てんぐの2024年振り返り:書籍編
今年のてんぐの振り返り、最終日は「書籍編」です。
今年も結構、色々な本を読んできましたよ。
てんぐの2024年ベスト3
2024年のてんぐマイベスト書籍は、やはり両京十五日、武侠小説版東離劍遊紀、火輪の翼の三本ですね。
この三本、どれをとっても年間ベスト作品として選んでもおかしくないってくらいの出来栄えでした。
この記事を読まれた方へ、どれもお読みいただくことを強く強く推薦する次第です。
今年の早川書房
今年は、早川書房から出た本をかなり買ってました。
まずは、ついに文庫化された三体シリーズ。
三体シリーズは聞きしに勝る傑作でしたが、やはり第二作「黒暗森林」が一番お気に入りかな。
また、大日本将国という突飛すぎるアイデアから入った素浪人刑事も読み応えありました。
そして、今年は初めてロバート・ハインラインの長編小説を読みました。
古典SFの傑作として名高いですが、それだけに敷居の高さを感じておりましたが、実際に読んでみると平易な文体の中に社会に対する考察の深さが含まれ、何より普遍的な人間味が感じられ、大変読みやすかったです。
月は無慈悲な夜の女王はノイエ銀英伝のスタッフでアニメ化してほしいです。あのチームなら相性良いでしょ。
一方、宇宙の戦士の男子校の日常めいたノリと相性良さそうなのって実は宮藤官九郎かなって気もします。ただ、クドカン版宇宙の戦士もスターシップトゥルーパーズと同じくパワードスーツが出てこないかも。
そういえば、うちの図書館にはハインライン作品の人形つかいや夏への扉も置いてありました。今度読むかなあ。
SFといえば、夏のKindleセールを利用して戦闘妖精・雪風シリーズを電子書籍で一気買いしました。
OVAも面白かったですが、原作も読み応えありました。
「空を飛ぶものに騎乗するもの」という点で雪風と通じるのが、ドラゴンランスの系譜に連なる新たな大作ファンタジー、フォース・ウィングです。
雪風ともドラゴンランスとも通じますが、竜との契約で獲得できる能力については、むしろジョジョの奇妙な冒険のスタンド能力に近い感じもしました。
そして、“暴力”を純粋に愛し憧れる物騒この上ない新主人公(かもしれない)田村伊歩のFAF生活、ラスト1ページですべてがドラマの前提すべてがひっくり返ったクリフハンガープロットに直面した竜騎手の物語の続き、どちらも早く読みたいなあ。
そんな早川書房の作品ですが、来年の年明け1月8日に、両京十五日に続く新たな馬伯庸作品の邦訳作品として西遊記事変が出ます。
早川書房さん、今後も馬伯庸作品の邦訳を出し続けてほしいです。
そして、何度も申し上げてますが、「台湾文学コレクション」の一環として古龍先生の武侠小説も邦訳してほしいです。
今年の古本収穫シリーズ
古本市を冷やかすのはてんぐ毎年の楽しみなのですが、今年はかなり収穫がありました。
<タルマ&ケスリー>シリーズはアレクラスト大陸を舞台にしていた頃のソードワールド小説群を彷彿とさせましたし、ガンダム・センチネルについては希少性と面白さの双方でその筋には説明不要、てんぐも見かけた時はビックリしましたよ。
こういう出会いがあるから、古本市巡りはやめられません。
ドリッズトの伝説 ヴィジュアル大百科
ダークエルフ物語はこれまで触れた古今東西のファンタジー作品の中でも十指に入るくらい好きなんですが、その主人公ドリッズトと、彼が出会った人々や旅した地域についてのヴィジュアルガイドも今年発売されました。
これはD&Dユーザーとしても大変ありがたい資料集でした。やっぱり、ヴィジュアルとして示されるとイメージが湧きやすいですし、そして今出てる日本語版だけではわからなかった各キャラクターの背景なども把握できました。
これも、買って良かった一冊でしたねえ。
世界各地の“時代劇”も面白かった
今年は世界各地を舞台にした“時代劇”、近代以前を舞台にした冒険活劇や歴史スペクタクル作品に触れる機会も多かったです。
まずは、今年の頭に読了したゼンダ城の虜。
これ、何らかの形で再映像化とかできないかなあ。もしくは、他の文化圏を舞台に翻案するとか。
そして欧米圏の冒険活劇の代名詞のひとつ、怪傑ゾロも忘れちゃいけません。
考えてみれば、今年の頭に原作を読み、その後にアラン・ドロン版の映画、そしてドラマZORROを見たわけで、今年のてんぐはゾロと縁が深かったとも言えます。
そうそう、今年はベルサイユのばらをちゃんと読んだ最初の年でした。
実際に読むと、オスカルたちのギャグとかヤンチャさとか、イメージと違うところが多かったのに驚きましたが、それと同時にのめり込んでいきました。
ベルばらや昨年読んだスカラムーシュなどフランス革命期共和主義派に肩入れするヒーローの話に親しんでいたので、ちょっと印象が悪かったのが紅はこべでした。
ただこれも、後述する「民主主義とは何か」など、フランス革命当時は世界的に主流だった「民主主義」に対する否定的な意見を念頭における著作を読んだ今読めば、印象が変わるかもしれません。
東アジアの海を舞台にした作品である、文庫版の「海神の子」、そして「戦国海商伝」を読んだのも今年でした。
もちろん、新九郎、奔る! もコミック乱の大乱 関ヶ原も毎回楽しみに読んでました。
18巻の新九郎の諫言の下りは、正しいのは彼の方なのはわかりますが、それでも何か「お前、自分が正しいから何を言っても許されるし相手も従うべきだって思ってるだろ?」ってカチッときた面もあるんですよ。実際、細川政元も「1年間も京を離れて姉と甥の跡目争いにかまけてた奴に言われたくはないな」ってチクリと刺してました。それだけに、御所様と広沢彦次郎の「暗君」と「佞臣」というレッテルを張られた者同士の、互いから離れられなくなるほどの結びつきの方に、どこか感情移入をしてしまいました。
で、この「諫言」をする側の気持ちとしては、大乱 関ヶ原の4巻でも本多正信の口から「勘気を被る度に切腹を覚悟していた」と語られてました。
ただ、こちらの諫言される側である家康はといえば、切腹は命じないけど聞き入れてくれないから大乱に至ってるわけで、「じゃあもう戦するしかないでしょ」と半ば突き放されてから二郎三郎時代の冴えと覚悟が蘇るという展開が、人間の奥深さというか面白さを感じさせます。
それにしても、センゴク時代と全く同じ芸風で出てきた仙石秀久には笑ったなあ。
学術的な本も結構読んでました
小説やマンガや劇画が主体にはなっていましたが、歴史や政治思想の本も何冊かは読んでました。
殴り合う貴族たちは光る君への予習として、関東戦国史は新九郎、奔る! のその後の話を知っておこうかなとKindleで購入しました。
小田原北条氏の関東進出って、別天地建設を目指した北条早雲以来の大いなる野望というより、目の前の安全保障問題を解決していく度により大きな問題が出現していくという伊勢新九郎の人生を拡大再生産し続けた歩みに見えてきます。
そして、先ほど読み終わり、おそらくは2024年の読書納めとなりそうなのが、宇野重規氏による民主主義とは何かです。
「民主主義の危機」を唱える人が増えている昨今ですが、ではその中で、「そもそも民主主義とは何なのか」、あるいは「民主主義とはどのように語られ認識されてきたか」を落ち着いて説明できる人って、どのくらいいるでしょうか。
「少数の代表者や責任者を選出すること自体が貴族政的だ」として選挙自体を否定し要職の任命を抽選にするほど「民主政」を徹底した古代アテナイ市民の事例や、逆に「民主政」とは危ういものであると見なして「共和政」を推奨したアメリカ独立の父たちの政治観、そして近代だけでなく現代に至るまでも繰り返されてきた「民主主義」に対する批判や否定、あるいはそれ自体の蹉跌などを紹介するこの本は、いわば「民主主義の歴史」でした。
そんなこの「民主主義とは何か」、ノイエ銀英伝の同盟の社会描写に関心を寄せた人には強く推薦できます。
2025年に読む予定の本
昨日、今年最後の本の買い物をいたしまして、その際に購入したのが物語 フランス革命と銀河之心Ⅰ上下巻です。
物語 フランス革命は、来年公開のベルばら新作映画の予習も兼ねてってところです。
あと、銀英伝の幼帝亡命(というか誘拐)以後は急速にゴールデンバウム王朝廃絶に方向へ加速していく帝国平民の心理を読み解いていくため、という面もあります。
銀河之心も、カバーアートがノイエ銀英伝とも縁が深い麻宮騎亜さんによるものって面もあり、早く買いたかったんですよ。
この三冊がおそらく、2025年の読み開きとなるでしょう。
その後には、前述いたしました馬伯庸の西遊記事変もありますし、また同時に宇宙大将軍SFアンソロジーという、異様なまでのパワーある字面のこの作品も大変気になります。
なお、史実の宇宙大将軍については、鳥人間さんのこちらの解説をご覧ください。サムネイルが遠い昔の遥か彼方の銀河系めいてるのはまあご愛敬ですが。
また、千葉ともこさんによる新しい連載も始まります。
今度は隋の煬帝がお題ですかー。
また新潮社から「倭寇とは何か」という大変刺激的な本が出る予定です。
また、安倍政権時代の政治観が過去のものとなった今、政治や社会を語るなら、表面的な理念だけを掲げた看板に依存せずそれ相応に専門書を読んで日々勉強していくことが求められていきます。
「民主主義とは何か」を買ったのもそれが理由なのですが、その他にも様々に専門書を読んでいきたいです。
来年は、どんな読書体験をしていくことになるのでしょうか。今から楽しみです。