[イベントレポ]伝統の食「蕎麦」〜明日蕎麦屋に行きたくなるよろず話〜
今回は“オンライン蕎麦会”ということで、参加者の皆さんには事前に「一緒に蕎麦を食べましょう!」とアナウンスしていました。イベント開始の19時30分を少しまわったあたりで大体の皆さんが準備できた様子だったので、「いただきます!」とともに記念撮影。みんなで蕎麦をすすりながらゲスト講師の岩品さんのお話を聞きます。
岩品幸司さんは蕎麦打ち職人として活動されています。シェア街の拠点である浅草橋のLittle Japanのシェアキッチンでも定期的に出店しているほか、蕎麦打ちパフォーマンスをしたり、都内を中心に各所で蕎麦打ち教室の主宰をしています。ちなみにイベント当日も、お昼間はLittle Japanでランチ営業をされていて、そこで来店されたお客さんもこのイベントに参加されていました。
家で蕎麦を美味しく食べる
まずは岩品さんから、市販の蕎麦汁をよりおいしくする方法を教えていただきます。天ぷら蕎麦が人気なことからもわかる通り、蕎麦は油を加えるとおいしくなります。手軽なものとして揚げ玉や、辛い味が好きな人にはラー油などもおすすめとのこと。他にも少し変化球なおすすめとして、刻みバジルなどをあげていました。参加者の皆さんにおすすめの味付けを聞くと、梅肉などがあがりました。
蕎麦を粋に食べる方法
さて、美味しい食べ方について一通り伺ったところで蕎麦のレクチャーが始まります。まずは「かんだやぶそば」「更科蕎麦」「砂場」などの老舗蕎麦屋で、粋に盛り蕎麦を食べる方法について。
かつて岩品さんが修行していたお店に、とある女性が来店されます。その方は一人でふらっとやってきて、板わさ、鶏わさ、そしてお酒を一本頼み、締めに蕎麦を食べて、岩品さんはその食べ方を見て「粋だな」と思ったそうです。
「蕎麦前」という言葉があります。これは蕎麦を食べる前に飲む日本酒のことで、フランス料理で言う、食前酒のシャンパンのようなものだそうです。また、蕎麦の香りを味わうためには、しっかりとすすって、咀嚼したときに鼻から抜ける香りを味わうものだそうです。
意外と古い蕎麦の歴史
現在確認できるものでは、9300年前の高知県の遺跡からソバの花粉が発見されており、古くから栽培が行われていたと考えられています。香川県や高知県は、現在はうどん文化圏であるにもかかわらず、蕎麦が発見されるというのは興味深いところです。文献にあるもので古いものだと797年の『続日本記』に記されています。当初は“蕎麦かき”という、ソバの実を砕いて団子状にして練ったものが食べられていたと考えられているそうです。
1574年の『定勝寺文書』では「そば切」という文言があり、これが現在に通じる麺状の蕎麦の最初ではないかと考えられています。そして庶民の間に広く食べられるようになったのは江戸時代中期頃からだったそうです。
江戸に蕎麦が広まるきっかけにはこんな俗説があります。もともと江戸ではうどんが多く食べられていました。蕎麦は蕎麦殻を取るのが手間でなかなか広まらなかったそうです。ところが、うどんや白米を主食としていたためか、庶民の間で脚気が流行するようになります。そんな中、蕎麦を食べた人は脚気にならなかったことから、だんだんと蕎麦の良さが広まっていったそうです。
栄養豊富で美容効果もある蕎麦!
そばにはルチンが多く含まれていて、美肌効果があるそう。さらにはビタミンB1には疲労回復効果があり、ネギを一緒に食べるとさらに効果があがるそうです。また、成人病予防にもなるそうです。
食物繊維をはじめとした蕎麦の栄養素は水溶性なので、茹でたときに釜に溶け込んでしまいます。なので蕎麦湯はきちんと飲むのがおすすめとのこと。お店によっては蕎麦を持ってくるときに一緒に蕎麦湯も持ってきてしまったり、湯がぬるかったりということがあります。本来なら蕎麦湯は熱い状態でいただくべきものなので、食べ終わったタイミングで冷めていないものを持ってきてもらうのが良いと岩品さんは話します。
関東と関西の蕎麦つゆの違い
そもそもの呼び名が、関東は“蕎麦汁(そばつゆ)”・関西は“お出汁(おだし)”と言います。江戸時代、関西のお出汁に入っている昆布だしには、北海道でとれた昆布を使っていました。薄口醤油を使っているため透明度の高いのが特徴です。一方で関東は、江戸が昆布の流通路に入っていなかったため、代わりに鰹節を使って出汁をとっていて、濃口の醤油を使って汁の色も濃いのが特徴だそうです。
おすすめの蕎麦
まず岩品さんがあげたのは100円ローソンの流水麺。スーパーなどで売っている麺は、そば粉よりも小麦粉の割合が高いものも多くて、「うどんなんじゃない?」と思ってしまうものもたくさんあるようですが、この商品についてはきちんとそばの香りもしておいしいということ。また他にもイオンの「10割そば」などもおすすめにあげていました。
また、岩品さんがおすすめの立ち食い蕎麦屋としてあげたのがゆで太郎。ゆで太郎で使っている麺はセンター工場で製造したものではなく、それぞれの店舗が製麺機を持っていて、作り立てが食べられて美味しいとのことでした。また、美味しさの秘訣は麺そのものだけでなく、茹で方にも左右されるそうです。蕎麦を茹でる職人である“釜前”の腕が、店舗によって差があることが食べているとよくわかるそうです。
蕎麦のアルデンテ
参加者の方から「アルデンテを出すためには、表示されている時間より短めに茹でるほうがいいのですか?」という質問が上がりました。岩品さんによると、麺が“堅いこと”と“コシがある”というのは違うとのこと。やはりおいしく食べるにはパッケージなどに記された手順を守ることが良いことに加え、冬でも必ず氷水で締めることが大事ということでした。こうすることで、弾力があって食べ応えがあるものに仕上がるそうです。
イベントを通して
今回、岩品さんには自宅でも簡単にできる美味しい蕎麦の食べ方を伝授していただきました。伝統的な食事というと、催事のときや旅先など、特別な日に食べるものというイメージが強いと思います。もちろん、技術の洗練された伝統を受け継いでいくことは素晴らしいことです。けれど、日常的に触れる回数が多くなるほど興味もわきますし、そこから自分なりのこだわりも発見できるようになります。伝統を身近にすることが、それを後世に遺していく足掛かりになるのではないかと思います。