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意見は色々あろうが、人生で一度は初期の宇能鴻一郎と出会っておこう、と提言する。

人の好みは様々である。
だから、余計なことは言わない方がいい。そんなことは分かっている。
それであっても、
余計であっても、
ツイツイ人に言いたくなることがあるものもあるものだ。

そんな出会いがつい最近ボクにもあったからだ。


ボクらの世代では宇能鴻一郎とはエロ作家で有名だ。芥川賞を取ったことがあるエロ小説家として有名だ。ポルノ映画として原作化された本を書いている。ド変態という偏見に満ちている。
そこはある意味正しい。
ただし、ただのド変態でないことがこの短編集を読んでよくわかった。

初期の作品集を再版したこのシリーズは短編集ながら圧巻だ。彼がこの才能を持ってこのまま純文学の道を突き進んでいてくれたらと妄想せずにいられない。

短編集タイトルとなっている「姫君を喰う話」は、姫君を喰ったとする虚無僧の話を最後まで聞くと何となく聞いたことがある話のような気がした。古典での定番を宇能鴻一郎なりに改変したのだろう。でも、この短編で素晴らしいのは構成にある。
モツを酔っぱらいながら喰いエロ話。その流れで虚無僧の話となるのだが、最後には現実の話かどうかわからなくなる。現実でなくともやたらリアリティのある話。普段からモツに対する深い思い入れがあったとしてもいきなり虚無僧の話へとタイムスリップする展開は思いもつかない。
自分に手腕があるなら映画化したいところ。w 
(できない、いろいろな意味で)

芥川賞を取った「鯨神」の素晴らしさについてはこの一編だけで書いたので下段に貼ってある。素晴らしい短編だ。仮に西洋の誰かの真似であったとしても「生命」と「生神」との対話を短編でここまで書けている作品は早々ない。

その他もそれぞれにオモシロいが、「リソペディオンの呪い」はストーリー展開で「そんな人の生きざまもある」というのが描けていていいと思う。全く普通の人生を送っている人からすればありえないと思えるかもしれないストーリーでも裏社会ではありがちなものかもしれない展開になっていく心理描写から描けていると思う。エロ志向もいい。
欲のない、「普通」を自称する人からすれば分からない人生かもしれない。

最後に
一通り素晴らしい短編集を読んだ後に2021年に書かれた「三島由紀夫と新選組」という宇能鴻一郎のエッセイが添えられていて、興がそがれた気分になった。
過去の若し頃の小説の文章と違い、知性が感じられず仮にその小説を書いたところで読みたいとは思えない内容だったからだ。
継続は力なりなのか、あの頃の彼はどこに行ってしまったのだろう。

しかし、とかくま~、好みは有れど初期の短編集の素晴らしさは保証するので、是非とも読む価値はあるとし読んでおくことを強くお勧めするのである。



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