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シンガポールの出会い・・・忘れたいのよ、あなたの事は。
こんにちは、ぷるるです。
旅って、良いですよね。
訪れた地での出会いや発見は、心に新たな息吹をもたらしてくれます。
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けれどもし旅の思い出が、一つの出来事に侵食されたらどうでしょう。
今日は期せずしてそのような体験をした、私の思い出を聞いてください。
10年前の、ちょうど今頃。
私はトランジットにより、シンガポールで半日を過ごす幸運に恵まれた。
シンガポールには興味津々だったが、諸事情により訪れたことがなかったのだ。
世界三大がっかり名所マーライオン、ラッフルズホテルなど、行きたい場所は目白押し。
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私はチャンギ空港から解き放たれてすぐ、小走りでタクシー乗り場へ向かった。
そして老男性運転手の車に乗り込み、初シンガポールに目を見張る。
そして5分で飽きた。
だって窓から見えるのは、道路と車と街路樹だけ。
夫は爆睡中だし、老男性運転手は非常に無口。
だが幸い老男性運転手は、ダッシュボードに細々とグッズを飾っている。
私はそれらを眺め、この退屈を紛らわすことにした。
可愛い人形、ブーな人形、造花、入れ歯、よくわからん石、またブー人形・・・
入れ歯??
そう、ダッシュボードには入れ歯がちんまりと置いてあった。
しかも部分系ではなく、フルの方。
入れ歯はシンガポールの美しい朝日を浴びて、時折きらんと輝いた。
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なぜ、ここに入れ歯を・・・
私の意識は答えの出ない問いでいっぱいになった。
これは運転手のものと考えて、間違いないだろう。
じゃあ食後に洗って、日光で乾かしているのか?
それとも、複数の入れ歯を交互に使っているとか。
そして使ってない入れ歯を洗って、日光で乾かし・・・
まずは顔が見たい。
少なくとも現在の歯の状態を知ることはできる。
それを手がかりに、じっくり推測すればいい。
だがバックミラーでは、口元が映らず確認できなかった。
といって、身を乗り出しのぞき込むわけにもいかない。
ああ、ジリジリする!!
私はチラリと夫を見た。この謎を共に背負って欲しかったから。
しかし夫が目覚める気配はなく、憎しみが湧いた。
そんな時。
突然視界に、中心地の風景が飛び込んできた!
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何かすごいな、シンガポール・・・都市に意識が全部移り、急速に入れ歯から興味が失せてゆく。
そうだ、これでいい・・・入れ歯なんて大抵の国に存在するのだから。
私は超都会の街並みに夢中のまま、目的地でタクシーを降りた。
そして楽しい気持ちで、シンガポールの風を吸い込んだ。
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最初に向かったのはマーライオン公園。もちろん、あれを見るためだ。
早速定番の遠近トリック写真を撮り、浮かれ観光客として楽しむ。
と、その時。
突然、ある姿がフラッシュバックした。
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ちょっとやめてよ!
私は脳内で奴を叱りつけた。
初めてのシンガポールを、台無しにしないで!と。
すると奴はすぐに去っていった。
そうとも。見知らぬ人の入れ歯など、どうだっていい。
気を取り直した私は、ラッフルズホテルへ向かった。
軽くホテルの説明を。
シンガポールの最高級ホテルで、グッドウッド・パーク・ホテルとならぶ伝統的なコロニアルホテルでもある。
(中略)
ホテルの名称はトーマス・ラッフルズにちなんで名付けられた。ミシュランの初のシンガポール版(2016)では、ホテル最高評価の赤パビリオン5(特に魅力的で、豪華で最高級)にランクされた。
(後略)
でも私にとって、ラッフルズホテルといえば村上龍。
さほど好きな小説ではないが、やはり思いださずにいられない。
あれを読んだ頃はまだ20代・・・思えば遠くへ来たもんだ。
私は本物のラッフルズホテルを、感慨深く見上げた。
その時。
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帰ってちょうだい!
私は怒りも露わに、キッパリと奴を跳ね除けた。
今、美しいコロニアル様式を堪能しているの。あなたになんか興味はないわ、と。
奴は去っていったが、私の心には新たな疑問が浮かんだ。
サイズが合わず痛かった?ポリグリップは使わない派?
そう、私は再び入れ歯に囚われてしまったのだ!
おまけに奴は時を追うごとに、存在感を増して私を苦しめる。
そして、マリーナベイ・サンズへ着く頃には・・・
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こうなってはもうおしまいだ。
私はマリーナベイ・サンズのフードコートを歩きながら、思う。
食後に入れ歯を洗うことが、この国の風習だとしたら?
ショップエリアで美しい箱を見つけて、思う。
そう、箱に入れた方がいい。なぜむき出しなのか。
止まらぬ疑問にたまりかね、夫に話すもその返事はクール。
「変だけど、今どうでも良くない?」
Yes, you're right !! だが、貴様にはっきり言っておく。
正論は 人を 救わない!!
私はこの重荷を背負わせようと、夫により詳細な説明をした。
だが逆に奴の姿が、私だけにより深く刻み込まれる結果に。
そして10年がすぎた今。
シンガポールの感想を聞かれると、まず入れ歯のことを話してしまう。
私はそんな人間になってしまったのだ・・・。
どうか皆様、旅をする際には十分にお気をつけください。
いつ、どこで、何が待ち構えているかわかりませんから。
もう一度シンガポールに行き、記憶を上書きすべきでしょうか?
でも、再び置き入れ歯に遭遇しない保証は、どこにもないのです。
完・1
*おまけ*
考えてみたら私の旅行記は、有益な情報がいつもありませんね。
深く反省し、シンガポールの感想を追記しました。
何かのお役に立てば、幸いです。
<チャンギ国際空港>
東南アジア有数のハブ空港。自然と芸術を人工的に混在させた姿は、シンガポールという国を象徴するかのようです。
でも私が行った頃は、まだJEWELの滝がありませんでした。
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とはいえ十分にきれいでしたし、アジア系の人々を一度に見られたのは楽しかったです。人種の違いもしっかり観察出来たし。
中でも恰幅の良いインド人から、道を聞かれたのは良い思い出ですね。
ジェスチャーを交え説明しましたが、首を横に振りながら去っていかれました。
<マーライオン>
やはりシンガポールに行ったら、見ずにはいられませんよね〜。
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『思ったより小さい』とは、死ぬほど聞いてきました。
そのせいか見た瞬間、「結構おっきいじゃん」と思った私。
結局マーは小さいの?大きいの?
一番有名なマーライオン像は、高さ8mとのこと。
うーん、微妙だな・・・。
ちなみにマーライオンとは、”マーメイド”のメイド部分をライオンに置き換えた造語なんですってね(Wikipedia情報)。今初めて知りました。
<クラーク・キー>
マーライオン公園からぶらぶら歩いて、「クラーク・キー」へ。
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ナイトスポットとして大人気で、川沿いにバーやクラブ、レストランが立ち並んでいます。
150年の歴史がある貿易船の「バムボート」は、今や観光船に。
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でも明るい日差しの中、ゆったりお茶をするのも素敵でしたよ〜。
<ザ フラトン ホテル>
ぶらぶら歩いていたら、洒落たホテルを見つけたので入りました。
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1928年、このビルは政府機関用のために建てられました。やがて中央郵便局として使われ、2001年からはホテルとなったそうです。
感想は特にありませんが、行ったから一応。
<ラッフルズ ホテル>
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外観については、本編で書いた通りです。
でも、内部はそれほど胸に響かず・・・好みかと思われます。
井上陽水の「リバーサイドホテル」が脳内に流れるのも、まずかったかな。
いつ混ざったんだろう、「ホテル」しか共通してないのに。
脳内の陽水は途中から車に乗り、「皆さぁん、お元気ですかぁ〜」と言いました。その合間に入れ歯が顔を出してきて・・・。
カオスでしたよね、私一人が。
<マリーナベイ・サンズ>
私の目的はプールでした。
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テレビで見た時からずっと入りたくて!
水着を持参して行ったんですけど、宿泊客しかダメでした。
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仕方ないから、カジノを1階から4階までくまなく歩き回ってやりましたよ!
上の階はVIP専用で、個室が並んでいるだけ。
その点、1階の庶民フロアは迫力がありましたよね。
ワンフロアに並ぶ様々なゲーム。熱狂する人々。飛び交う多言語。
生命エネルギーの放出を感じました。皆さん目がギランギランしていたし。
そしてカジノをしない人々には、充実のショッピングエリアをご用意。
どなたにもお金を使っていただける、マリーナベイ・サンズ!!
さすがラスベガスのカジノリゾートが建てただけありますね。
その抜け目なさに、軽い恐怖を覚えました。
私にとってシンガポールの印象は、「混在」でした。
人工と自然、支配と自由、東洋と西洋、多種多様な人々・・・。今はもう混在ではなく、一方が「侵食」しきっているのかもしれないですね。
それにしても、チャイナタウンへ行けなかったのは心残りです。
あとセントーサ島で、「メガジップ」をやりたかった!
今度行ったら、ぜひトライしたいと思います。
完・2
お役に立たない文を書いてしまったと、苦い思いを噛み締めています。
というか、ここまで読んでくれた人いるのかな。
何せ10年前、細かいことをなかなか思い出せなくて。
その上、この時は奴の侵食が・・・。
でもせっかく書いたので、このまま残しておきます。
そしてこの言い訳に目を通している貴方へ、心からの謝意を!
本当に、完
*猫およびシンガポールの写真は、全て無料写真オーダンを活用しました。
*入れ歯はいらすとや様です。
*でも鴨の写真だけは、私が、私が撮りましたよ!
*上手くないですか??奇跡です!嬉しいです!
真実の、完