【散歩】似て非なる今川焼き。好奇心のいちごミルク。
挨拶
ご機嫌よう、読者諸君。今宵も残業であった。息が詰まる職場を脱兎の如く抜け出したのが21時。辺りは冷たくて暗かった。春の宵は心地良いが、冬の宵は何と手厳しいことか。春の宵が一刻値千金ならば、冬の宵は一刻笑止千万とでも言ってやりたい。
試しに、冬を笑ってやろうとして袖を捲ってみた。あまりにも寒かったのですぐさま戻した。冬が私を袖にする。
本日ご紹介する商品は……。
厳しい寒さを潜り抜け、近所のスーパーに辿り着いた。会社帰りは買い物をする事が私の常である。
常とはいえども、袖から手を出すのも嫌いな私だ。無駄なものは買わない。基本的には玄米と納豆、それといくつかの野菜としらす。そしてヨーグルト。購入するのはそれぐらいだ。
しかし、目が合ってしまった。ショーケースの扉越しに、魅惑的な桃色が私を誘い、釘付けにしたのだ。全く見たことのない包装である。
いちごミルク味の今川焼きが存在したのだ。何ということだろうか。今川焼きはあんことカスタードがあまりにも王道で、それ以外は言語道断。変わり種など、忌まわしき今川焼きとして目をやらない覚悟であった。
しかし、寒さと疲れで思考が停止していた私は見事に罠へ嵌まった。魅惑的なピンクに籠絡され、いつの間にか買っていた。
気がつけば、買い物袋のなかには玄米と小松菜と納豆としらすと、いちごミルクの今川焼きがある。私の倹約かつ健康的な精神が、桃色の今川焼きに蹂躙された。
値段は200円と少しぐらいであった。この値段で5個入っているのである。縁日で買う今川焼きと比べるとなんと手頃な価格だろうか。買い物袋で密かに眠る今川焼きを激賞した。
ご対面
帰宅すると、すぐさま袋を開けた。中からは、いつも通り何の変哲も無い今川焼きが出てきた。だが、ほんのりとイチゴの香りがする。殺風景な一人暮らしの部屋に、ささやかな華が生まれたのだった。
今川焼きの食べ方には一家言ある。レンジで温めた後、トースターで1分焼くのだ。さすれば、彼が外はカリカリ、中はふわふわという美味しいお菓子の代名詞的特徴を得る。確かこれは袋の裏面に書いてあったお勧めの食べ方だ。
レンジでチン
むさ苦しい一人暮らしの男にトースターなど無い。結局レンジで温めるだけであった。
割ってみると、中から桃色の生地と白濁としたなかにうっすらと桃色が混じるクリームが顔を覗かす。イチゴと練乳の香りが辺り一体を甘くする。悪くない。あまり期待はしていなかったが、旨そうではないか。
実食
「いただきます」
森羅万象とニチレイに感謝を込めて食した。
美味しかった。イチゴ風味の生地に、練乳の甘さが光るクリームは、今川焼き一つで私をイチゴの世界に連れて行ってくれた。練乳感も強かったため、口の中はイチゴ狩り気分である。
甘さが少しくどい部分もあったが、がっつりと甘いお菓子を食べたい時はちょうど良いのかもしれない。クリームの口当たりはとろとろで、若干口にまとわりつく滑らかさが心地よかった。
毎回これを食べようとは思わない。しかし、たまに冒険したいとき、がっつりを甘いものを摂取したいとき、イチゴ風味を堪能したいとき、今川焼きいちごミルク味はお勧めである。
それと、何よりも話題性がある。いちごミルクの今川焼きを食べたという話だけで2時間は友と言葉を交わし続けることができよう。
終わりに
こうして、私はいちごミルクの今川焼きを胃に収め、次は普通にカスタードを食べようと思うのであった。
いちごミルク。癖のある彼は、スタンダードの尊さと冒険の楽しさを教えてくれる、非常に稀有な今川焼きであった。
甘いものを食べて、読者諸君も仕事に励もう。職場でいちごミルクの今川焼きの話をしても盛り上がるかもしれない。人生は楽しいものだ。ではまた。