香名♠︎

その視線でなにを見つめてるのか気になる

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    「たったひとり」世界に立つために。たったひとりからでないと、ほんとうには繋がれないから。

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記事

    星の花びら

    雨上がりのある日、水たまりに桜の花びらが積もっていました。 桜の季節でもないのにふしぎだな、と思ってよく見てみると、それは星の屑でした。 昨夜の雨に混じって降ってきたのかもしれません。昨夜は流星群の降る夜でした。ぼくは、星の屑を掬い、家へ連れて帰りました。    リリン  シャランシャラン 小さな音が響き合っています。星屑たちは囁き合っているのかもしれません。 ぼくは、月の光の差す窓辺へ星屑を置いてやりました。とてもとても明るい月夜です。   シャラララ 小さく鳴る星屑の音

    星の花びら

    スープとお菓子

    「やっちゃったな」と、自転車を引いたおじさんは、私を見て同情するように笑っていた。私はその同情に、首を縦に動かして返した。 歩いて30分ほどの家路を急ぎたいけれど、からだを温めたい。             * 「いらっしゃい。」 家族へのあいさつかのようにさりげなく、やわらかな声がふわりと届いた。たったひとことの、私だけに向けられた「おかえり」のように。 私は、水を含んで冷たく重くなったコートを壁に預け、席に着く。 「高波をかぶってしまったんだ。私に向かって防波堤

    スープとお菓子

    くじら

    ーありがとう。とってもたのしかった。とってもたのしかったんだ。会いたかったんだ。ー 暗い底から水面を見上げていた。きみと共鳴して映るひかりは、宝石の反射のようで、色とりどりの星が瞬くようだった。 氷のような冷たい粒が降ってくることもある。鋭く透明で、水面を裂くように落ちてくるけれど、ここは暖かいからほろほろと解けていく、ダイヤモンドの砂が降ってくるように。 きみは知っているのだろうか。暗い底にも砂浜があるんだ。きみは知っているだろうか。降り積もったダイヤモンドの砂浜もまた

    バナナブレッド

    仕事の帰り道は、ときどきコーヒーを飲みに寄ります。だいたいは週のおわりの金曜日、たまに待ちきれなくて水曜日や木曜日に足を運びます。 帰り道といっても、通勤は電車なので一度途中で下車するのです。職場の最寄りでも家の最寄りでもない駅を、降りたところに小さな店があるのです。 改札を出て階段を登り左手の道を往くと、コーヒー豆の香りとすれ違います。 「こんにちはー」 「こんにちはー」 この小さな店が鳴らす音は心地がよかったのです。聴いたことのない洋楽は、頭の中で雪のように積もる

    バナナブレッド

    マーブルチョコ

    スーパーで買い物をしていると、子どもがじっとわたしを見ている。親と逸れてしまった迷子だ。 まただ。 親と逸れた小さな子に、わたしはよく見つかる。 既に泣きながら見つめてくる子もいれば、「どうしたの?」というこちらの問いに「おかあさんがいない」と応えた途端に涙を流しはじめる子もいる。 なんということなさそうに「おかあさんいないなー」と話しかけてくる子もいた。 「探そうか」と手を出す。手を引くその手に、躊躇いはないのか。 大抵はすぐに見つかるものだ。街のスーパーは大して広く

    マーブルチョコ

    カルダモン

    きみはぼくの背にトントンと手を触れていた。まるで眠りにつかせるみたいに。きみの頭のなかでは映画のシーンが流れていたのか、いつのまにかリズムがスパイ映画のテーマだ。ぼくにはすぐにわかった。 「きょうはどこを彷徨っていたの?」  ぼくの背でリズムを取りながら、きみは尋ねる。きみの手は、つめたくない。 ぼくはきみに応える。 「お囃子の音が好きなんだ。夜空に連なる提灯も。 いつでもそこに帰りたいんだ。音が鳴りやんでしまう前に。」 ぼくはりんご飴のことを想う。歯を立て齧ると、

    カルダモン

    新月

    「きみは扉を見つける。扉を開けたらどこへ行こうか。 観たいものをみせよう。」 きみはそう言ったんだ。 「そんなことを言われてもわからない。自分の望みはわからない。 そしてきみは、姿を見せない。」 どこまでも繁る木々のなか、歩く素足の足もとは、踏み締めるたび鋭く刺さる小枝、くすぐるように触る濡れた葉。なにか光って見せるものは透き通るように白い花のベル。 森を往くぼくの足は、いつでも在処を知っているようだ。ぼくは森のなかを彷徨っているのか、それともー 現れているのか、ぼくの

    うなぎ

    これからうなぎを食べに行く。 まだ二週間もあるけれど無事に年を越せるお祝いにと。 うなぎは苦手だったはずなのに、うなぎが食べたいと、ある日好みは変わる。うなぎが食べたいと言い出して、家族みんながまさかと思う。 年が越せることよりもたったいま会えていることがめでたい。あしたはもう会えないかもしれない、それはいつでもとなりあわせ。こうして窓ぎわでミルクティーを飲んでるすぐとなり。 いまのわたしの手が父の手を忘れないだろう。帰り際、しっかりと握られた厚い手を。ぬくもりを交わせる

    台風の日

    あらしはこない

    窓を水滴が伝ってく。 なんの野菜が残っているかな。かぼちゃのスープが飲みたい。うさぎのまんがを閉じて布団からでよう。風のおとが強まる。 「きのうの筍煮たので筍ごはん炊くから」 それなら卵焼きを焼こう。 どこにも行かないのは雨のためでもつよい風のためでもない。

    あらしはこない

    あらしがくる

    雨が降り出しそう。摘んだ撫子は七本。 きのうの歩き疲れたままにスーパーへ行く。 切り身じゃないまとめられた半端な鮭、鮭そぼろをつくろうか。 これからあらしがやってくるのだろうか。雨が降り出した。南風に運ばれる蛙の鳴き声と柿の葉のにおい。雨が入るから、南の窓は開けてられない。

    あらしがくる