この料理家のレシピが天才すぎる⑳ワンタンの過小評価を考える編/高山惠
私はフリーライターとして仕事をするかたわら、夫と高校生と小学生の子どもとともに生活しています。ありがたいことに原稿などの締め切りに追われる毎日ですが、夜になるととりあえず仕事を切り上げ、台所に立って夕食をつくっています。
そんな自分にとって日々助けになっているのが、SNSなどでみかける「誰かが作った美味しそうなレシピ」。簡単で美味しそうなレシピをみつけては「いいね」を押して、いつでも確認できるようにするのがライフワークとなっています。
ワンタンが好きなのでしょっちゅう作ります
唐突ですが、好きな料理のひとつに「ワンタン」があります。ラーメン屋へ行って「ワンタンメン」があれば必ず注文するし、トッピングにワンタンがあれば心が躍る。ひき肉ベースの餡を皮で包むという基本構造は餃子やシューマイと同じですが、“焼き”がメインの餃子とも、“蒸し”がメインのシューマイとも、食感などが全然違います。
“茹で”がメインのワンタンの皮はつるっとして、餡もよりジューシー。ワンタンメンのようにラーメンなどのスープと一緒に食べるのもいいし、ただ茹でてお醤油などをつけて食べる「皿ワンタン」でもいい。餡は餃子とは違ってひき肉に野菜などを入れなくてもいいので、作るのも実は簡単。私はしょっちゅう作っています。
自分がつくる餡の基本レシピは豚ひき肉、すりおろしたショウガ、塩コショウ、ごま油。これにエビを入れれば「エビワンタン」になりますよ。餃子とは違い、野菜を刻んだりする手間もなく、作りたいと思った時にすぐできるのが魅力です。
なぜワンタンは存在感が薄いのか?
しかしワンタンって、餃子と比べると存在感が全然ないような気がしませんか? 同じ包む系の中華料理「シューマイ」は崎陽軒が有名ですが、ワンタンってそれに代わる象徴的なものがない。ずいぶん不遇なように思えるのです。餃子よりも圧倒的に簡単に作れるし、シューマイのように蒸す必要もない。ただ茹でるだけでも「皿ワンタン」としても楽しめる。スープと一緒に楽しみたいなら市販のラーメンスープを利用してもいいし、鶏ガラスープの素をベースに塩コショウ、醤油などで即席スープを作ってもいいのです。
ちなみにラーメンでも具材としてワンタンはマイナーです。チャーシューはデフォルトでも、ワンタンは亜流。チャーシューを仕込むよりもワンタンを仕込むほうが簡単な気がするのですが……。
とはいえ冷静に考えると、おそらく「包む」という工程が面倒くさいと思われます。でも餃子のようにヒダを作らなくてもいいし、シューマイのように形をキレイに整える必要もあまりありません。ワンタンはとにかく肉を皮に置いて畳めばいい。餡の量も少なめで大丈夫なので、はみ出ることもありません。とにかくやってみてほしい。畳むだけでいいんです!
そしてたっぷりのお湯でゆでて、ごま油をかければ「皿ワンタン」の完成。こんなに簡単なのに、なぜこんなにマイナーなのでしょうか。
ワンタンの存在感をアップさせるには?
ワンタンの存在感をアップさせるにはどうしたらいいのでしょう? 手っ取り早く思いついたのはメディアなどを使ってブームを仕掛けることですが、あいにく私にはそんな力はありません。
その一方でふと思ったのは「なぜ餃子はこんなに人気があるのか?」。中国由来というのはワンタンだって同じことですが、大きな違いは地域性があることでしょうか。中でも功労者といえるのが、餃子で町おこしに成功した栃木県宇都宮市。こちらの「宇都宮ブランド」のサイトに餃子で町おこしをした経緯が書かれていますが、市内に「宇都宮餃子会」が発足されたのは1993年だそう。もともと宇都宮市は餃子の購入額が日本一だったことから思いついたのだそうです。
となると気になるのは、ワンタンの購入額が日本一の場所。調べてみたところ、なんと「ワンタン」の品目じたいがありませんでした。ちなみに「シューマイ」はちゃんと存在していて、1位は横浜市。さすが崎陽軒の街!
しかし逆に考えれば、誰も注目していない今こそ「ワンタン」で町おこしをするチャンスになるともいえます。自治体の皆様、ぜひやってみませか?? 一緒にワンタンを盛り上げましょう!
……ということで今回の『この料理家のレシピが天才すぎる』は終わり。
また半年後にお会いできればうれしいです。
(おわり)