【短編集】1 砂漠の飛行機/誰かいる宇宙
これは、2020年3月~4月にかけて執筆した短編集『誰かいる宇宙』の2篇「巻頭歌」と「砂漠の飛行機」を再掲したものです。(2024年5月27日)
巻頭歌
ぼくときみとのあいだには
とんでもないほど距離がある
異星間交流
無重力な空間に
ケーブルを敷こう
言葉は宙を浮きつ沈みつ
あぶくとなってとけていく
そうだ、言葉を勉強しよう
モノクロコピーの語学本が
色づいて見える
その時間がふたりを
運命の人にしていくのだから
ねえ、教えてよ
きみの星の言葉を
ねえ、教えてよ
あの赤い花の名前を
ねえ、教えてよ
ぼくらが会えるそのときを
砂漠の飛行機
砂漠にひとり、旅人が歩いている。旅人は緑色のマフラーをつけている。しばらく歩いて、立ち止まり、誰へ向けてとも言わず、話し出す。
旅人「砂漠の昼はとても暑い。なにも遮るものが無いから、昼間はとにかく地面が熱い。熱がどんどんこもっていって、足の裏が焼けている。空気が乾燥しているから、雲なんかできるはずもねえ。まあそのおかげで、百点満点の青空を楽しむ余裕もねえ。とりあえず暑い」
旅人「見ての通り、私は旅をしています。それなりに長い間旅をしていますが、正確な期間はもう分かりません。だって星と星の間にはものすごい時差があるから。だからもう……」
時間を計算する。
「完全に時差ボケしています。今何時何だ?」
腕時計を見る。
「……。あ、この時計じゃない」
反対の腕の時計を見る
「アア、十四時か」
旅人「なぜ旅をしているか? それは……本当の自分を探すため。なんかじゃなくて、ただの趣味です。そう。なんの予定も組まずに、行き当たりばったりを楽しむ。それが旅というモンです。予定を組んじまったら、それは旅行になっちまいます。私はツーリストではなく、あくまでトラベラーでいたいんです。そうそう。ツーリストと言えば、ついこないだまで私、釣りが好きな人のことを言うんだと思ってました。アレ違うんですねえ。非常に恥ずかしい思いをしました。私、釣りが好きなんですけど、履歴書の趣味・特技の欄に「ツーリング」って書いてしまいました。アッハッハッハ。そしたら面接官に言われたんです。「ということは二輪免許はお持ちのはずでは?」免許は持ってません。大人ってえのは、全く話が通じねえ。そのくせ分かったふりをする」
旅人 落語家のように子どもと父親をやる。
子ども「お父さん。どうして空は青い色をしているの」
父親「お、良い質問だなあ。それはな」
子どもに耳打ち。
子ども ものすごい笑顔で
「へえ~!」
旅人 元に戻って
「なんて罪深いんでしょうか。まあでも、知ったかぶりする気持ちもよ~く分かります。私も「ツーリング」の件がありますから」
旅人 「よく「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」なんて言いますが、あれペナルティーがデカすぎませんか? もう聞くタイミングを逃したら、烙印を押されますからね。私なんてもう「恥」ばっかりですよ。「旅人失格」ですね。まあ、ペナルティーがデカい繋がりで言えば、鳴いてほしいときに鳴いてくれないという理由だけで殺されるホトトギスもなかなかかわいそうです。トホホギス、です。でも「雉も鳴かずば撃たれまい」とも言いますから、鳥はみな等しくそういう運命なんじゃないかと思います。頑張って! ……。何をどう頑張るのか分かりませんが、まあ、何とか生き延びてもらいましょう」
旅人 「ちょっと喋りすぎましたね。喉が渇いてきた。えっと井戸、井戸……」
アメリカのテレビショッピングのように
「皆もこんな時あるよねえ。でも大丈夫、こんな時はそう」
鼻を指さして
「ものすごくよく利く鼻。これさえあれば砂漠のどこにいたって」
膝をついて地面の臭いを嗅ぐ。
「このように地面の臭いを嗅いで、地下水脈を辿っていけたらなあ」
元に戻って
「分かりません」
小声で
「やんなきゃ良かった……」
旅人 「あっついなあ……」
首に巻いてあるマフラーをパタパタさせる。
マフラーに気付く。
「ア。でもこのマフラーは外すわけにはいきません。おじいちゃんから貰った大事な物なんだ……。まだ生きてるけど」
旅人 「今から水を探します。この砂漠のどこかにオアシスがあると思うので」
オアシスを見つける
「ア、見つけた! 水が湧いてる」
オアシスに駆け寄る
膝をついて水を掬おうとする
「おっと手が滑ったー!」
途中で手がマフラーに引っかかり、マフラーがオアシスに中へ放り投げられる(というマイム)
「アア……」
旅人 泉の女神になる。
女神「あなたが落としたのはこの金のマフラーですか? それともこの銀のマフラーですか?」
旅人「イエ、私が落としたのは、ボロッちいマフラーです」
女神「あなたは正直者です。褒美にこの金と銀とボロッちいマフラーをあげましょう」
旅人 受けとる。
女神「ゴボゴボゴボゴボ……」
旅人 受けとったマフラーを見て
「いらねー! マフラー三つも使わねえだろ! とならないようにあらかじめマフラーは外しておこう」
マフラーを外して頭に巻いてターバンのようにする。
「えっと、鏡、鏡……」
オアシスを見つける。
膝を着いて、水面を覗く。
水面に自分の顔が映る。
「すっげー。シルク・ドゥ・ソレイユ・ロードみたいだ」
水面を鏡にしてターバンの左右を確認する
「へえ。こうなってんだ。……。意外と似合うんだな。……。アッ、水だ」
水を掬って飲む。
「ウン。ちゃんと水だ。良かった、良かった。」
言いながら立ち上がる。
すると遠くの方からブウウウウウゥ~ン! とエンジンの音が聞こえてきた。旅人はその音の大きさに驚いてしまい、後ろを振り返った(観客に背中を向けるかたちで)。すると遠くの空にものすごい速さで飛ぶ飛行機を見つける。
旅人 「ア、飛行機」
またエンジンが唸った。今度はこちらの方へ飛んでくる。強風が吹きあれ、砂埃が舞っている。旅人は目を守るため、腕で顔を覆う。エンジンの音が小さくなって、通り過ぎていったことが分かると、顔を上げる。旅人は通り過ぎて行った飛行機を探して、また後ろを振り返る(観客の方を向くかたちで)。
さっきの飛行機は地平線へ向かって飛んでいく。
旅人 「ものすごいスピードだ。もう見えなくなっちまった」
アメリカのテレビショッピングのように
「皆もこんな時、あるよねえ。でも大丈夫、こんな時はそう」
右手でOKマークをつくって、右目でそれを覗いた。
「スコープ・アイ」
口調が特撮のナレーターのようになる。
「説明しよう! 私はある程度の距離があっても、ある程度のモノは見ることができる千里眼の持ち主なのだ!」
スコープ・アイで遥か遠くの飛行機を見つめる。
「あれ、墜落してる。……。助けなきゃ」
じっと飛行機を目線で追う
「あ、開いた! 王様! 空から男の人が!! ああ、えーっと、えーっと……」
受け止めようと落下地点を見定める
「よっと」
空から降ってきた男をしっかりと受け止める。
「あっ、ドウモ……」
後方で飛行機不時着。音に驚いて振り向く。
暗転
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