一期一会な出会いの先に〔前編〕
「ふう…ちょっと疲れちゃったなあ」
退勤して、会社を飛び出してきた。
そのまま家に帰って、早めに寝るのがいいということを頭では理解していたけれど、家へ向かう道とは違う方向へ、歩きだしていた。
このまま家に帰っても、食べるものはない。
スーパーに寄って買い物をすればいいだけの話なのだけれど、今の状態のまま家に入りたくなかったというのが本音だ。
ちょっとだけ、寄り道したくなった。
いつもであれば決まった店に立ち寄る。
だが、今日は、とことんついていない日だ。
いつものお店が、やっていない。
どこにも入れないまま、30分は歩いていた。
歩いているうちに、すっかり日没してしまい、あたりは真っ暗になった。
仕事の疲れに加えて、路頭に迷って歩き続けたことにより、疲労困憊といった感じだ。
「ほっとできるあたたかいもの…欲しいな。」
このあたりにあるカフェは、既に本日の営業を終えてしまっている店が多い。
日中は、人の通りが多いものの、夕方以降にこの辺りを歩いている人はまばらになるから、経営的な問題なのだろう。
ちょっと歩いていくと、見慣れない小道に入り込んでいた。
道の入口には、小さな黒猫が佇んでいる。
目が合った…気がしなくもないけれど??
黒猫に興味がわき、後を追ってみることにした。
この黒猫は、まるでどこかへ導いてくれるかのように、先を歩いては、こちらを振り向いている。
ついていってみると、とある建物の前にたどり着いた。
黒猫が、再びこっちを見つめている。
覚悟を決めて、入ってみることにした。
「ようこそ。休憩ですか?」
店主と思われる男性から声をかけられた。
店内に入った時のあいさつの違和感。
いらっしゃいませ、ではないんだなあ。
「はじめまして。この入り口、よくわかりましたね。よくわからないことばかりですが、そのうち楽しんでいただけるかと思いますので。良ければ、ゆっくりしていってください。」
注文が決まったら、声かけてください、と言いながら、メニューを差し出してくれたその男性はカウンターに戻っていった。
この場所との出会いから、何かが始まるかもしれない。
そんな予感とともに、席に置いてあったメニューに、お店のおすすめとして書かれていた『ちょっと寄り道セット』を注文した。
最近、下書きを整理していて、見つけてしまいました。
かなり前に書いていて、ずっと下書きに眠っていたもの。せっかくなので、少し編集して公開に至っています。
ちょっと寄り道セットって、なんのはなしでしょうかね?
ここ最近の小説の流れとは合っていませんが、これも気分で創作をしているひとりの人の楽しみ方ということで、お受け取りくださいませ。
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