倒産しなければOKという大胆な経営スタンス/要約『売上を、減らそう。』
最近、多くの経営者から「事業の成長を追求しすぎて、本当に大切なものを見失っていた」という声をよく耳にします。彼らの反省は、効率や規模の拡大ばかりを追いかけることで、経営の本質を見誤っていたことに気づかされたというものです。
そんな中、この本をある経営者から勧められました。売上至上主義に異議を唱え、「逆張り経営」を実践する佰食屋のビジネスモデルが描かれた一冊です。本書では、極限までサービスを絞り込み、あえて「売上をギリギリまで減らす」ことで成り立つ経営のあり方を提案しています。
多くの企業が競合との違いを打ち出すために努力する中で、佰食屋はあえて「誰でもできるビジネスモデル」を目指し、優秀な人材を採用せずとも成功する仕組みを構築しています。さらに、「自社にとっての良い人材」の定義を徹底的に言語化し、明確な経営方針を掲げています。
佰食屋の答えはシンプルです。「売上を追い求めず、働きやすさを重視する」。その結果、営業時間はわずか3時間半、午後2時30分には店じまい。効率的かつ従業員を大切にする姿勢が、多くの学びを提供してくれます!
この本が書かれた2019年から5年経っても、佰食屋の「売上至上主義からの脱却」という経営スタンスは変わらず、多くの経営者に示唆を与え続けています。
※店舗数に変動はあるものの、厳しいコロナ禍も乗り越えています
それでは、本書の要約をどうぞお楽しみください。
はじめに
『まんがでわかる絶対成功!ホリエモン式飲食店経営』では、佰食屋は「サービスを極限まで絞ることで売上を上げているお店」「飲食店の形は、自分の人生に照らし合わせて決めることができる」と紹介されている。
つまり、どれだけ儲かったとしても、これ以上は売らない、これ以上働かない。あらかじめ決められた業務量を時間内でしっかりこなし、最大限の成果を挙げる。そして残りの人生を自分の好きなように使う。この2行に集約された佰食屋のビジネスモデル、働き方の全てを共有したいと思い、この本を書いている。
「がんばれ」ではなく、仕組みで人を幸せにしたい。
そもそも、就業時間内に利益を出せない商品や企画はダメじゃないですか?100食限定ランチのみ、残業無しの国産牛ステーキ丼専門店
たった10坪、たった14席。夫婦で貯めたありったけの貯金500万円を使って、私たちの冒険は始まった。2012年の冬、京都の観光地からは少し離れた住宅街で、一軒家の飲食店を始めた。お店の名前は佰食屋。ステーキ丼を始め、メニューは3つのみ。1日100食限定で、売り切れたら店じまい。おかげさまで、平日でも土日でもたくさんのお客様にお越しいただき、あっという間に売り切れる。看板メニューの、新鮮で上質な国産特製肉をご飯に乗せたステーキ丼は、夫の自慢のレシピだった。びっくりするほどおいしいステーキ丼を独り占めするのはもったいない。みんなに食べてもらいたい。そうやって始めた佰食屋は、すき焼き専科、肉寿司専科とあわせて3店舗を構え、今では年商1億円を超え、社員は30名を超えるほどになった。そして、その全員が月に1度も残業することなく退勤することができている。
会社員なら、通常セールスとしてたくさん売ればインセンティブがつく。だから、同じように飲食店にも、何かインセンティブのように頑張ったら頑張っただけ自分に返ってくる仕組みを作れないだろうか。そこで決めたのが1日100食という上限であった。1日に販売する数を決めて、早く売り切ることができたら早く帰れる。これが実現できたら、みんな無理なく働けるのではないかと思った。なぜ会社は売上増を目指さなくてはならないのか。実際のところ経営者が自分のために売上増を目指しているというのが、多くの場合の真実ではないか。業績至上主義に、私は違和感を抱く。100食以上売ったら、たくさん来られたお客様をずっとおもてなしし続けなければならない。それでは気持ちの余裕がなくなる。夜に営業したら勤務時間が長くなる。その割にそこまで大きな儲けは得られない。佰食屋は、お客様だけを大切にするのではない。1番大切なのは、従業員のみんなである。
だから佰食屋が出した答えは、「売上をギリギリまで減らそう」だった。
営業時間はわずか3時間半、14時30分には店じまい。お客様の大切な時間を並ぶために費やしてしまうのはもったいないので、朝の9時半から整理券を配っている。佰食屋の目標はとてもシンプル。本当においしいものを100食売って、早く帰ろう。たったこれだけ。
会社の売上がどんなに伸びても、従業員が忙しくなって、働くことがしんどくなってしまったら、何の意味もない。利益を追求するより、私たち自身が本当に働きたいと思える会社を作ろうと、夫と決めた。そして本当に働きたい会社の条件は、「家族みんなで揃って晩御飯を食べられること」にした。
27歳で結婚したものの、不妊治療をしても、なかなか子供ができなかった。それなら夫がよく話をしていた「いつか自分のお店を出したい」という夢を、今やろう。そうやって、なかば夫をたきつけるような形で、佰食屋をはじめた。やっと授かった2人目の子供が脳性麻痺を患っていることが判明したときから、働き方を変えていった。
仕事は本来、人生を豊かにするためにあるもの。仕事だけが人生ではない。だから、佰食屋の従業員にも、仕事をなるべく早く終えて、それぞれ思いの時間を過ごしてほしいと考えている。
100食限定、つまり自分のやるべきことを絞る、自分の人生に合わせた売上を稼ぐ、というキーワードは、誰しもに関係ある働き方そのもの。できるだけ多くの人が「穏やかな成功」をつかめるように。誰もが幸せな暮らしをあきらめないで済むように。
第1章超ホワイト企業「佰食屋」はどのようにして生まれたのか
夫の夢は「定年退職したら、自分のレストランを開きたい」だった。だが、28歳の私は夫に「まだ子供もいーひんし、2人の年収が3分の1になってもいいから、やりたいことがあるなら、今やろう」と告げ、4ヶ月後に店をオープンした。これを元手に、まずは1年やってみて、もしうまくいかなかったら、もう一回会社員として勤めれば何とかなると、強引に焚き付けた。
佰食屋なのに、最初は20食すら売れなかった。誰も来ない夜と、ゼロになっていく通帳のお金。じりじりと追い込まれてどうしようもない不安に押しつぶされそうな時、たった一見の個人ブログで、お客様が押し寄せた。個人ブログで佰食屋を紹介してくださり、Yahooの地域ニュース欄にリンクされていたようで、その日を境に、毎日70名以上はお客様が来るようになった。オープンして3ヶ月後、初めて100食完売。関西のローカル番組にも取り上げられると、ランチだけで100食完売させることができた。
軌道に乗り始めた佰食屋の経営だったが、私自身にもターニングポイントが訪れた。それは出産である。幸いその頃には従業員たちもたくましく育ち、安心してお店を任されるようになった。従業員たちのキャリアを広げてあげたいと、2店舗目の佰食屋すき焼き専科をオープンした。2人目の子供を授かった時、お店に立つ時間が減ることが想像できたので、ランチしか営業しないと決めた。
夜営業を辞めたことで思わぬ波及効果があった。ランチをめがけて来られるお客様が増えたのだった。何かを捨てることで得られるものがある。
3店舗目をオープンした時も、店舗を増やそうという考えが先にあったのではなく、あくまで従業員の成長にふさわしい環境を用意できればと、一人ひとりのやりたいことと向き合って決めていった。佰食屋が、1日100食限定を掲げた時、なんとなくキリがいいからと拍子抜けする位の理由で決めた。けれど、結果として、100食という制約は、すべてのブレイクスルーを生み出した。それはそのまま「限定」というお客様の来店動機になり、売上ファーストではなく、従業員ファーストという経営方針にもなり、ついには、従来の業績至上主義とは、真逆の働き方が出来上がった。
第2章100食という制約が生んだ5つのすごいメリット
佰食屋とは、一言でいうと、サービスを極限まで絞ることで売上を上げているお店である。また、言い方を変えれば、100食限定とは、それ以上の売り上げを諦めるということでもある。
メリット①正社員でも退勤時間は夕方17時台
佰食屋で働く従業員にとって、目標は100食売り、来られたお客様を最大限幸せにすることのたった1つ。終わりが見えていることで、最後のお客様にテンションを上げてお礼の挨拶ができる。
他の飲食店との違いは、営業時間ではなく、売れた数を区切りにしていること。お客様が多いほど、お客様は早く帰るため、営業時間中は厨房と接客に専念できる。
早く帰れる事は、お金と同じくらい魅力的なインセンティブとなる。自分の好きなことに使える時間が必ず取れること、そして会社が必ずそれを認めてくれる事は、日々の暮らしを成り立たせる、とても価値ある安心材料になる。
欲しいものから、逆算して、自分たちの働き方を決めたら、おのずと佰食屋の事業規模、売上の上限、働く時間の上限も決まっていった。
メリット②フードロスはほぼゼロ化で経費削減
100食限定とすることで、予約もキャンセルもないので、余計なフードロスが発生しない。そのため、佰食屋には飲食店には絶対あるはずの冷凍庫がない。
メリット③経営が究極に簡単になるカギは圧倒的な商品力
東京だと2倍するステーキ丼を税別1000円で提供できるのは、塊で肉を仕入れて、お店で毎日さばいているから。
佰食屋が意識している商品力は、「ミシュランガイドに掲載されるお店の料理に匹敵するものを、圧倒的なコストパフォーマンスで実現すること」。
商品、店舗開発にあたって、佰食屋はクリアすべき条件を4つ定めている。
月に1回、自分がその金額を出してでも行きたいお店かどうか
家庭で再現できないもの
大手チェーンに参入されにくいもの
みんなのご馳走であること
原価率50%と、圧倒的なコストパフォーマンスを追求することで、お客様が口コミで広がり、広告宣伝費に一切お金をかけていない。
メリット④どんな人も即戦力になる。やる気に溢れている人なんていらない
佰食屋は掲載料0円のハローワークでしか募集していない。採用基準は、「今いる従業員たちと合う人」だけ。佰食屋が従業員にしてもらっている事は、誰がやってもできること。毎日同じことを繰り返すからこそ、些細な変化や違和感に気づくことができる。誰でもできる仕事をAIではなく、人間がやっているからこそ、仕事はどんどんと洗練されていく。
ただ、数をこなすだけだと作業になる。小学生の女の子がステーキ丼を頼んでいたら、食べやすいようにカットしてあげるのが愛である。愛にはお金はかからないが手間がかかる。従業員たちが自分の判断できちんとそれを考え、実行できるか。その手間こそ愛である。
メリット⑤売上至上主義からの解放で、より優しい働き方へ
従業員が売上向上マインドから解放されることで、もっと楽しく働けるようになり、お客様に喜んでいただくためにできることを取り組める。
第3章佰食屋の労働とお金のリアルな実態
100食売ると目標立てているものの、いつもより1人少ない4人体制でお店を回すことになる時、その分20食少ない80食を目標にする。
家庭の事情のため、土日に集中して休みを取ることの多い社員は、他の社員と不公平にならないように、土日休みを固定にする代わりに基本給が少し低くなるという契約を本人承諾のもと結んでいる。さらにそれを他の従業員にも共有し、お互いの事情を理解できるようにしている。
毎月アンケート形式で、今月はもっと出勤して稼ぎたいという人と、逆に扶養控除内で働きたいから出勤を抑えたいという人をマッチングして、シフト調整を行ったり、みんながどれぐらい働きたいかをオープンにする環境作りを心がけている。
前職の百貨店と給与が変わらないのに、5時間も早く帰れるスタッフがいる。
賞与は年3回。能力だけでなく、メンバーとの関わりや貢献度、できる仕事の範囲の広さ、そして上司からだけでなく、アルバイトも含めたすべての人たちからの360度評価をもとに算出される。ちなみにアルバイトにも賞与がある。
実際の数字を書くと、2018年の年間売り上げは全体で1億7,000万円。関西を襲った地震や台風により、経常利益としてはギリギリの赤字であった。幸い、当社には夫が担っている不動産部門があるため、赤字を少しカバーすることができた。経営のスタンスはとにかく倒ささえしなければ良い、会社として存続して行けたら良いのである。
飲食店を経営する上で、FLコストという大きな指標がある。FはFood(原価、材料費)、LはLabor(人件費)で、これらを足したものが、FLコストである。そしてFLコストを売上で割ったFL比率を約50%程度に抑えるのが飲食店経営の鉄則と言われている。佰食屋では、FL比率は80%となっている。残りの20%をなるべく低く抑えるため様々な工夫をしている。
事業成長がないなら、給与のベースアップはどうするのか?JRのお弁当販売によって既存の従業員だけで労働時間を増やさずに販路拡大をできたことで、従業員みんなの給与をベースアップすることができたという事例がある。重要なのは、事業成長ありきではなく、一人ひとりが成長してきたからこそ、自然と売上を伸ばすことができたという事実である。会社を続けていく中で、従業員が成長することでその人にふさわしい役割を与えることもある。
第4章売上を目標にしない企業は、社員に何を課しているのか?
佰食屋にはクレドがある。「会社は明日の責任を。みんなは今日の責任を。」
会社は明日の責任を、の続きには「会社は、これからの集客や広報の責任を持ち、お客様にたくさん来ていただく努力をし、みんなを大切にします」とある。
みんなは今日の責任を、の続きには「みんなはお客様が限られた時間の中で最大限満足していただけるよう、接客、調理、おもてなしの努力をし、お客様を大切にします」とある。
つまり、佰食屋が従業員に求めるのは現場だけである。
クレドには、Whatは書かれているが、Howは明示されていない。従業員は今日の責任を担うために、自分たちにはどんなできることができるのかを自ら考え、行動に移してもらいたい。
優秀な人材は、会社の目指す方向性や価値観によって当然違ってくる。それをいかに適切に定義して、明確にできるかどうかは労働者人口が不足するこれからの世の中においてとても重要なことである。佰食屋にとっていい人は、真面目に業務に取り組める人、人に優しくできる人、地道な仕事をおろそかにせず、丁寧にできる人のことである。労働者市場最前線に身を置き続けて投資し続けられるだけの体力はほとんどの企業にない。
佰食屋はダイバーシティ経営企業としても選定されているが、これが実現できた理由は「いいと思った人を採用していたら、たまたまそうだった」だけである。
世の中には、普通の人、マジョリティーなんて1人もいないのではないか。結局のところ、みんな少しずつ違っていて、みんな少しずつフォローしあっている。そうやって人は暮らしている。それと同じように同じ職場で働くのもできる人ができない人をカバーすればいいし、できる人とできない人が入れ替わることだってよくある。
どのお店も多様性のある職場になることで、来られるお客様もダイバーシティになっていった。従業員が自然に対応できることで、お互いに助け合い何をどうすべきなのか、どんな場合に困ることがあるのか、学び取れているからである。
ダイバーシティーをマネジメントする上で、佰食屋が大切にしている事は3つ。
転校生を紹介する先生のように新入社員を紹介する
チーム作りは人間関係最優先
常にマイノリティーの視点に立つ
新入社員が初めて出社する日、私は必ず隣に立ちその人の紹介をする。その人がこれまでどんな仕事をしていたのか、どんなことが得意で、どんなことに興味を持っているのか、どんな課題を抱えているのか。本人が言いにくいことを先に代弁する。