古参社員に自分の経営方針をわかってもらえない――どうすれば?
今回の相談は「古参社員に自分の経営方針を浸透させるのが難しい。どうしたら良いのでしょうか」。東京都八王子市で機器メンテナンスを営む40代の後継ぎ社長さんの「お悩み」です。
リファラバの「自分と自社の深掘りプログラム」のナビゲーター、未来デザイン経営の先駆者、郡司成江さん(ビューティアトリエ代表)が答えます。
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に課題を感じている方々にお薦めです。
▼ 自分と自社の深掘りプログラム「郡司成江の逆算から始めよう」
毎日のように湧き出してくる困り事や悩み事。でも、相談できる相手が見つからない……。そんなファミリービジネスの経営者、後継者の方々は少なくないと思います。「みんなの経営相談」は、リファラバのナビゲーターや、ファミリービジネスへのサポート経験が豊富な専門家たちが、皆さんの困り事や悩み事に一つ一つ親身になって答えていきます。
まず社員さんの話を聞いてみる
まず、その古参社員さんが、会社のことを今どんなふうに考えているか、何か不満を感じているのかどうか、これからどうしていきたいのかを確認する時間を作れると良いと思います。社長さんご自身の思いや経営方針を伝えたい気持ち、その大切さはとてもよくわかります。でも、その前に古参社員さんの心情を聞き取ってみてはいかがでしょう。
古参社員さんは、恐らく社長が変わって不安を感じていることでしょう。これまでのやり方が変わってしまって、自分はもう必要とされないのではないか。ひょっとすると、クビになるかもしれないと思っているかもしれません。一方で、よそよそしく見えたとしても、全部ではないまでも会社を変えていくことに賛成したい気持ちがあるのかもしれません。
どんな人間関係でも、相手の話を聞かないうちに「自分の話を聞いて」と言っても、なかなか受け入れてもらえないですよね。ですから、社長さんがまず話を聞くことで、古参社員さんの方も「社長の話を聞きたい」という姿勢になってくれるはずです。
後継ぎ社長の場合、会社をゼロから作るわけではありません。これまで会社をつくってきてくれた社員さんたちがどんな気持ちでいるのか。それを知ることが、特に大切になると思います。
アンケートも良い方法です
社員さん、特に古参社員さんと1対1で話すのはハードルが高いと感じる場合は、アンケートをとる方法もあります。
ビューティアトリエでは、社員たちと年に1回、個別にカウンセリングのミーティングをしています。その時には必ず簡単なアンケートに答えてもらいます。アンケートは数日前に渡すのではなく、直前の5分、10分という短時間で記入してもらいます。
なぜ、その場で答えてもらうかと言えば、事前に渡すと社員が考えすぎてしまって、かえって本心が見えなくなってしまうからです。「いま問題に感じていることは何ですか」と聞かれた時に、「ちょっと人間関係が……」というように、パッと出てきた答えが最も真に迫っていると感じています。
カウンセリングでは結婚や出産などの人生計画を共有してもらい、「今年に入ってここまでの仕事はどうだったか」「これから自分はどうしていきたいか」、そして「会社に感じている不満や意見」を聞き取っています。
「社長のやろうとしていることが理解できない」「会社なんて大嫌い」「すぐにでも辞めたい」という厳しい声が出てくるかもしれません。ですが、ここで怒ってはいけません。
社員の不満の背景には不安がある
多くの場合、社員たちは自分たちの意見を聞いてほしいと思っています。「私の意見なんて聞いてもらえるはずがない」「社長にわかってもらえるはずがない」と思っているから、厳しい言い方になってしまうのです。
「会社を辞めたい」という社員には、どんな不安があるのか、どんなことにつらさを感じているのかを聞き取っていけば、社員さんの心も次第に落ち着いていくことでしょう。
会社への不満の背景には、社員さんたちが抱える不安があります。一方、社長の方も、社員のみんなが自分についてどう思っているか不安を感じている。双方が抱える不安を少しずつ取り除いていくために、お互いがわかり合う時間をつくっていくことが大切です。
注意点は、まず自分が聞くということ。そうすれば「話してみたら、意外に気が合いそうだ」と思ってもらえるのではないでしょうか。
経営方針に「社員の未来」を書き込む
経営方針を社内に浸透させていくには、自分の思いをわかりやすく書いた「経営方針書」をつくるのが良いと思います。社内の不安を取り除くためには、会社の将来像だけでなく、社員さんたちにとっての「未来」を書いていくことが重要です。
その部分が欠けていたり、不十分だったりする場合は、社長さんが「この人と一緒にやっていきたい」と思える社員さんに、「会社の新しいルールを作りたいから協力してほしい」と持ちかけ、1人でも2人でも巻き込んでいきたいところです。
経営方針の核になる部分は、社長ご自身がつくらなければいけませんが、部分的にでも社員さんたちと一緒につくっていければ、その過程で「同志」になれます。最初は1人か2人でも、楽しそうに取り組んでいれば、また1人、また1人と同志は増えていきます。
後継者の方々へ、焦る必要はありません
はじめから社員全員に賛同してもらうことは、正直言って難しいでしょう。私は、母が経営していたビューティアトリエで美容室の店長を務めた後、代替わりをしました。
同じ店舗にいた社員たちからは「ついていこう」と思ってもらえても、他の店舗の社員には「楽しそうにしているけど、何かムカつく」と思われていたようです。実際、社内には「私派なのか、前社長派なのか」という動きもありました。
そういう時に社員たちにはっきり言うべきことは、社長が代わっても会社が目指すゴールは変わらないということ。前社長と現社長の間で違うのは、そのゴールにたどり着くための「やり方」だけなのです。
ですから、「前社長がやってきたことを引き継ぎます。すべてを変えようとは思っていません」と明確に表明した方が良い。そのうえで、ゴールに向かって、今までは電車に乗っていたけれど、これからは時代の流れや効率性も考えて飛行機で飛んでいきましょうと伝えていくイメージです。
とはいえ、どれだけ優れた経営方針を作り上げたとしても、最初から社内に浸透させるのは簡単ではないでしょう。先ほども触れましたが、その前に社内の人と人とのコミュニケーションに時間をかける必要があります。
私は、後継ぎの皆さんに「焦らなくても良いよ」と言いたいです。後継ぎは先代と比べられる場面が多く、自分の力を証明しようとして、「会社のすべてを変えてやる」という思考になりがちです。しかし、「すべてを変える」は、これまで会社にいた社員たちからすれば、全否定されたように映ってしまいます。
後継者が会社に入ったら、最初に自分が一番得意なことをやらせてもらうのが良いと思います。そこで自分の力を証明しながら、仲間作りをしていく。最初はたった1人の仲間かもしれません。それがやがて2人、3人になる。1人から3人になるまでは時間がかかるでしょうが、それが5人になり、10人になると加速がついていきます。
その土台となる社内のコミュニケーションさえできていれば、焦る必要はありません。心配はいりません。大丈夫です。
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