよ?」
母「……。わたし?」
わたし「違うわ。左の人だよ」
母 父を見る
父 わたしを見る
わたし「だからわたしから見て左。おじいちゃんの右」
父・母 おじいちゃん
知らない人を見る
おじいちゃん
「あ、この人?」
わたし「そう。その人知らない人だよね?」
父・母・おじいちゃん
「知らない」
わたし 食い気味に
「だよね?知らない人だよね?わたしおかしくないよね?」
父・母・おじいちゃん
口々に
「そうだよ」
「合ってる合ってる」
「おかしくない」など
知らない人 黙々とご飯を食べ続けている
わたし「アンタも黙々と飯を食うな!」
父「おい。女の子が「飯」なんてはしたないぞ」
わたし「だって~!この人、わたしのから揚げも食べちゃったんだも~ん」
知らない人 わたしを一瞥してからから揚げを食べる
わたし「ほら、食べた!」
母「ちょっと落ち着きなさいよ。アンタ」
わたし「逆に何で落ち着いていられるの?知らない人なんでしょ?」
母「でも、父さんが連れてきた人だから、ごちそうしないわけにもいかないでしょ」
わたし「え、おじいちゃんが連れてきた人なの?」
父・母・おじいちゃん
「そうだよ」
わたし「……。何で?」
おじいちゃん「何でってそりゃあ……」
知らない人を見る
知らない人「あ、じゃあここは僕が……」
父「あ、初めて喋った」
知らない人「あ、はい。喋ります。僕が、おじい様と出会ったのは、街のはずれの天文台の方です」
わたし「天文台?」
母「あれがそれよ」
と言って窓の向こうを指さす
わたし それを見て
「うわ~。凄く遠い」
父「でも、どうしてそんなところに?」
知らない人「実は僕には帰る家が無くて、街を彷徨ってたんです。天 文台の近くには墓地があり、たまたまお盆ということもあり、他の人もそれぞれの家に帰っていくところでした。その時、おじい様に「ウチへ来ないか」と声を掛けられて……」
おじいちゃん「というわけなんだ。まあ、いろいろ気になるところはあるかもしれんが、あんまり聞かねえでやっとくれ」
わたし「なるほど。まあ、そういうことなら……」
知らない人「良いんですか……?」
わたし「だって家無いとか聞いちゃったら、もう強く言えないじゃな~い!」
知らない人「ありがとうございます!」
おじいちゃん「良かったな!」
母「良かったら、来年もいらっしゃってください。歓迎しますよ。ねえ」
父「そうですよ。ごちそう作って待ってますから」
母「作るのはわたしですけどね」
父「そうだったな」
わたし・父・母・おじいちゃん
ひとしきり笑う
知らない人 暗そうな顔
おじいちゃん 知らない人の暗そうな顔に気づいて
「どうかしましたか?」
知らない人「それはとても嬉しいお話なのですが、来年は来れるかどうかはまだ分かりません」
父「……それはどういう意味です?」
知らない人「実は私、貯金が底を突いてしまって、食べる物に困っていたんです。そんな時おじい様に声を掛けられたものですから」
わたし・母・父・おじいちゃん
しばらくの沈黙
そして驚く
暗転
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