うなぎ

これからうなぎを食べに行く。
まだ二週間もあるけれど無事に年を越せるお祝いにと。
うなぎは苦手だったはずなのに、うなぎが食べたいと、ある日好みは変わる。うなぎが食べたいと言い出して、家族みんながまさかと思う。

年が越せることよりもたったいま会えていることがめでたい。あしたはもう会えないかもしれない、それはいつでもとなりあわせ。こうして窓ぎわでミルクティーを飲んでるすぐとなり。

いまのわたしの手が父の手を忘れないだろう。帰り際、しっかりと握られた厚い手を。ぬくもりを交わせる瞬間はすぐとなり。それは、病室のにおいにいまにも負けそうで迷路のような廊下を無表情で歩くすぐとなり。

家を出るのは夕暮れ。 

まんぞくまんぞく。
まんぞくだ。
美味かったな。

何度も満足だと言って、お店を出るとき
「しあわせだな、これ」と言った。

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