
【本紹介】なぜか読み返してしまう本 『城』(作:フランツ・カフカ)
何度も読み返す本には2種類ある。
好きで何度でも読みたくなる本。
これはわかりやすい。
もう一つは、たいして好きでもないのになぜか読み返してしまう本。
私にとってのそれは、フランツ・カフカの『城』である。
明るい話ではない。
所々でシュールな可笑しさはあるものの、むしろ陰鬱な部類だ。
というか、ストーリーが明るいとか暗いとかいう以前に支離滅裂である。
なのに、なぜかことあるごとに読み返してしまう。
今回は、そんな『城』の話をしようと思う。
1.出会い
この本との出会いは高校2年生の時だ。
夏休みに、とある教師が挙げた数冊の本のうちから一冊を選んで、感想でも作者についてのレポートでもなんでも良いから書いてこいという宿題が出た。
読書感想文コンクールとは、また別の課題だ。
完全にその教師の個人的な趣味である。
他にどんな本があったか忘れたがそのリストの中から、私はカフカの『変身』を選んだ。
理由は、なんとなく親にリストを見せて「どうしようかな」的な話をしたら、「これ面白かったよ」と言われたからだ。
我ながらいい加減な決め方である。
ところで、私は虫が大の苦手である。
どのくらい苦手かというと、一人暮らしして初めての夏、キッチンに黒いヤツが出現した時、気を失ったほどだ。
高速移動する黒い影を見て悲鳴をあげたところまでは記憶にあるが、その後の記憶はない。
気がつくと殺虫剤のスプレー缶を持っていて、目の前にヤツが転がっていた。
気を失いながらも、戦ってどうにか勝利を収めたようだ。
霊長類を舐めるなよ。

さて、有名な作品なのでご存知の方も多いと思うが、『変身』は主人公が巨大な虫になってしまう話である。
この時点で、私にとってはそんじょそこらの怪談話よりよほど怖い。
しかも季節は夏…
「あいつら何てものを読ませやがるんだ!」
心の中で大人たちを罵り後悔したが、時すでに遅し。
本は買ってしまっていた。
だが、読んでみると面白かったのでカフカの他の作品も読んでみたくなり、早速近所の本屋にたまたま在庫があった『城』を買い求めたのであった。
つまりは、出会いはほとんど偶然である。
2.『城』のあらすじ
大雑把に紹介すると、『城』というのはだいたい以下のような話である。
ある城下町に「城」から仕事を依頼された測量師のKがやってくる。
だが、街の人々は誰もそのことを知らず警戒されてしまう。
依頼主であるはずの「城」に電話しても要領を得なかったり、たらい回しにされたりでらちが明かない。
Kは街に滞在しなんとか「城」へ行こうと試みるも、事態は一向に好転せず、むしろ泥沼化していく…
登場人物の発言は互いに食い違い、時には同一人物の発言ですら矛盾している。
なんなら、主人公の発言ですら一貫性がない。
しかも皆無駄に口数が多いのだ。
読めば読むほど、考えれば考えるほど訳がわからなくなる。
そんな読んでるだけでストレスが溜まる状況がうだうだと続き、何も解決しないまま物語は唐突に終了する。
あまりのことにポカーンとする高二の私。
そう、この作品、実は未完なのである。
「ちょ、待てよ!」
漱石の『明暗』といい、私は未完の長編を引き当ててしまう運命なのだろうか?
釈然としない思いを抱えながら調べてみると、カフカの三つの長編小説『失踪者』『審判』『城』が未完なのだということがわかった。
え、未完多すぎじゃね?!
並行していろいろと手を出しすぎ!
まあ、若くして亡くなっているし、未完はカフカ本人も不本意ではあったろう。
そう考えると気の毒ではあるが…
3.なぜ読み返してしまうのか
漠然と色々なことにモヤモヤしていた高校時代。
なんとなく馴染めていなかった大学時代。
タチの悪いパワハラに悩んでいた時。
そのパワハラの末に仕事を辞めた時。
思えばこの本を読み返すのはいつも、周囲との齟齬を感じ行き詰まっている時だった。
そして、初めて読んだ時には支離滅裂で矛盾だらけに思えたエピソードのあれこれは、読み返すたびに不思議とすんなり受け入れることができるようになっていった。
前向きな物語や言葉は心の傷には届かない。
表面に触れて滑り落ちるだけだ。
「傷はいつか必ず癒える」みたいな綺麗事を言われても、今この瞬間を耐え難く感じている人間に「いつか」の話は無力だ。
傷に届くのはいつだって闇を抱えた物語であり、共感できるのはそこでもがく登場人物の姿なのだ。

カフカが結末をどうするつもりだったのかはわからないが、未完であることで主人公は道半ばのまま不条理な世界に閉じ込められた。
彼と同様、不条理な世界から逃げ出すことができない私は、世の理不尽や不条理に疲れると『城』を手に取る。
本を開けば、そこには必ず不条理に抗いもがき続ける主人公がいるのだから。
なんと2024年11月に新訳が出ました!
カフカについて知りたい方には、こんな本もあります。
『絶望名人カフカの人生論』 著:頭木弘樹
「カフカ、お前いい加減にしろよ!」と言いたくなるくらい絶望しまくってる。
でも、なぜかじわじわと笑えてくる。
月額980円で500万冊以上が読み放題。
Kindle Unlimitedに興味のある方はこちらから。
https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/hz/signup?tag=qjrs-22
いいなと思ったら応援しよう!
