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青山ブックセンターが示す本屋の新たな可能性

先日、消費文化総研のみんなと青山ブックセンターの店舗見学に行ってきました。

青山ブックセンターの山下さんとは以前から本屋さんのあり方についてお話しを伺っていたのですが、今回改めて店内を案内していただき小売視点でのまなびがたくさんありました。

特に感じたのは、新しさやエッジは自分たちが「こうだ」と信じたことの結果がでるまで我慢することから生まれるのだということ。
見学が終わった後にコミュニティメンバーとも話していたのですが、フェアや棚の動き出しがあまりよくない場合でも一ヶ月は様子を見るという話がとても印象的で、すぐに変えようとしないこともまたひとつの決断なのだなと思ったのです。

青山ブックセンターは哲学系の本や海外文学が強いそうなのですが、その特徴もはじめからあったわけではありません。
根気よく独自の棚づくりを続けることでそのジャンルのファンが集まってくれるようになり、それにあわせて選書も洗練されていき…というサイクルがうまく回るまでは時間がかかったとのこと。

一時期は売れ筋ランキング上位のものを揃えてみたこともあったそうですが、売れているということは『すでに需要が満たされている』状態なのではないかと気づいた、と山下さん。
その経験から、今の『自分たちから仕掛けていく』というスタンスが作られていったとのことでした。

実際にお話を伺いながら店内をめぐってみると、他の書店ではあまり見かけないような本が一等地の棚で大々的に展開されていたり、流行りの本だけではなくロングセラーが多く並べられていたりとたしかに『このお店だから売れる本』にこだわっている印象。

また店舗の奥には古書コーナーもあり、単に安い本ではなくヴィンテージに近い価値ある書籍が並んでいたのも青山ブックセンターらしさを感じたポイントでした。

そしてもうひとつ、青山ブックセンターのつよみといえば著者や企業と信頼関係を築き、そこから生まれた企画が大きなうねりになっている点です。

たとえばちょうど木村石鹸のフェアが展開されていたのですが、単に本以外の商品も扱うという施策ではなく、もともとの人間関係があった上での企画だからこそ、両社のファンがちょうどよく混じり合うことにつながっているのではないかと思いました。

お互いがお互いの姿勢や考え方に共感しているからこそ、青山ブックセンターのファンが木村石鹸に出会ったらファンになる可能性も高いし、逆もまたしかり。
流行っているから、ファンが多いからという理由だけでコラボしても効果は限定的で、継続的に効果を出すためには長く一緒に取り組んでいくことが必要不可欠です。
そのためにも担当者や会社同士が似た感覚を持っていることが今後のコラボレーションにおいて重要になるのではないかとまなびになった事例でした。

これ以外にも最近の書籍市場や書店のあり方についてたくさんのお話を伺い、メンバーそれぞれに学んだことをシェアするなど大満足のツアーでした。
そして今回もツアー翌日にコミュニティ内で振り返りチャットを開催したので、その内容を一部編集してお送りします。

オフラインこそ「新しいものを仕入れる場所」へ

最所:それでは昨日のツアーを振り返っていきます!

個人的には
・ランキングは気にしない、なぜならすでに売れて「行き渡っている」可能性が高いから
・ABCらしさを意識し始めたら海外文学や人文学系の書籍が売れるようになってきた。売れる棚は顧客とのコール&レスポンスなのでそのお店らしさを作るのは時間がかかる

みたいなところが刺さりました。

アイ さんがおっしゃってた、建築系の棚が縮小してるのは納得〜みたいな話も面白かったです!

アイ:そうですねえ、それについては昨日ぼんやり振り返っていたんですが、デザイン業界は洋書信仰というか、上の世代の方々は洋雑誌を読み、そこから世界の流行りや最新のものを取り込み咀嚼してデザインに反映するという流れだったと思うんです。
ところが、最近雑誌じゃないと探せない情報は少ないし。昔は基本知識としてこの雑誌は毎月読んでおかないと。みたいなところがあったけど、昨今はその流れも薄れてきているのではというところもあり。

最所:そういう意味でいくと、雑誌とかテレビとか、マスでよく見られてるものがなくなってくると共通言語がなくなって、それぞれ蛸壷化してく現象もありそうですよね。
本ってもっと時間軸長く「その業界の人たちの共通言語」たりえた時代があったと思うんですよね。古典的名著というか。

アイ:そう考えると、ビジュアルを記録として残したいから本を購入するという流れは廃れていって、読み物としての本という本来のかたちの方が物としては所有したいものになるかも知れないなーと昨日思ったところでまとめてました。

最所:つまり、写真集とかデザイン集じゃなくて「読む」ものしか本として残らない、的な話ですよね。
数こなさなきゃいけないもの(いっぱい見るとかいろんなパターンあるとか)は本という物理制約があるものより、ネットの方が便利ですもんね。

アイ:ただ、昨日出た『Spotifyのレコメンドによって同じジャンルのものとしか出会えない』問題が、まさにピンタレストでも起こっていて。そういう時はやっぱりまだ本が強いんですよね。

みさき:新しいものを仕入れるのがオフラインになっているなぁと思う事あります!

最所:新しいものを仕入れるのがオフライン、はめちゃわかります。
まさに今日そんな話をnoteに書いたのですが、店舗の意味が一周回って『新しいものとの出会い』になりつつありますよね。

店舗データの活用に向く商材・向かない商材

最所:あと結局書店のビジネスモデルを考えると、売上の20%しか自分たちの収入にならないってけっこうきついよなーと思っていて。
昨日も話にでましたが、悪気があるわけじゃないけど結果的にオンラインで買ったりするじゃないですか。
出会ったのはリアル店舗だけど、ほしいスイッチが入ったのはSNSだったりするし。EC時代はそういう時差が絶対的に生じるので。

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