女の朝パート76
12月3日火曜日
女が座っていた椅子は立川の駅ビルecute2階にあるスタバの椅子だった。
店内にはジャズ風にアレンジされたクリスマスソング定番のジングルベル流れていて、
そのリズムとクリスマスブレンドの相性は、
他の一切を寄せ付けないほど完璧で、
完膚なきまでの完成度に、女は完全に言葉を失っていた。
そんな女が座っていた椅子は、
横に長いベンチ式のタイプだったので、
両隣にいる人に限っては、
見ず知らずの人達と肩を並べる形で椅子に座る事になった。
暫くすると女の隣におんなが座った。
おんなは、軽減税率にも物怖じせずキャッシュレス決済で会計を済ませていた。
そんなおんなは今しがた買ってきたものにスマフォのレンズを向けると、
どうやら写メを撮ったようだ。
スタバナウ。
スタバナウと、
オンナは、今、多分、おんなが呟いた気がした。
スタバナウはもう立派な死語。
トレンドの最先端でもなければ、
それをわざわざ発信する事でもない。
更に付け加えるならば、心が華やいだり、
優越感と言う名の自己満足に浸ることもない。
それに共にこの喜びを分け逢う人間ももういない。
悲しいかな。
時間と言うのは、
おんなの気持ちなんてどうでも良いのか、
いつも我が物顔でおんなの前をただ流れてゆく。
しかし、おんなは嬉しそうな顔しながらその中身を飲んでいる。
その隣にいる女は両眼を閉じて、
店内に流れる音楽に耳を傾けている様子だ。
その時だった。
オンナは何故だか、
自分の凝り固まって仕舞った気持ちが癒されて、次第に自分の思考が整理されて心地よさを覚えたのだった。
ネイルサロンにも行ったし今は珈琲だけを味わおう。
オンナが一人呟いていた。
完