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親友に応援されない恋なんて

「じゃあ貴重な高校生活楽しんで」
親友から吐き捨てるように言われた。







今年の三月に卒業した、大好きな先輩のライブに行った。ひとりで。
アジカンのコピバンをするのだという。

もともとは親友と二人で行く予定だった。

先輩が高校を卒業してからも、
恋人を作ってからも、
堪えきれず連絡を続けているわたしを
一番近くで見ていたのがその親友だった。

だから、
卒業してもう二度と会えないと思っていたわたしの気持ちを、
卒業式から3ヶ月後、突然ライブに来ない?と連絡がきたわたしの胸の高鳴りを、
彼女はいちばん理解していた。







ライブが始まる一時間前。
待ち合わせ時刻より
だいぶ早めに着いた明大前。
胸の高鳴りが抑えられないまま、わたしはイヤホンをつけてアジカンのソラニンを聴いた。

もう夏なんだとおもった。





いつも遅刻してくる親友も、
なぜかその日は珍しく時間通りに来てくれた。
だが、安堵したのも束の間

“やっぱりわたし、帰るね”

と一言。











どうして?


頭の整理が追いつかなくて、
さっきから止まらなかった額の汗が、
更に速度を増して頬に垂れてくる。

どうして?と何度も声を上げた。









恋人がいるのに、自分のことを好いている女をライブに誘う男の神経がわからない。

そんな男にデレデレしている親友の姿を見るのが急に嫌になった。

と。



全くもって彼女の言う通りだとおもった。



ずっと、恋愛体質な私の恋を
応援してくれていた親友。
何度別の人を好きになった、と言っても
大笑いしてくれていた親友に、
はじめて自分の恋を否定された。


親友に応援されない恋なんて、今すぐやめたほうがいいんだ。



頭ではそんなことを思っていても、私は極度の恋愛体質だから、素直に諦めるなんて言えなかった。

私はもうすぐ、本格的な受験生になる。




残された女子高生としての時間で、本気で恋したいと思えた人がこのひとしかいない。

最後にもう一度だけ先輩のギターが見たい。

と思わず口に出した。

親友は、鼻で笑って一言。

“じゃあその、貴重な高校生活、楽しんでね。”






今考えていたら、どう考えても私が間違っていた。

去年の三月、先輩の引退ライブで
これが最後なんだ、と決意したことをもう忘れていた。

こうやって
もう一度だけ、を繰り返している時点(恋人ごっこ意識してないよ)で、
私は先輩のことを全く諦められていない。
しかも彼には恋人がいる。
浮気に近いことをしてしまっているのである。




親友に応援されない恋なんて、だめなんだ。

彼女が誰よりもわたしをわかっていることを
私も知っている。

だから、ライブ終わりの彼が恋人と別れる意思がないことを確認した後、改めてちゃんと諦めようと思った。







先輩の前では何も言葉が出なくて、いつも黙って俯いてしまっていた。

中学三年生、貴方のギターに出会ってから、
私の軽音楽部への夢が広がりました。


結局この感謝の気持ちも伝えられないまま
私は先輩のことを諦めなくちゃいけない。


辛い気持ちをリライトにのせて、
わたしは静かに明大前から離れた。




もう夜空が群青色だった。夏だ。



こればっかりは夏のせいにできない。

全てにおいて、そろそろ怒られろ。初夏。

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