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#30 動作の原則

6 動作の原則

 これまで見てきた、人間の構造から見た効率的な身体の使い方をまとめますと、
 「自身の身体にかかる重力(重心移動や遠心力、荷重等によって生じる負荷の総称)を胸腰椎移行部に受け入れ肩甲骨、骨盤、胸腰椎移行部を連動させ、体幹部の筋群の張力を引き出すことで生じた力を股関節、肩関節の螺旋の動きによって末端部に伝える。」
ということになります。

 力を発揮するには先ず負荷を受け入れる必要があります。何もない「0」の状態から筋力を発揮するのではなく、力を加える対象物の負荷、重量を一度、胸腰椎移行部に受け入れることで自然発生する力を待つ必要があります。
 待つことによって、必要とされる分だけの力が対象物に対して真っ直ぐ伝わるのです。

 写真1
 例えば、動きそうもない重いものを押して動かそうとした場合、0から力を加えると写真のように壁に対して真っ直ぐ押すことになります。

写真1 水平に押す。

 この時、重心の移動の方向が水平方向なため、壁に対して大きな力を加えることができません。 70Kgの人が寄りかかる分だけの力しか加えることができません。                

写真2
 動かない物の負荷を受け入れるには、自重を利用します。いきなり押し込むのではなく、寄りかかった自分の重さを肩甲骨で受けます。

体幹部がしなり、つっかえ棒のように壁と地面の間に入り込みます。

 胸腰椎移行部と骨盤が連動し重心が斜め前方に移動します。体幹部がしなることによって、壁と床に身体が挟み込まれようになり、より大きな力で壁を押すことができます。 
 つっかえ棒のように力を逃がすことなく力を加え続けることができます。

 このように、何もない0の状態から100の力を発揮するのではなく、負荷(写真の場合は自身の体重)を受けることで体幹部の力を引き出し、身体の軸を負荷に対して真っ直ぐ合わせることができます。結果として余分な力を使うことなく、効率的に対象物に力を加えることができます。
 面白いことに、大きな力が必要な場合ほど、力んで力を積極的に加えるよりも、力を抜いて負荷を受け入れた方が大きな力が出るという逆転現象が起こります。

 力を抜いているのに大きな力が出せ、疲労せず、なおかつ身体への負担も少ない。一流アスリートや武術の達人のパフォーマンスの秘密はここにあるのです。
 
 ここまでが、利重力身体操作法の動的動作編の基本になります。
 スポーツや日常動作につなげていくには、この基本的な動作を応用させていく必要がありますが、基本を理解することは大きな意義があります。基本を履き違えてしまうと、土台のできていない場所に建物を建てていくようなものです。大きなものを作れば作るほど自身の大きさ、重さによって土台から崩れてしまいます。

 しかし土台がしっかり固まっていれば、どんな形の建物でも、どんな大きな建物でも立てることが可能です。競技やスポーツに取り組む子ども達にとって、これほど重要なものはありません。
 動作の原則と感覚が理解できれば、一流アスリートへの道を子ども達に明確に示すことができるのです。

 現在、アスリートとして活躍している選手達の中にも土台が抜けていると思われる場合が多々見られます。しかし、抜けている土台の部分を埋め合わせることができれば、更なるパフォーマンスアップが可能になります。
 特に真新しいことに取り組まずとも、土台を見直すことによって、まだまだ伸びしろを見出すことができるのです。
 
 ここで大事になるのが、見極めです。
競技動作を見る場合、動作の原則に基づいているかを見極めるには
1・「筋肉」の動きではなく、「骨」の動きを見る。
2・筋肉の「収縮力」ではなく「張力」で考える。
 この視点が必要になります。

 特に、スポーツやトレーニングを指導する立場にある方々は身体メカニズムに基づいた姿勢、動作の原則と感覚を理解した上で、動きを見ることができないと全くの見当違いになってしまう恐れがあります。

 見当違いというのは、「感覚」と「理論」のズレです。
 アスリートの「運動の感覚」と「解剖学、運動学的知識、トレーニング理論」とのズレ、分かりやすく言うと、トレーニングの効果が、実際の競技の結果につながらない。という現象を言います。

 競技にウェイトトレーニングは必要か?
 最近よく話題にあがります。
「そんなに筋肉付けたら、動きが悪くなってしまうよ!」とか
「いやいや、海外の選手に対抗するにはフィジカル!
 絶対的に筋力、パワーが足りない!ウェイトトレーニングは必須!」など耳にします。
 どちらが正解でしょう?
 これは、どちらも正しく、どちらも間違っています。
 正しく言うと、論ずるべき基本的なポイントが抜けてしまっています。

 この基本的なポイントが「正しい姿勢、動作の原則、感覚」です。
 ここまで見てきたように、競技で必要とされる動作は、洗練された機能的で効率的なものです。それは、肘や膝などの一つの関節を使い仕事をさせるのではなく、全身動作、つまり体幹部、四肢の「連動」によって動くことが重視されます。
 
 一方、ボディビル系のウェイトトレーニングで求められるのは、いかに単体の筋肉に負荷をかけて追い込むか。
 追い込むことで標的の筋肉を大きくし筋肉の収縮力を上げることを目的としています。
 つまり、一つの関節を一方向に反復して動かすことになります。
 「連動」とは真逆の使い方になります。
 人間は、同じ動きを反復していくと、運動を司る小脳に動作情報が送られていきます。
 すると、今まで記憶していた運動の情報を新しいものに上書きしてしまいます。
 とっさに出る無意識の動作は、このように小脳にインプットされることにより発現します。

 ただし、正しい動作を覚えさせれば、の話です。
 もし、悪い動作を繰り返してしまうと上書きされてしまい、ボールに当たらなくなります。
 同様に、競技者が、連動性を無視した単体の筋肉を追い込むトレーニングを続けると競技で発揮されるべき連動性が失われ、体幹部の出力ではなく末端の単体の関節の動きが咄嗟に出てしまい、パフォーマンスを下げてしまいます。

 考えてみれば当然です。 
 スポーツ、競技とは、筋肉に極力負担をかけないで効率良く動き続けることが重要です。
 単体の筋肉に負荷がかかるような動き、あるいはトレーニングは、スポーツ、競技には向いていないのです。

 では、ウェイトトレーニングは不要か?
 いえ、
 スポーツ、競技のパフォーマンスを上げるには、筋力、パワーは、やはり必要です。

 では、どうしたらいいのか?

 次回、「競技にウェイトトレーニングは必要か否か?」結論を出します!
    ここまでお読みいただいた方はお分かりでしょう。
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