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社長が役員に厳しい評価を下せる会社はすごい

今日は、ある中小企業の話をします。この企業は非上場ながらも、取締役に対する人事評価を厳格に実施しているのです。

多くの企業で社員に対して人事評価を行っていても、役員に対しても人事評価を行っている企業は少ないです。この場合、何が起きるのか。多くの人は容易に想像がつくかもしれませんが、「役員の既得権化」が発生するのです。会社法上、取締役には善管注意義務や忠実義務が課され、法的責任に加えて、業務執行責任や業績責任も負います。中小企業では、所有と経営が分離しておらず、取締役が株主でもあります。

上場企業では役員報酬の制度が公開され、委員会設置会社では指名報酬委員会が業績に連動した公明正大な報酬制度を設計しています。一方で、非上場の中小企業では役員がいくらもらっているかは噂ベースでしか知ることができません(笑)。

さて、話を冒頭の「ある会社」に戻しましょう。この企業では、人事評価を役員に対しても実施するだけでなく、評価会議の場で社長が1人の役員に最低評価をつけていました。しかも、その最低評価を公開し、その理由も詳しくフィードバックしていたのです。

「ここまでオープンにして大丈夫かなぁ」と、内心不安を感じつつファシリテーションを進めていると、驚くことが起きました。
最低評価を受けた役員に今の感情を率直に尋ねると、社長への批判ではなく「力不足で悔しいです」と発言されたのです。

さらに深堀りして聞いていくと、社長の最低評価と役員本人の自己評価が一致していたのです。この会社は業績が大きく傾いているわけではなく、むしろ右肩上がりで成長しています。好況にもかかわらず社長の最低評価に納得しているのは、役員への期待が明確であることに加え、強固な信頼が前提となっているからです。

現在、「パワハラリスク」や「罰ゲーム化する管理職」が話題になる中、経営ボードメンバー同士の厳しくも愛のあるフィードバックに感動しました。この時代において役員に対して厳しいフィードバックができるのは、心理的な安全性が担保されている証拠です。

役員が既得権化するどころか、自身の成長に最もコミットし、後ろ向きなフィードバックも内省機会として受け入れるこの会社は、しなやかで洗練されています。

役員への厳しいフィードバックが可能な理由は、経営トップである社長の素直さにあります。その会社の社長は、自らの果たすべき職責を明確にし、社員に対して明確な約束ごとをしています。
そして、自らの自己評価を社員に公開し、「来期はこんな社長でいます!」と宣言しています。

このように、社長が役員に厳しい評価を下すことができる会社は、役員の成長と会社の成長が一体となって進む素晴らしい企業文化を持っているのです。

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