【読書感想文】赤と青とエスキース 著:青山 美智子
始めに
絵には文脈がある。画家の人生や、完成までの意匠惨憺。また、当時の時代背景。そして、今ある場所に辿り着くまでの歴史。それらを全て含みつつ、色と個性で表現されるものが絵画である。恐らく……。今回紹介する小説から感じ取ったままを述べてみた。あまり気にしないでくれ。
描くことは容易では無い。自分の色で自分の想いを表現することがいかに難しいか。世に惑わされず、心の底から欲しいと思える豊かさを創り出すことに、どれほど忍耐と精進が必要か。読者諸君も想像に難くないだろう。
絵も人生も、美しさには夢と現実が混在する。
エスキース
エスキースとは、本番の絵を描く前の構想段階で描かれる下絵や試作のこと。構図、色彩、コントラスト案を本番のために整理していく作業。
あらすじ
絵は死すことはないのだ。故に、世界と時代を渡り歩く。とある画家から生まれ、世の中へ飛び出したエスキース。それは本来なら構図を取るための下絵であり、その画家が自らの恋路を描こうと用意したものだった。しかし、そのエスキースは、そのままに旅を始めたのである。
エスキースは、画家の煮え切らない恋が乗せ、多くの目に映り、新たな魅力を身につけた。前に立てば、描かれた以上を語り出してくれるようになった。本番の絵が描かれる日は近い。
まとめ
その時、自分が持つ色で人生を描いていく。その絵に価値を付けるのは世の中だが、豊かに出来るかは自分次第。たとえ未完成のエスキースでも尊い。豊かな下絵は多くを語り、多くを笑顔にした。
エスキースの魅力
本番ではない分、自由に描く事ができるのだ。頭の中にある完璧な傑作を描ききることはいつだって難しいが、エスキースにした時に生まれる偶発的な芸術もある。そういったことも含めて、エスキースは始まりの儀式と言える。本番の絵をより輝かせ、道の途中で初心を忘れない為のものである。
正に君だから、完璧な結婚になる
絵と額縁が完全にマッチした状態のことを’完璧な結婚’という。(特にヨーロッパの額縁職人や額の専門家の間で使われる)
額は絵より目立つこと無く、絵を引き立て、守り、支え、応援しなければならない。だからこそ、額縁職人は絵への愛が深いほど、冷静にならなければいけないのだ。その額縁と絵が完璧な結婚を遂げられるように。
必要なのは、条件に合う額じゃない。たった一つの、その絵の為に生まれた額である。
老いてもなお、その色は固有の美しさを誇る
人は皆、他人の色に嫉妬しやすい。自分の出せない鮮やかな色を羨む。だから、気がつかないのだ。自らの手持ちにある白やベージュが、とても鮮やかな色である事に。
生き続ければ、色々な経験をする。その中で、自分をどう表現するか理解していけばいい。人も、絵も、誰かの目に映り、心に住むことで成長し、豊かさを身につけていくのだ。
大切なパートナー、世の価値観、自分の色の美しさ。人生における複雑な要素をたくさん含みながら、本番の絵は描き始められる。
終わりに
一つの絵にどれほどの含蓄があるか、計り知れない。絵と対話し、全てを理解出来るようになるまで、あとどれほど掛かるかも分からない。ならば、今日ここで、「絵画は、その完成前にも後にも数多の物語がある」と知ったことは、諸君らの人生を豊かにするだろう。是非、何かの美術展にでも行くといい。諸君らが本番の絵を完成させる日を願ってやまない。
ではまた。