【本紹介】『闇の中国語入門』 中国留学中の恐怖体験と闇違い
こんにちは。
今回ご紹介するのはこちら。
1.どんな本
『闇の中国語入門』
著: 楊駿驍
有りそうで無かった中国語のネガティブ表現ばかりをまとめた解説書。
そして、それらの裏にある中国社会の現状についても言及している。
2.誕生のきっかけ
大学で中国語を教えることになった著者は、恩師から授業の参考にと大量の中国語テキストを譲ってもらった。
それらに目を通すうちに、あることに気づく。
「ポジティブな表現や内容ばかりだな」
せっかく外国語を学ぶのにこれで世界は広がるのか?
「闇」の部分も掲載した教科書が必要ではないか…
かくして本書が誕生した。
ちなみに、著者の楊駿驍さんはnoteも書かれており、本書の前身となった「黒暗中国語」もこちらから読むことができる。
3.推し闇中国語
では、本書にはどのような「闇」が収録されているのだろうか?
早速ページをめくって本文を確認してみよう…と思ったが、帯にいくつか例文が載っている。
わざわざ帯に載せるくらいだから、きっとこれが著者と出版社の「推し闇」なのだろう。
せっかくだから、そちらを見ていこう。
…いきなり最上級に重いのきたな、おい。
気を取り直して、帯の裏面も見てみよう。
特定の層に対して殺傷力高そうなのきたー!!
うん、これは分かりやすい闇だな。
どうしたああああああああああ!何があった?!
4.悩める若者たち
全体を通して印象的だったのは、中国の若者を取り巻く社会の過酷さと、彼らの絶望の深さである。
学校では成績争い。
社会に出たら、ブラック労働と無意味な競争の毎日。
そして、親からのプレッシャー。
更に極め付けの泣きっ面にコロナである…
「君たちも大変だね」と肩を叩いてあげたくなる。
これでも読んで元気だしなよ。
とはいえ、これらの悩みは中国の若者に限った話ではない。
日本でも概ね似たようなものだ。
もっとも、日本については、現役の若者よりも、少し前の若者の方が彼らと似ているかもしれない。
日本でも話題になった「躺平主义(寝そべり主義)」なんか、ほぼ氷河期のサイレントテロと同じだし。
国や民族は違えど人間というものは、同じように追い詰められると、同じような反応を示すものなのかもしれない。
という具合に、著者の狙いどおりまんまと「闇」に共感してしまった。
このように本書は、中国語の学習のためにも、現在の中国社会を理解するうえでも大変有用で面白い本なのだが、実は私にとっては、個人的な理由で期待外れでもあった。
それは、中国で体験したある出来事のせいなのだが、個人的な理由ではあるが、これから海外渡航する方に有用な部分もあるかもしれないので記しておくことにした。
5.中国留学での恐怖体験
はるか昔のことだが、中国に語学留学していたことがある。
当時暮らしていた学校の寮は、いわくつきの建物であった。
いわくとは?
そう、「出る」のである、幽霊が。
とはいえ、私は霊感的な能力とは無縁だったので、何かを見てしまうこともなく平和に過ごしていた。
学期が終了し帰国が近づいたある日、私は寮内で写真を撮った。
使い捨てカメラの残りが数枚だったので、帰国前に撮り終えて現像してしまいたかったのだ。
現像してびっくり!
撮れてしまったのだ、人生初の心霊写真が。
皆さんは心霊写真というと、どんなものを想像するだろうか?
・背後にぼんやり写る不審な影
・顔に見えないこともない丸三つ
・よく見ると被写体と数が合わない手足
といった感じではないだろうか?
この手の写真を私はあまり怖いと思ったことはない。
霊感ゼロなせいか、単に視力が悪いからか、どう見ても顔に見えなかったり、そもそもどこに怪しいものが写ってるのかわからなかったりする。
稀にガッツリ写り込んだ不気味な顔みたいなのもあるが、それはそれでウソっぽい。
だが、その写真はそれらとは全然違っていた。
中央にバッチリ!くっきり!はっきり!無数の赤い手が写っていたのだ。
無理やり喩えるなら、千手観音の観音様抜きである。
なぜこやつらは、縁もゆかりもない留学生の記念写真に写り込んだのであろうか?
いや、写り込むというレベルではない。
自分が主役とばかりに、センターに誰よりも大きく映っているのだ。
自己主張強すぎるだろ…
国民性の違いか?
個人差(個体差)なのか?
これが日本ならとりあえず神社に駆け込んだだろう。
寺でも良いが、どちらかというとこの手の話は神社の方が得意そうだ。
だが、神社のお祓いは外国産の幽霊に通用するのだろうか?
いやそれ以前に、これを日本に持ち帰るのか?
これを持って飛行機に乗るのはごめん被りたい。
ものすごく縁起悪そうではないか!
パニックになりつつも、私は中国にいる間に写真を処分しようと決意した。
となると、仏教(寺)か道教(廟)だろうが…道教にはあまり馴染みがない。
初詣と葬式くらいしか縁がないとはいえ、一応仏教徒としては寺の方が敷居が低い。
それにちょうど近所に寺がある。
私は数人の友人たちに付き添ってもらい、写真とネガを持って部屋を飛び出したのだった。
寺に着いてから、同行者の1人が言った。
「そういえばさ、お寺の人になんて言う?」
「あ…」
慌てて出てきたので、なんと中国語でどう説明するか全く考えていなかったのだ。
今ならスマホでなんとでもなりそうだが、その頃はまだそんなもの無かった。
「どうしよう…」
だが、同行者のうちの他の1人が、「闹鬼(幽霊が出る)」という表現を思い出した。助かった!
ちょっと言い訳をさせてもらうと、「闹」も「鬼」も特段難しい単語ではないが、ごく普通の生活してたら、そんな組合わせではそうそう使わない。
ほ、ほら「怪力乱神を語らず」と言うではないか。
だいたい、海外で遭遇するであろうトラブルとしては、心霊現象なんて想定外すぎるのだ!
突然現れた外国人数名に囲まれて「霊が!」「霊が!」と言われたお寺の方は、たいそう困惑していた。
その節は本当にご迷惑をおかけしました。
最近では日本の社寺で狼藉をはたらく迷惑外国人客がニュースになることがあるが、ベクトルは違えど中国で先取りしてしまった…
恥ずかしい。
というわけで、海外に行く時には、「それ系の言葉も調べておく方が良いかもよ」という話でした。
信じる信じないはあなた次第だが、信じていなくても勉強の一環で調べておいても損はないと思う。
6.終わりに
「闇の中国語」という字面を見て、中国での体験を思い出し、
「心霊関係の表現も載ってるかも?」
と期待して本書を手に取ったのだが、残念ながら闇の方向性が違っていたようだ。
要するに、勝手に期待して勝手に裏切られたわけだが、それはそれとして読んでよかった。
続編があるなら、ぜひこっち方面の闇の中国語も期待したい。
今になってみると、せっかく中国にいたのだから、中国人に相談すればよかったなと思う。
思うのだが…この手の話って、相手がどこの国の人でも相談しにくくない?
相手によってはすごく嫌がられそうだし、積極的に話に乗ってくる人の中には詐欺師とかいそう。
壺とか買わされそう!
「ちょっ!これから中国に留学するのに!どこの学校だよ!?」
という方もおられるかもしれないが、安心して欲しい。
寮はこの数年後に建て替えられており、それからは出なくなったようなので具体名は伏せておく。
それにしても彼らは、どこへ行ったのだろう?
大勢の留学生を驚かせて満足して成仏したのだろうか、それとも、居心地が悪くなって他所へ移ったのだろうか?
前者であればめでたいが、もし後者であれば、建物や街が綺麗になっても、闇の世界の住人たちですら暮らしにくい世の中になっているとしたらなんだか切ない。