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読書メモ『居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書』(東畑開人著)

また最近読んだ本についてのメモと感想を書いておこうと思う。

今回は『居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書』という本である。

自分がこの本を知ったのは心理学とかやってる知人のオススメ本だったから・・・みたいな感じである。
著者は東畑開人さんであり、名前は始めて聞いた。
自分は心理学が好きとはいったものの、河合隼雄さんや斎藤環さんとかしか知らないかもしれないし、最近はあんまり心理学系の本は読んでないので知らない人物は多いかもしれない。

ということで全部読んだ感想は・・・
いやぁ・・・濃密だしすごい内容だった。

まず、内容がストーリーのように面白いので読みやすい。
筆者は臨床心理士の資格と博士の学位を取得し、そこから就職に悩んでいる立場だったが、臨床心理士として「セラピー」ができる仕事はなかなか良いのが見つからない・・・そこから沖縄での仕事を見つけたので沖縄へ出向くことになるが、そこでの仕事は「ケア」がほとんどなものだった。
そんな経緯から起きた沖縄での仕事体験エッセイのような内容にもなっていて、続きが気になるものである。
それから、全部で8章あり、それぞれの章で面白体験エピソードがありながらも、心の問題が理論的に説明されたりもしている。そんな感じで色々なことが書かれているため、内容は濃密である。

そうした語りの中で興味深い概念の話もチラホラ出てくる・・・
「円環的な時間」「退屈の本質」「中間問題」「精神分析と遊び」「冷たい社会」「心と身体が一体になった『こらだ』」「中動態」
・・・そんな感じの概念について、有識者の著作を引用しながらしっかりとした説明がされている所も良かった。

そして、主題は「ケア」「セラピー」についてなため、そのことについてもちゃんとつきつめられている。
確かにこれはみたいな概念で非常に奥が深いものであるため、その奥深さが分かってくる。

さらに、筆者が沖縄でデイケアのような仕事をしている中で、最後の方でデイケアの本質に迫ってくる・・・これも非常に重要な内容だった。
デイケアの本質は「ただ、いる、だけ」ということになるが・・・「ただ、いる、だけ」の本質とはなんなのか? そして、なぜ「ただ、いる、だけ」は正しく機能しなくなるのか? そんな問題にも迫っている。

そもそも、この話は著者自身が臨床心理士として就職に悩む話からはじまっているので、「臨床心理士の仕事って大変なんだなぁ」とも思うし、そこにある構造はつきつめると、人間社会の在り方を考えなければいけないぐらい根が深い問題である。

ちなみに、この本は筆者の沖縄での体験が実話のように書かれているものになっているが、それを本当に忠実に書いちゃうと登場人物の個人情報問題が出てくるため、厳密にはそうでないらしい。実在の人物を出さないようにしながらも、各地にあるデイケアの取材から得たものや、自身の体験を断片化して再構成して作ったストーリーに該当するらしい。
ここまで読みやすさと、学術的な奥深さを合わせ持ったものを作り上げるのは非常に大変なはずである。筆者自身もあとがきの方で、当初は「書くことは難しい」と思ってたらしい。
・・・しかし、素晴らしい本として表現することに成功した。奇跡の結晶のような作品だと思う。

東畑さんは他にも本を出してるみたいだけど、この本は大佛次郎論壇賞や紀伊國屋じんぶん大賞を受賞したらしい。
確かにこれが代表作に相応しいかもしれないと思う。

 
以上。
そんなわけで、『居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書』は、心理系の本でめちゃくちゃすごい本なのでオススメという話でした!

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