富野監督の「普通」論から考える、努力と執着の差異について
Zガンダムについて調べていて、富野由悠季監督が身体について語っていたものを探していたらこんなものがヒットしました。
ここで富野監督が提示された健康論は、自分の最近考えていたこととも相似形であり、とても面白くて、よく分かるものでした。
富野監督の「普通」のパラドックス論
富野監督は、身体の健康を「時代によって変わることがある」「規準」としての「普通」さという側面から考えます。ちょっとギリシャ哲学のアレテ—っぽいですね。
「普通」の事例として、声優やミュージシャンであれば発声練習で声と身体を保つべきであることを挙げ、その重要性を認めた監督はしかし、そうした「普通」=「健康であること」に「騙されるな」と、一見矛盾している様にも見える言葉を提示します。
監督は、そうした「健康体」を持つ人々の「物事の考え方」が「かなりずさん」であることを問題提起します。
例えば、「都会で政治経済にかまけて暮らしていることが「普通」な人」が、農業や漁業で暮らしている人々等の、自分とは違う暮らしにおける「普通」、いわば「農業や漁業をしている「普通」」に対して、彼らと「同じ国に生活している想像力」を失ってしまう……という事例を挙げています。
監督曰く、「人は自分が「普通」になったと思うと、本来の「普通」を忘れてしまう生き物」であり、こうした「本当の危機」、想像力を失う危機に気付ける人が減ってしまう恐ろしさを警告しています。
この「普通」のパラドックス論に関連して、富野監督は何らかの好きなことに執着しているのみでは(それが自分事であっても他人事であっても)「飽きが来る」ので、もっと幅広い視野を持つ努力を怠ってはならないと論じています。
ある意味では、この広い視野を持つ努力によって支えられる柔軟な認識こそ「メタ「普通」」であり、メタ思考の使い所とも考えられますね。
この話から次項では、努力と執着の違いについて考えたいと思います。
努力と執着の違いについて
最近、趣味や仕事・リスキリング等について悶々と考え、「努力」としての練習や勉強や技能習得は良くても、それが「執着」に転じるとデメリットが上回るのではないか……と感じていました。
しかしここで問題なのは、努力と執着の違いです。勉強や練習中は良くも悪くもそれに集中しているので、その行為が一体どちらの論理に突き動かされてのものなのかについては考えが及ばない様な気がします。それではどうやってこの二つを判断すればいいのでしょうか。
単純に考えれば、キャリアの専門家や周囲の人に相互評価してもらえば良いようにも思いますが、彼らも総合的に自分の人生や目的や幸福観を理解しているわけではないので、自分自身の評価軸でその二つを判断できれば尚よいとも思えます。結局決めるのは自分ですし。しかし、自分はその具体的な判別法までは思いついていませんでした。
しかし、ここで「普通」のパラドックス論は援用できます。
つまり、他の「普通」を自分で想像出来るような視野の広さを持つ、「メタ「普通」」を獲得出来ていれば、「飽きが来る」ような状態、心理学でいうところの「反芻」のような悪循環な集中状態に自分が陥っていることを自分で認知可能であり、上手くいけばその状況を自力で脱せる、少なくともその可能性は維持できるのではないでしょうか。
勿論、それですら実際に行おうとすると厳密には難しいのでしょうし、切羽詰まった状況ではそんな発想を働かせる余裕も喪われてしまうのかもしれません。
とはいえ逆に考えれば、明らかに「執着」だと自分から見ても他人から見ても思われるような状態でったなら、流石にそれは改善可能とも考えられる訳です。
もう一つ新たな問題があるとすれば、自分の状態が「執着」だと感じられたとして、それをどのように脱するかの個別具体の方法論は別に考えなければならないということです。
ここまでの「普通」論はあくまで抽象的・思考的な悪循環回避法であって、個別具体な解答が得られる訳ではありません。
その努力は、結局のところ実践的に持ってくるしか無さそうです。
健康について
また、健康について絞って考えると、健康という「普通」においては、不健康についてのセンスが養われずに危険になり、逆に非「普通」つまり不健康であれば、不健康についてのセンスは問答無用で養われますが健康という「普通」を新たに再構築する必要性が生じる……と考えられます(あるいはそれに失敗した時が「死」なのかもしれませんが)。
こうした構造では、「メタ「普通」」的な考えはあまり役に立ちそうにありません。
その意味でも、人間の恒常性なりなんなりを最低限の運動や体調管理で養いつつ、適度に不健康さを両住させていくといったバランスを形成し続ける努力が大事なのかもしれません。
身体は静的staticなものではなく動的dynamicなものなので、そのバイオリズムから考えていくしか無さそうですね。
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