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ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第34話】フリゲ公開編①脳に報酬が欲しい!〜DL数に脳が焼かれた日〜

Nscripterで人生初のノベルゲーム作りを始めた落柿(らくし)。7年の休止期間を経てティラノビルダーで制作を再開。ノベルゲームの祭典・ティラノゲームフェス2021に参加することを目標に制作を続けた。そして8月末の締め切りに無事「ホラー編」の公開を間に合わせたのだった。

「ダウンロード……されてる。ダウンロード……されているぞぉッ!」


前回、ノベルゲームコレクションに無事ゲームを公開した落柿。初めて得たDL数というわかりやすい数値に心を躍らせていた。



初速こそ収まったものの、日々少しずつDL数は伸びている。もちろんノベルゲームコレクションのランキングに載るなんてことはないが、それでも落柿は満足だった。


「世の中には、やっぱり自分と同じようなサウンドノベル好きの人がいたんだ……! このような無名の作者の作った長編ノベルゲームをダウンロードしてくれる人はきっとチュンソフ党員に違いない!」

「一人でも遊んでくれたら」と願って公開した初作品が100人以上もの人にプレイしてもらえているのである。落柿はその一人一人の顔を、容姿を、人生を妄想して悦に入った(非常に気持ちが悪い)。


何をしていても落ち着かない。何度も何度もノベルゲームコレクションを開き、プレミアム会員になることで得たリアルタイムでのDL数確認機能を駆使してDL数をチェックする。


しかし、ある日落柿は気づいた。

「こ、この構造はSNS依存と同じ! 自分の脳はいわゆる〝間歇強化〟の罠にハマりつつある……ッ!」


間歇強化(かんけつきょうか)とは、決まったパターンで報酬を与えられるよりも、予期せぬパターンで与えられたほうが喜びが大きくなる脳構造のこと。マイケル・ゼイラーが行ったハトの実験が有名。この間歇強化を促すように作られたのがFacebookを初めとしたSNSのいいね機能だと言われている。つまりはギャンブル依存のようなものであり作者の行動は毎日開店前のパチンコ屋に並んでいたようなものだね! おい! この台出ねーぞ!

「なんかこの感じ……前にもあったような……」



この行動に既視感を抱く落柿。そうだこれは個人の創作サイトを公開していたとき、何度も何度もアクセスカウンターを見に行っていたのと同じ……! しかしホームページのカウンターは自分もカウントされるが、ゲームのDL数は眺めていたところで増えない。ということはこの行為は全くの無為

「個人ホームページ」「キリ番」「BBS」「ジオシティーズ」等にピンときた貴方は、めでたくインターネット老人会仲間である。若い読者で「何言ってるかわかんない」って人は阿部寛のサイトでも見てきてください。カウンターこそないけど雰囲気はつかめるはず。


そもそも「ホラー編」を公開して浮かれている落柿だが、そもそもまだ「アカイロマンション」全編は完成していない。手つかずのサブシナリオがいくつも残っているのだ。ノベルゲームコレクションを開いてニヤニヤしてる場合ではない。そんな時間があるなら作業に充てるべきだ。


「くぅぅ……」


落柿は断腸の思いでDL数チェックを手放した。1日一度、起床時にチェックする。それ以外は見ない。と自分の中でルール決めをした(見たいけど。とても見たいけど。すごく見たいけど)。


そして、落柿はもうひとつの事実に気づき始めていたのである。

「……DL数とはあくまでもダウンロードした数。ダウンロードした人が本当にプレイしてくれたかどうかなんて、わからなくないか?」


ノベルゲームコレクションはWindowsのダウンロード版ブラウザ版が同時に公開される仕様となっている。表示されるDL数がこれを合算したものなのか、それとも純粋にDLされた数だけなのかは不明だが、「とりあえずダウンロードしておこう」「思ってたんと違うから即ブラウザバック」なんていうのも数に含まれていることになるのでは?

「危ねえ危ねえ……DL数を鵜呑みにしてうっかり脳内ハッピー野郎になるところだったぜ。クールになれ、落柿。大丈夫だ。まだお前のゲームは誰にも遊ばれちゃいない


自分に言い聞かせて頭を冷やす。


そっか。まだ誰も遊んでないかもしれないのかー。
じゃあこんなにDL数に一喜一憂することもないね!


…………。
…………。
…………。

いや遊んで?



わかる、言いたいことはわかる。プレイ時間は約7時間立ち絵なしボイスなしエンド数は23。作風の参考となるであろう過去作もなし。そんなゲームを開くのは腰が重くなるだろうことはわかる。


「だけど……だけど一人ぐらいは遊んで……そして面白いと思っては……くれませんか?」


急に昭和歌謡のような愁いを帯び始める落柿。

その後もDL数は少しずつとはいえ伸びるものの感想はつかなかった。果たして本当に自分のゲームをプレイしてくれている人は存在しているのだろうか? 


とにかく分母を広げようと、フリーゲーム公開サイトである「ふりーむ」と「フリーゲーム夢幻」にも登録をした。


現在、ふりーむは残酷表現にかなり厳しくなっているらしい。セルフチェック項目を見るに、今だったらおそらくこの「アカイロマンション」は通らないだろう。作者は今後もホラーやオカルト系など、血がぶっしゅぶっしゅ飛び交うものを主に制作するつもりなので、ふりーむにもう登録することはないと思う。記念受験的にこの時期に載せといてよかった。

「……まあ、でもフェス開催はまだだしな」


ティラノゲームフェスの締め切りは8月末だが、フェスが実際に始まるのは10月と聞いた。ならばきっとそこからが本番なのだろう。

これはフェスが9月1日開始だと思い込んでいた頃のツイート。恥。



昨年のフェスを外側から眺めていた落柿は、なんとなくそのシステムを把握していた。ティラノゲームフェスには、作者からプレイヤーに感想のお礼として「ダイア玉」というものを贈ることができる。そのダイア玉を使ってキャンペーンに応募することで、プレイヤーは様々な景品を手にするチャンスを得られるのだ。


従って、フェス開催前にはコメントを溜めておきフェスが始まってから感想を投稿するというプレイヤーも多いと聞く。

「……とりあえず、フェスを楽しむか」



きっとゲームの作者は自分のように感想を欲しいと思っている人も多いはず。ならば自分も感想を送る側になればいいのだ。去年は制作に差し障ると思ってフェス作のプレイは控えていたが、今年は自分の作品を(一旦とはいえ)完成させられたのだ。だったらフェス作をプレイしまくっていいはずだ。

「うっひょ〜。楽しみ!」


落柿は早速、「ティラノゲームフェス2021」というタグが付けられたゲームを見て回った。面白そうなゲームがたくさんある。気になった作品があればひたすらお気に入りボタンを押していった。


こうしてフェスを前にして、今まで押さえ込んでいたプレイヤー魂が爆発してしまった落柿。ここからしばらく、落柿はフェスのゲームプレイにのめり込んでいくのである。


……制作は?




「アカイロマンション完全版」の完成まで──あと4年


落柿の個人サークル「studio.praparat」が初コミケに当選しました!
webカタログに今後の詳細等アップしていきますので是非お気に入り登録をお願いします!

https://webcatalog-free.circle.ms/Circle/20000155



そんな落柿が15年かかって作ったゲームがこちら。


新作ホラーノベルゲーム「砂鳴村〜エピソード限定版〜」配信中!
名作サウンドノベル「弟切草」オマージュ作です。
ティラノゲームフェス2024年に参加しています。

プリシー版はこちら
https://plicy.net/GamePlay/187119

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落柿(Rakushi)
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