西之島でアオツラカツオドリを見たヒトに話を聞いてみた
『けもフレ動物園レポ合同4 ZOOMIN』(主宰:沼底なまず)寄稿
(インタビュー記事4P+イラストコラム4P、一部加筆・修正・引用)
メディアミックス作品『けものフレンズ』の作中舞台・ジャパリパークや世界観の着想、モデルになったと考えられる小笠原諸島・西之島。ある意味ではコンテンツの最大の聖地。2019年に行われた第1回西之島総合学術調査に参加し、その地に足を踏み入れた数少ない人である岸本年郎教授(ふじのくに地球環境史ミュージアム研究員、昆虫分類学・生物地理学)にお話を伺い、コンテンツの二次創作としてインタビュー取材させて頂きました。
・西之島が新島を形成する大規模な火山活動が始まったのは2013年11月。『けものフレンズ』プロジェクトの発足・開始は2014年。
・作中のキーアイテムである未知の物質・サンドスター、セルリウムは火山噴出物。また作中描写、設定資料等からジャパリパークは本土から離れた東京都小笠原諸島に属すると思われる急成長した火山島。
・2023年現在、アオツラカツオドリは日本国内では尖閣諸島と西之島でのみ繁殖を確認。
未来のジャパリパーク西之島で
アオツラカツオドリと女の子
を見たヒトに話を聞いてみた
遥か1,000km先の聖地
── 岸本教授が西之島の学術調査に携わった経緯をお聞かせください。
岸本 環境省が世界遺産の小笠原諸島の一部でありながらそれまで明確な規制や法がない状態の西之島を保全地域にするため、西之島に学術的な価値があることを確立するために専門家を集めて調査することになって、僕は元々小笠原諸島の昆虫を長年調べていたのに加えて、昆虫以外のダニやクモ、トビムシ等の"虫"全般、土壌生物を扱うことができるので声がかかりました。
── 調査にはどのような準備をしましたか?
岸本 一番大事なのはヒトの手がほぼ入っていない島なのでヒトの影響を与えないこと。外来種を持ち込まないこと。調査直前に使用する衣類や器具を可能な限り、新品で揃えて冷凍・消毒・検品をして保管する目張りした密室、クリーンルームを作る日を設けました。これが厳しくて使い慣れた器具ポーチがあったので自分で洗濯・冷凍したのですが、検品でマジックテープの目地に枯草の欠片があってNG、新品を使うことになりました。また半月前くらいに東大の地下施設で水泳訓練をしました。クロール100mを何本か。平泳ぎは波や天候によっては流されたり息継ぎができなかったりする。船を停留する場所がないし、ウェットランディングと言って全身を海水で洗い流す必要があるのでゴムボートから数十mは自力で上陸する。実際の現地では足が着ける所からロープを伝って行けたので泳ぐことはなかったですが。上陸サポート班が泳ぎに不安がありそうな人をチェックするためでもある。
── 島へはどのように向かいましたか?
岸本 海洋調査船で行きも帰りも他の島を中継せず、そのまま約1,000kmを丸2日近くかけて。船は寝具もしっかりして専属のコックさんもいて快適でした。小笠原に常駐のメンバーもいたので、その人達は父島からの別の船で合流しました。
── 上陸した西之島の印象はどうでしたか?
岸本 とにかく生まれたばかりの原始の島という感じで草もない溶岩ばかりでこういう風にして陸ができるというのがわかる。それでもすでにコロニーを形成していたアオツラカツオドリの群れ、他にも多くの海鳥達がいて、その死骸や吐き戻しにも虫がいて凄いなと思いました。一方でそんな島にも海洋ごみが流れ着いていて、海鳥の巣材の大半がプラスチック製、何かの注射器のような物とかが混ざっていたりして衝撃的でした。
── 調査はどのようなことをしたのですか?
岸本 基本的には虫取り。どんな虫がいるのか、新しくできた溶岩台地にはいるのかを様々な方法や罠を使って調べました。多くは半世紀近く前から残っている旧島の数千平米ほどの狭い範囲に30種類ほどが見つかりました。船に戻ったら採取して保管するものは行きと同じような密室、ダーティルームの中にまとめて整理。夕食の時は他の研究者と酒を飲みながら意見や議論を交わして楽しかったです。
── 調査で気を付けたことは?
岸本 日差しを遮るものが何もないので熱中症対策のために1時間に1回の休憩は必須でした。それに火山活動の懸念もありました。何人かは日没後も島に残って夜間調査を行ったのですが、直前まで可能かどうかペンディングをしました。真っ暗で噴火の怖さも多少ありましたが、それよりもどんな生物が見つかるか、わくわくの方が上だった。また台風の影響で本来は5日間の調査の予定を日程も早めて3日に短縮しました。
教科書を覆す土
── 調査での一番の発見はなんですか?
岸本 海鳥の死骸の下に土壌ができていたのが凄い大発見です。植物が生える前の段階でも海鳥の死骸等が分解されて、それが土になっていくというのが示された。これはまだ英語の論文にしていないですが、いずれは書かないと。
── 高校生物の教科書とかではコケ等の植物が徐々に入ってきて、その枯死物から土壌が作られる、と大抵は書かれていますね。それは全く予想ができなかったことなのですか?
岸本 予想できなかった。でも見ればすぐに頭で理解できた。重要なのは植物が入り込む前の新しい溶岩台地に動物遺体から土壌、少なくとも土にしか棲めない土壌生物が棲める環境ができていたことです。他にも噴火の影響で一部の植物やそれを食べる虫が絶滅した一方で日本では未発見のガが見つかったり、複数種確認されていたアリの勢力分布が入れ替わっていたり、絶海の孤島であっても命が繋がれていることが感動でした。
完全なゼロの島、未知の領域
── 調査から3ヶ月後、再び大規模な火山活動が始まり、西之島はまた大きく変わりました。
岸本 噴火前に調査ができてよかった。それまで鳥類学者や行政のレンジャーの人によって得られた記録やサンプルが断片的にあったが、はじめて虫を専門とする人間として島を調べることができたのは大きかった。
── 噴火によって色んなものが失われましたが、残念だなとは…
岸本 全く思わなかった。噴火によって絶滅した生物相を知ることができて、これだけはっきりと自然に絶滅したと断言できるデータも世の中にはそうはない。さらに島は調査の時点でいつから生息していたのかがわからない生物がいて、新しくできた島にどのような順番や過程を経て生物が入り込んで生態系ができるか考える上で西之島は完全な手付かずの状態、ゼロの島ではなかった。旧島には植物が残っていましたし、昔の船で意図せず侵入して生き残り続けたと思われる外来種のワモンゴキブリもいたので、今後の観察のためにゴキブリを根絶する案もありました。それが自然の噴火によって生態系がリセットされたことは非常に好都合で西之島は学術的な研究対象としてさらに価値が上がったのです。
── 今後、西之島はどのように変化していくと予想しますか?
岸本 地学的なことでは火山活動や浸食によって拡大も縮小も、場合によっては消失も考えられます。生態系的なことではいつ植物が入り込んでくるのかが重要です。既に島には海鳥が戻ってそれに付着した分解者の昆虫は確認されている。一時的にガも飛来しているが植物がないので定着はできない。今後、恐らくは海鳥によって運ばれるでしょうが、どういう状況で植物が入って定着して植生ができるのか、その一番最初が楽しみ。それは人類が今まで見たことがない領域です。そんな状況でも海鳥達は溶岩台地の地熱が低温で安全な場所を探して余裕で繁殖しているのが面白い。今もドローン等を使って調査は続けられていますが、観測できない場所もあるし、上陸してはじめてわかることも多いので僕もいずれまた調査に行きたいです。
About 西之島調査
SFの方舟
── けもフレ含め、SF作品では絶海の孤島に研究施設を作るという設定が色々ありますが、西之島では難しいですよね。
岸本 ヒトの影響を与えることをするのは流石に難しい。物資やインフラ、予算の面から見ても厳しい。でもフィクションにおけるそういう設定はノアの方舟的でロマンがあって面白いと思う。
── …少し核心めいたことなのかもしれません。
岸本 今の日本列島や大陸は生物や生態系やどのようにできたか歴史的背景があって、あまりに複雑すぎて研究し尽くすのは難しい。それが島だと構成要素が単純化されて生物種が少ないのでそこの生物がどのような関わりがあるか、いつ頃やって来たか、比較的想像しやすい。外来種の影響も大きくて侵入してしまった場合はどこまで及ぶかも検証しやすい。西之島は他では研究ができないことを物凄い時間はかかるができる場所ではある。サバンナにしてもジャングルにしても、それらが形成される過程は人類が知能を得る以前から続いていて長過ぎて知り得ない。でも想像してSFやエンターテイメントにも昇華する術を持っている。想像やフィクションで時間を短縮して色んなことを先取りしたり、知らないことを考えたり。島の生態系の成り立ちを地球の現在の構成要素として疑似的に考えていくというのにも近い。それを通して生命の多様性が魅力的なのを知って楽しむことができる。
答えのないミライ
── ふじのくに地球環境史ミュージアムではどのような仕事をしていますか?
岸本 ミュージアムの研究員としては運営に携わっていますし、展示する標本の作製や整理もしていますが、講演や観察会を通じて色んな人に生き物の面白さを知ってもらうことを自分の中ではメインとしています。
── ミュージアムの特色はなんですか?
岸本 博物館としては新しく、地方で規模もそこまで大きくない。でも小規模でフットワークの軽さはあるので展示物そのものではなくユニークな発想で勝負できるようしています。調査研究もしっかりしつつ、面白いことができるように考えていますが、展示を見て学ぶのではなく考えてもらうミュージアムを目指しています。テーマが「百年後の静岡が豊かであるために」で、過去ではなく現在のほとんどのヒトが生きて残っていない未来、しかも答えのないことを考えるというのはミュージアムとしてはユニークなのかなと。
── 企画展も毎回ユニークな視点だと感じます。どのように作っているのですか?
岸本 構想は常日頃していますが、年一回ほどの企画展は一年くらい前から動き始めていて、そこから会議で方向性を決めて、コンテンツになる展示や資料を集めます。美術は常設展を手掛けたデザイナーがずっと関わっているので見せ方も一貫性を持たせながら色々工夫をしています。
インタビュー記事と同時に寄稿した岸本教授が研究員として活動しているふじのくに地球環境史ミュージアム、また同じ静岡市内に所在して去年度まで一般公開されていた東海大学海洋学部博物館のイラストコラム(+写真)
ふじのくに地球環境史ミュージアム
↑岸本教授による企画展の音声ガイド。展示を観ながらスマホで聴くことを想定されたため、PCから聴取する場合、UIの関係で一部画面表示を拡大縮小等して調整する必要あり。
東海大学海洋学部博物館
メデル、マモル、タモツ、スベテ
── 教授は昆虫を扱っていますが、その魅力を伝えようとしても伝わりづらい、敬遠されることが多いような気がします。
岸本 確かにそれはあるけど、僕は研究対象として昆虫が特に面白いと思っているだけで、基本は生物全般に対して興味を持ってほしいです。
── 動物愛護とか環境問題とか誤ったやり方や偏見が多いと感じます。どうやったら人に正しく興味や関心を持ってもらえるのでしょう。
岸本 愛護は愛して護る、ですから特定のペットやコンパニオンアニマルに対してしか行われない。近所でもネコの餌付けとかがあるのですが、夜道で出くわす獣が以前に比べて目に見えてタヌキが減ってネコが多くなってしまった。恐らくはタヌキの幼獣が襲われている。餌付けする人はそんな影響があるとは想像もしないでしょう。環境問題に関して、自然保護という言葉はもはや古くて環境保全と言った方が正確です。保護はヒトの手を排除することだが、保全は時にはヒトの手を積極的に加えてメンテナンスしなければならない。地球上に全くヒトの影響がない土地はないし、ただ単純にヒトが手を加えなければいいという考えは地球においてナンセンスです。
── 見方によってはヒトも生態系の一部ですし、管理から外れた里山や雑木林の生態系が行き詰まり、災害や獣害が増える原因にもなっています。教授はヒトの生活圏での外来アリの防除も行っていますがそれも保全のためです。
岸本 どういう形でやればいいかを常に模索しなければならないですし、それも答えのない問題です。色んな人に色んな生き物がいることを知ってもらえることができれば、ない答えに近付けるかもしれません。外来生物学者の坂本洋典博士がゲームのテキスト解説・監修で関わっていますが、彼もけもフレのコンテンツを通じて昆虫や絶滅危惧種や色んなことに関心を持ってほしいという考えをきっと抱いていると思います。
閑話
「私だって生態系とか環境問題についてそれなりの見識を有した上でインタビューをしているんだぜ」感を出すためだった一文。一年後、異常気象(これも間接的なヒトの影響なのだけれど)も相まってクマ・シカ等による獣害がここまで増えるとは思わなかった。ゲーム内の何気ないテキストもセンシティブに感じてしまう。
『けものフレンズ3』のゲームにおける装備アイテムはフォト、写真(として描かれたイラスト)である。記憶や思い出がストーリー・テーマの根幹にあるのと、メタ的にはメインデザインと画風の違う複数のイラストレーターを無理なく採用するためである(と思う)。同じフォトを強化に使って、いわゆる限界突破させると効果に加え、イラストとフレーバーテキストが変化する。
獲得したキャラクターごとの個別シナリオをクリアすると、そのキャラクターの固有装備としてモデルになった動物が描かれ、テキスト部分は動物園・水族館の飼育員や動物研究者、写真家等の専門家による解説が書かれたフォトが報酬として獲得できる。
私の中での『けもフレ3』の最大の不満点は、通常のフォトは所持していなくてもアーカイブで変化前のイラストとテキストを閲覧できるのだが、固有の動物フォトはキャラクターを獲得して個別シナリオをクリアしないとメインシナリオのクリア報酬同様、アーカイブでアンロックされず閲覧できないことである。限界突破してもテキスト部分はイラストタイトルが追加表記されるだけなので、アーカイブで誰でも閲覧できるようにしてほしい。非常にもったいない。坂本洋典博士は専門は昆虫なのだが多数解説に携わり、対象が鳥獣でもUMA・妖怪でも面白く、かつ興味深く話を広げている。
一部を引用として紹介したい。
※岸本教授曰く、小笠原諸島母島という隔離された狭い土地なことに加え、食糧兼棲み処であるオオバシマムラサキも保全の管理下にあるため、絶滅の宣言がされていないだけでオガサワラシジミが今も生息している可能性は極めて低いそうです。
一昨年末に逝去された自然写真家でジャポニカ学習帳表紙写真で知られる故・山口進も複数寄稿されている。
実装までストックされていたのか、最近になって公開されたものもある。(これが生前最後に執筆・寄稿した文章なんじゃないか?)
擬人化美少女コンテンツの一要素に留まるにはあまりにも惜しい。どうにか頼みますよ、アピリッツ。
普遍的なマイナー、時を超える
── 私個人としては教授がプロデュースした企画展『しずおかの酒と肴』は感銘を受けました。多くの人が興味や関心を持つ食文化から生物多様性に繋げるのが。正直、私がけもフレに対して感じているものに近いのかもしれません。
岸本 僕自身飲むのが好きなのもあって「公私混同でしょ!」と冗談も言われましたが、僕らが心を豊かに暮らすために娯楽は人類の福祉でもあるし、多様性には思想や生物多様性以外にも遊びや楽しさ、娯楽の多様性もある。アート、スポーツ、ゲーム… 生き物を掘り下げることも楽しいしある種の娯楽でもあるので、そこから色んな切り口で繋がることができれば。
静岡県東部ベルナール・ビュフェ美術館で岸本教授も携わって開催されたビュフェの絵画を実物の標本を比較しながら鑑賞する企画展『いきもののかたち ビュフェの“自然誌博物館”』。保存の観点から敬遠されることが多いため、美術品と生物標本を併せた展示は珍しい。
静岡県が舞台芸術事業を行っていることもあって、岸本教授は舞台関連の企画にも呼ばれることもあり、アマチュアで活動していた筆者と知り合ったきっかけもその辺りなのである。合縁奇縁。
── 一つの生き物を掘り下げても、他の生き物との関わりがあって、小さな虫や草にも生態系に何かしら役割があることも知れますし。
岸本 ただ役割という言葉も必ずしも正しくはないし、僕はあまり好きではない。役に立たないものがいてもいいのが多様性の本質なのかなと。
──「役に立つ」というのも人間の主観でしかないし、何かしらの「意味がある」でしょうか。
岸本 そうですね。「無意味な存在はない」と言った方がいいと思います。ヒトを含め生物の社会で大事なことは一個体とも単独で生きられるものはいないことです。個体レベルでも種のレベルでも他の生物の関与によって環境は構成されるので。哲学的な話だけど、生物の肉体は無生物に還元、土に還ってまた何かに使われる。しかもそれは個体の死によって起こるのではなくて、僕らは常に垢とかフケとか、体の一部を還元しながら生きている。生命の本質は物質ではない。"私が私である本体は何か"はわからない。DNAまで還元することもできるが、DNAだけで個体は存在できない。ヒトは他者と関わることで個体の違いを知れて、個体の違いはどの生物にもあって、それを意識した時、どれもが大切な存在に思えてくる気がします。だからどんなことでも知ろうとすることは大事だと思います。
── 役に立たないものがいてもいい、という多様性の在り方は仕事や創作や生き方に悩んでいる人への救いになる優しい考えでもある気がします。「何か意味はあるんじゃないか?」「誰かに届くんじゃないか?」とちゃんと模索すれば続けることができる。
岸本 僕も甲虫のハネカクシの分類という世の中の大体の人には刺さらないし伝わらないことをしています。でも研究の良い所は論文を書いて残せば、時を超えて誰かが拾ってくれる可能性がある。生物分類や生物地理なんかは特にそれが間違いない。言わば"普遍的なマイナー"。すぐに有益な利用法には繋がらない生物分類もリンネが学名を記載した時代からこれからも普遍的に連綿と続く。今の科学のトレンドでメジャー、例えば、環境DNAの分野は研究が盛んだけど、多分これはいずれ科学としてスタンダードになって、それ自体は研究する対象ではなくなる。僕のやっていることはマイナーでも普遍的だから誰かに届いて時を超えて繋がれるという確信がある。それに僕は研究が好きで面白いと思ってやっているし、そう思うのはあらゆる生物が何故そこにいるのか、どこから来たのかを進化や歴史を通じて考えることができるからです。だから西之島のような土地に行った時に「これがいるのか!」とか「これしかいないのか!」と感動するのです。
Interviewee: 岸本 年郎 教授
大阪府出身。ふじのくに地球環境史ミュージアム研究員。昆虫分類学・生物地理学。小笠原諸島の昆虫研究や外来種防除に携わる。2019年、第1回西之島総合学術調査に参加。講演トークの場所はカフェ・バー・劇場・路上と幅広い。酒と昆虫を愛する。
Interviewer, Written by, Illustration by, Photo by: 利一 谷渡朗
2022/11 @人宿町やどりぎ座
『けもフレ動物園レポ合同4 ZOOMIN』寄稿
(沼底なまず 同人サークル:ナマジン)
2022/12/30(コミックマーケット101)頒布
後記
取材の経緯について、元々、岸本教授から2019年の学術調査の土産話を聴いてからなんとなく『ゲームさんぽ』的なことをできたらなあと思ったのが発端です。また『ポケモン化石博物館』も着想になっています。
「役に立たないものがいてもいいのが多様性の本質」という言葉は、生物多様性に留まらず、かつては人の役に立とう、社会に貢献しようと志してどこかで折れた自分に対して深く突き刺さったのです。
創作活動、とりわけ同人活動に限っても、美少女コンテンツで二次創作のイラストを描くことを続けていながら、緻密な絵柄や流行りの画風でかわいい女の子も描けなければ、バズるような漫画も描けない。エロ同人も描かない(というか描けない、画力としてもモチベとしても世間体としてもだ)し、同人なのに同好の人間、コミュニティに対して積極的に関わろうともしない。細々とニッチなことを継続している身としてはその多様性を信じるべきで、今役に立たないならば立たないなりに自分が成すことの意味を模索していくべきだと考えるのです。
その中で、動物を扱ったコンテンツの二次創作としてここまでやったら刺さる人には刺さる、伝わる人には伝わるものが提示できると考え、不慣れながらインタビューという形で執筆しました。一昨年の夏、事故で生死の境を彷徨い、満身創痍で病院のベッドに横たわりながら、ゲーム内のテキストを読み、合同誌への寄稿の募集を見た時から、何かを成さねばと思案した結果でもあります。
取材のご快諾を頂き、岸本教授には心より感謝です。
「西之島」でネット検索すればサジェストワードに「ゴキブリ」と出てきます。前述の通り、2019年には確認されたワモンゴキブリが現在も西之島に生息している可能性は限りなく低く、仮に、今後の調査で生息が確認された場合、それは何故生き残ったか、あるいはどこから来たのか、生物地理としては興味深くすらある発見であり、その原因を考える必要もあります。
しかしゴキブリというキャッチーさでネットでは2019年調査の記録、報道だけを取り上げて「西之島でゴキブリが大繁殖しているって、ウゲー」だとか「どうせ調査の時に運び込まれたんだろ」だとか、いまだに間違った認識を持たれ、専門家を自称する人間ですら正確さよりもオモシロやウケのために「どうせ生き残っているでしょwww」と動画でいい加減な言説で語ることに歯痒さを感じます。また、何かしらへの安易な批判で「○○は西之島にでも島流しにしろ」と軽薄な引き合いに出されることに対しても私はいい顔ができず、自他に対して物事をちゃんと正しく知ろうとすること、考えること、伝えようとすることに何事にも努めないといけないなあと思うのです。
取材後、『けもフレ』に興味を持ってくださったので2019年公演の2.5次元舞台のDVDを岸本教授に貸したら観返すくらいは気に入って頂けまして、配信でアニメの方もチェックしたそうです。恐縮。気に入ったアニマルガールはデザイン面でヘビクイワシ、演技面でトキ(CV:金田朋子)だそうです。
↓レンタル配信
↓再演舞台、2.5次元を初めて生で観たが、よかった。
インタビューの中で意図して引き出そうとしたわけでも話を盛ったわけでもなく、「時を超えて繋がれる」という言葉が出た時、それは生きることに対する普遍かつ不変のテーマなのだと確信しました。
2023年2月、東京農業大学の研究チームが小笠原諸島に生息する固有種「オガサワラシロヒラタカメムシ」を新種として命名。
1999年に岸本教授が初の個体を発見・採取していたことに因み、学名は「Nesoproxius kishimotoi(ネソプロキシウス キシモトイ)」となりました。