『乱』黒澤明全作レビュー&イラスト(27)
お疲れ様ですvintageです。黒澤明全作マラソンもいよいよ終盤戦になってきました。黒澤明というと小学校時代に初めて『影武者』をみて以来長年みてきましたが、まとまって一気にみたのは初めての体験。
今回は公開順にみたのでなんとなく黒澤明という人が何をしたかったのかわかったような気がします。
この『乱』は後期黒澤を代表する名作でしょう!
ストーリーはこんな感じ
ここから映画レビューです、、
で、この『乱』ですがかなり好きな作品になります。
黒澤は大きく分けて二種類の映画文体を使い分けていると思うのですが一つはリアリズム系『野良犬』とか『七人の侍』『天国と地獄』などで、キャラクターが映画内世界で自立して動いている。
もう一つが神話系でこの『乱』、『白痴』、『蜘蛛の巣城』などです。こちらはやや芝居がかったセリフ回しで人間存在の普遍的な根っこを描くような感じ。空間も日本のようでいて日本でもなくこの世のものとは思えないイメージ。ドストエフスキーやシェイクスピアを原作にすると神話系になる傾向が見て取れるかも
シェイクスピア『リア王』が原作ですが女性三姉妹のところを男性三兄弟に変更しています。リア王=秀虎を演じた仲代達矢は素晴らしい。『影武者』ではもやもやしましたが本作は最高です。仲代さん品があるので野蛮な盗賊より、このよう王の役目の方が似合うのかも。
冒頭の三兄弟でのもめごとからして一気に引き込まれます。なかなか一代で家を立派にしても後継者問題というのは難しいですね。長男が継ぐというのは順当だったのだと思いますが、それが結局悲劇の始まり。
寺尾聡は豪華俳優陣の中でまったく存在感がなく、その存在感のなさがこの長男にぴったりでした。
そしてこの長男にして正室の楓の方(原田美枝子)は強烈なキャラです。
黒澤明フィルモグラフィの中でも『赤ひげ』の狂女(香川京子)と並びトップレベルに怖い女性です。加えて男をたぶらかす妖艶さももっています。一方でもともと彼女の家は秀虎に滅ぼされたという悲劇も語られます。
黒澤映画は脇役陣がいつもすばらしいですが、今作も次男の根津甚八、三男の隆大介、狂言回しのピーターも良いですね。特に隆大介はガタイも大きいし、顔つきが精悍で生まれた時代が早ければ三船敏郎的な存在感で黒澤映画にでていたかもしれません。
長男、次男に裏切られた父は荒野をさまよいますが、その絵は日本ぽくない、神話の場所のように思えます。もうここでは時代劇ではなく普遍的な悲劇が描かれています。
重厚な筆致で描いた人間の本質、晩年でもまったく衰えない創作意欲はホントすごいです
ではでは
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