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安道久一郎の短編小説ヨセアツメ

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安道久一郎です。短編をまとめてます。ご一読願います。
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記事一覧

(ショートショート) お久しぶり、UP&DOWN

(ショートショート) お久しぶり、UP&DOWN

夏が終わろうとしているこの時期の夕暮れを、俺は最近になってようやく好きになり始めていた。

我が赴任先の最寄り駅の駐輪スペースに愛車のトライアンフSPEEDを停める。ヘルメットを脱ぐと真夏に比べていくらか汗の出は優しいものになっていることを実感する。メット内の嫌な蒸し加減や白シャツを濡らす汗も多少は引いており、運転中に袖口から吹き込んでくる風が毛穴を引き締めてくるように冷たくなっている。

この駅

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(短編) ノーマル

(短編) ノーマル

真夏のそれよりもいくらか優しくなった太陽光を浴びて今日もラジオ体操に汗を流す。近所の公園にて毎朝六時より開かれるこの催しに参加し出してどのくらいになるだろうかと、ふと考える。結婚を機に脱サラをして念願だった喫茶店の経営を始めて少しした頃からだから、もうすぐ十年ほどになるだろうか。

この年になると小学生の時分ではへのかっぱだったこの体操にもヒーヒー言いながら取り組むことになる。特に屈伸の運動では顔

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(短編) 浮遊する煙

(短編) 浮遊する煙

『まもなく、十九時三十分出航の、フェリー、Reimei、ご乗船開始時刻となります。ご乗船のお客様は、二階の乗船口へ、お集まりください』

僕は地元のフェリー乗り場の喫煙所にてメンソール片手にアナウンスをぼんやりときいていた。三畳ほどしかない狭い喫煙所には出張へ向かうと思しきサラリーマンがひとり、スマホをものすごい力でもって操作している。

何か文字を打っているのだろう、フリック入力の指さばきだ。デ

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(短編) 弾けて飛びそうだ

(短編) 弾けて飛びそうだ

俺はあまりの気分の悪さにたまらず目を覚ました。久しぶりのこの感覚だった。

明らかな二日酔いだ。真っ暗な視界がグラグラと揺れるのがわかる。

そして咄嗟に後悔する。この状況ではほの暗いことしか思いつかない。なんでこんなことを繰り返してしまうのだろうか。どこまで俺は愚か者なのだろうか。

そんな自分を卑下する類の日本語しか思い浮かばず、語彙の圧倒的な低下に我ながら辟易する。

表情筋の全部を思い切り

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(短編) きっと明日は

(短編) きっと明日は

彼のことを考えるだけでこんなに苦しい思いをしてしまうのなら、私は本人を目の前にしたら倒れてしまうのではないかと、いつも思う。

今日もそうだ。

こんなひどい雨の中、彼のもとへ気がつくと向かっていた。胸を締め付けられながら少しずつ彼に近づこうとしている。

半年間、毎週のように通うこの道。引き返す頃にはこの気持ちは限りなく薄れているのも慣れっこ。

右の小脇に潜ませたエコバックからは具材たちが息苦

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(超短編) とどまってくれ!

(超短編) とどまってくれ!

セミの鳴き声も随分と落ち着いてきたように感じる。あの騒音レベルとは程遠い不思議な心地よさがある、九月初旬の音。俺は窓の外をふわふわと漂う入道雲とその手前で揺れるレースのカーテンの影を網膜にうつしていた。

今日は2学期の始業日、クラスメイトたちは再会に胸躍るといった様子だ。方々から大きな声を出し合い各々の喜びの丈と夏休みの土産話を披露していた。教室窓側の二列目後方に陣取った俺の新たな席は誰からも見

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(短編) 待ち遠しかった

(短編) 待ち遠しかった

会いに来てくれてうれしかったなぁ。たった五ヶ月であんなにもしっかりと言葉を操れるようになるんだな。

懐かしく思えてならないよ。ユウタロウも君ぐらいの時はおしゃべりが好きな子どもだった。婆さんもそう言っていたがな。

おっ、ウィンカーが出たということは、この先で休憩を挟むんだな。そりゃそうか。ユウタロウが朝っぱらから呑んだせいでコノカさんに運転を押し付けるようなことをしたもんだからな。

ごめんな

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(短編) 変わらないでと願う夏

(短編) 変わらないでと願う夏

蝉の声がさんざめく真夏の甲子園球場のスタンド席から私は球場全体をぼんやりと眺めていた。まだ小さかった頃に母と兄の試合を応援に行った時の記憶。

母のさす小ぶりな日傘のわきから見える青く澄み渡った夏空と輪郭がはっきりとした入道雲。それを全て飛び越えて私たちを照らすうだるほどの暑い日光。私たちの周りには他の選手の家族や強豪野球部の控えの面々が応援に喉を枯らす。

野球のルールをよく把握できていない時分

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うつろってただよう

〈あらすじ〉

都内の大手医療機器メーカーの営業マン岡田海人。彼は愛する婚約者明梨との結婚を控えて、大きな仕事も任されるようになっており、順風満帆な人生を歩んでいる。そんな彼には誰にも言えない”趣味”があった。自らにメイクを施し、女性物の下着や服装を纏い楽しむいわば女装癖だ。男性の面として明梨を愛し、女性の面として誰かに愛されたい岡田にとってこのまま続いてしまう恵まれた人生では思いが排反してしまう

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(短編小説) 桜の散る頃、気づきを得ること。

(短編小説) 桜の散る頃、気づきを得ること。

春の麗らかな陽気に照らされた教室は騒々しい。騒ぎたい盛りの小学三年生たち独特の高音は時間を早めていて、教師に時間はあってないようなものなのにそれを一切考慮しないその姿勢はなんとも清く正しい。

二時間目と三時間目の間の中休みに教室の隅の机で児童の宿題を確認しているのは、今年からこの私立小学校に赴任した三年二組の担任の山本先生、通称『やまちゃん先生』。いま手元にあるのは『毎日ノート』といって、児童が

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