【映画】親子愛に涙した。だが、「最高」の定義を問いた【あしたは最高のはじまり】
親子愛や子供への愛を描いた作品。
これは海外だけでなく日本でも比較的テーマとして扱われやすい作品だと思っています。家族との絆や別れは非常に涙腺を刺激してきますし、改めて「家族っていいものだな」と感じさせてくれたりします。
ただ、そういった作品の中には、時に「やりすぎじゃないか?」と思う作品や「なぜそんな流れにしたのか」と言いたくなる作品も多いんですよね。一つの作品をどう解釈するかは人それぞれなのですが、煮え切らない作品が好みではない自分にとって「面白いけど、好きになれない」映画は意外とあるんです。
今回の作品は、まさに自分にとってそういう類の作品でした。涙する場面もありました。笑顔になるシーンもありました。でも、面白いなと思う反面、なぜそんな展開にしてしまうかなと思ってしまう。
たぶん、そう考えている時点で映画に対する思いは、無い映画よりあるのでしょう。これが“好き”になるのかはわかりませんけど。ただ、いろいろ考える意味ではいい作品だったと思っています。
■シングルファーザーと一人の娘によるハートフルドラマ
物語の主人公を演じるのは、オマール・シーが演じるサミュエルだ。ある日、プレイボーイで気楽な暮らしを送るサミュエルの下に、かつて関係を持ったと言うクリスティン(クレマンス・ポエジー)が現れる。そして、彼女はサミュエルに「あなたの娘だ」と言って、生後数ヶ月のグロリア(グロリア・コリンストン)を預けてその場を去ってしまうのだった。
サミュエルはクリスティンを追ってロンドンに向かうのだが、結果ロンドンで手助けしてもらったベルニー(アントワーヌ・ベルトラン)とともにグロリアを育てることになる。不器用だけど、真面目で真っ直ぐなサミュエル。それを陰で支えるベルニー。サミュエルとともに成長するグロリア。笑顔に満ちた3人の家族生活が始まるのだった。
物語の転換点となるのは、サミュエルがついた一つの嘘だった。それによって一度は娘を置いて逃げたクリスティンが二人の前に現れ、母親のいない中で生活を続けてきたグロリアは母の愛に浸っていく。一方、久しぶりに会えた娘に再び母性が働き、クリスティンは一緒に暮らしたいと考える。
それでも、これまで育ててきたサミュエルの思いがグロリアに届かないわけがない。彼が8年をかけてグロリアに注いできた愛情は、久しぶりに再会して“親権を自分へ”と考えるクリスティンに劣るわけがなかった。最終的には一度、クリスティンの下に行かなくてはいけない状況になってしまうのだが、グロリアはパパを選びサミュエルと二人で逃げる。二人が過ごしてきた8年間はかけがえのないものだったことは明らかで、今作を見たことで子供ができた時には深い愛情を持って育てなければいけないなと思った次第である。
だが、ここまでの文章だけだと、こんな愛らしいストーリーなのかと思ってしまうのだが、内実は結構異なる。個人的にはここからが本題だ。
■本当に最高のはじまりなのか
邦題の「あしたは最高のはじまり」に対して、原題「Demain Tout Commence」の直訳は「あしたからすべてが始まる」となる。微妙なニュアンスの違いだが、ここのニュアンスの違いは非常に気になるものだった。
今作は前述したように、サミュエルとクリスティンが親権をどうするかという問題まで発展する。久しぶりに再会してクリスティンが一緒に暮らしたいと思うのは理解できるし、サミュエルではなく今の彼氏とともにグロリアと過ごそうと思うのもなんとか理解しよう。
しかし、前提として言いたいのは娘を置いて逃げた母親である。そんな母親が8年間育ててくれた男から親権を奪おうとする行いには、ハッキリ言って苛立ちが募った。それも裁判までする始末だ。サミュエルが人でなしで、子供も全然育っていないならわからなくもない。でも、誰が見たってグロリアとサミュエルは良い親子である。最終的にクリスティンは遺伝子検査まで持ち出してサミュエルから親権を奪うのだが、まず「サミュエル、父親じゃないのかよ」と思った一方で「それも分からずに預けたんかい」と突っ込まずにはいられなかった。
グロリアが「小さな種の親と育ての親だ」と言うサミュエルに対し、「言葉の違いでしょ」と言い切るあたりは涙で画面が覆い尽くされてしまったが、そこまでしなくてもいいのではないかと思ってしまう。
そして、もう一つ気になったのがグロリアの病気だ。この伏線は中盤で出てくるのだが、ここで“死”を持ち出してしまうのかと寂しくなった。「この愛らしい二人を、母親と病気が引き離す。それを受けてサミュエルは何を考える」。これが今回のテーマなのだろう。
サミュエルは言った。
「完璧な親などいない。やれることをやるだけだ」と。
「飛び降りたら進むだけ。すべての瞬間を楽しむだけだ」と。
最終的にグロリアは亡くなり、サミュエルは新たなスタートを切る。そこで最初の問題に戻りたい。「あしたからすべてが始まる」は理解できる。でも、「あしたは最高のはじまり」と言うのは、あんまりじゃないかと思わずにはいられなかった。
■編集後記
今回はあまり時間がなく、珍しく「次見たものを書こう」と決断して見た映画でした。
そしたら思った以上に、面白かったけれど、好きになれなかった(笑)。もちろんこれが映画じゃんって思う人もいるでしょう。でも、そう思っても仕方ないじゃんと思う自分を許してください(笑)。
では、今回はこの辺で。