🍎偏差値45の教員。先生になる

昨日の上谷先生の言葉が引っかかる。友達みたいに親しみがあり、生徒に人気がある教員だと何が悪いのかがわからない。保護者も生徒もそれを望んでいるはずだ。優しい先生、何でも話せる先生、そういう先生が結局みんな好きなんだろ。

そう思って、望む2回目の授業。昨日も思ったが、学活の合間にある国語の授業は生徒のテンションも高く、生徒との対話がしやすかった。

授業時間になるので教室に入る。クラスの遠くから「うわっ、ギャル先じゃん。」と聞こえた。いや、気のせいか。いつも通り教卓の席に座ると、女子生徒の何人かがやってくる。
「先生今日も可愛いですね。」
「ねぇ。先生マツエクもしてるの？」
「してるよ。」
「いいなぁ。うちもお母さんがしてるの。ずるいよね。」
と他愛もない会話をする。
さて、時間になり生徒が席に着く。

目の前の男子生徒、横尾に視線を送る。首になぜか制服のベルトを巻き付けて、水で髪の毛をオールバックにしてる。

号令がかかる。横尾はまだ首にベルトを巻いたままだ。
「横尾さん、何してるの。」と、聞いてみる。
「先生、俺、今日からビジュアル系になるから。」そう言った横尾の爪は蛍光ペンで塗ったピンク色に染まっている。
「授業始まるから辞めなさい。」
「はっ。何でだよ。」
「授業中にすることじゃないでしょ。」
「えっ、何でダメなの。まじこいつウザ。」

自分の体から血の気が引いたのがわかった。クラスを見渡すと冷めた目つきをしている生徒が何人かいる。もう、構うのは辞めにして授業を始めないといけない。進めた授業は生徒の反応もなく、冷めた空気に首元が生徒の視線で刺されていく。

授業終わりに落合先生に相談をしてみた。担任の先生は学活に行き、職員室には私と落合先生の2人だった。

「横尾は去年からやんちゃな奴だったよ。他校の彼女の家に泊まりに行って帰宅しないって親から電話がきたりしたよ。」
「そうなんですね。」
だったら、しかたがないですね、と言おうとした。
「でも、先生に反抗するタイプの生徒ではなかった。」
また自分の顔が青ざめるのがわかる。私にでもわかる。生徒から舐められ始めてるのだ。
「横山先生と生徒のやりとり聞いて思っていたんだけど、生徒が敬語使ってないよね。」
「そう言われたら、そうです。」
「まずね、あれ辞めさせた方がいいよ。敬語を使わせることで、教師と生徒の区別が生徒側につくから。立場の違いはハッキリさせないと。」
「これから気をつけます。」
「あとさ、4月の最初のこの３日間。黄金の３日間とか言われていて、教員の中でも1番大切な時期なの。何でかわかる。」
「何でですか。」
「生徒が先生を見定めるのが、この３日間だからだよ。この３日間で舐められたり、信頼関係をうまく築けなかったら後半も崩れるからね。」
落合先生の言葉にゾッとする。なぜ始まってから教わることになるんだ。始業式から数えて今日で３日目だ。挽回するには今しかない。

休み時間に教室に行く。意味があるかわからないが、敬語を使わない生徒1人1人に注意をする。もちろん、ギャル先と言った生徒にもだ。中には、「えっ、先生今日不機嫌じゃん。」という生徒もいた。

仲良くしてはいけない、でも信頼されないといけない。先生という立場は、常に細いロープの上で綱渡りをしているようなものだ。

それなのに、気をつけていても考えもしなかったことで、保護者からのクレームもくる。

私はこの綱渡りを3月までクリアができるのか。相変わらず気が抜けない毎日を過ごしている。