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ちょっぴり読書感想vol.12

砂漠
伊坂幸太郎

今回は伊坂幸太郎さんの砂漠を読みました。
伊坂幸太郎は何故か1度も手に取ったことがありませんでしたが、職場の上司が青春小説が好きな私に薦めてくれたため、読んでみることにしました。

感想を一言で言うなら、まさに最高の青春小説。
この小説の締めくくりには反してしまうかもしれないし、野暮かもしれませんが、大学生戻りたくなるような小説でした。なんだか懐かしくなるし、こんな大学生活を送ってみたかったものです。
この小説の締めくくりに反するというのは、この小説の最後は、大学の卒業式があり、そのシーンで学長が「学生時代を思い出して、懐かしがるのは構わないが、あの時は良かったな、オアシスだったな、と逃げるようなことは絶対に考えるな。そういう人生を送るなよ。」と言葉を贈っているためです。
この言葉は、物語にも何度か登場するサン=テグジュペリの本に出てくる言葉だそうです。

遅ればせながらこの小説の大まかなあらすじは、主人公の北村が仙台の大学に入学し、出逢った4人と様々な出来事が起きる4年を過ごし、それぞれが成長し、前に進もうとする青春小説です。

主人公の北村は、物事を俯瞰してみておりどこか冷たい。鳥沢は軽薄で女好きなお調子者。南は超能力が使える控えめな女性。東堂は男子の目線を釘付けにするほどの美人で素っ気ない。西嶋は空気が読めないオタク気質な熱い変人だが、堂々としており一貫している。

この小説は登場人物のキャラが立っているのも惹き込まれる要因の1つだと思います。
前述の5人グループを中心に描いているため、この5人のキャラが立っているのはもちろん、その他の登場人物も特徴的です。伊坂幸太郎は、人間の解像度がとても高いように感じます。
ただ、西嶋には特にめちゃくちゃ惹かれます。笑笑

そして、伊坂といえばみたいな伏線回収。
ちょっとしたことだけど、あっ、あのシーンはこういうことかみたいなものが多かったです。
そして、特に驚かされたのは、春夏秋冬で章が区切られ進むのですが、1年間の春夏秋冬ではなく、1年春、2年夏、3年秋、4年冬みたいな時系列だったのが後半にわかりびっくりしました。

西嶋を中心に印象的なセリフやシーンも多いのですが、私が特に心に残った場面は、北村の「生きていくのは計算やチェックポイントの確認じゃなくて悶えてわかんねぇよ、どうなってんだよと髪の毛をくしゃくしゃやりながら進んでいくことなのかもしれない。」というセリフです。
大人になるまで、つまり砂漠に出るまでは、正解が示されたり、導いてくれたり、ヒントを与えてくれたりするけど、砂漠(社会)にでると急に自由です!と言われ、正解も何も教えてくれなくなる。だから、みんな正解を欲しがる。みんな正解が欲しいから怪しい宗教やらにハマっちゃう人もいるんですよね。
北村の彼女の鳩麦も下記のように言っていました。
「みんな、正解を知りたいんだよ。正解じゃなくても、せめて、ヒントを欲しがってる。だから、たとえば、一戸建てを買う時のチェックポイント、とか、失敗しない子育ての何か条、とか、これだけやれば問題ないですよ、っていう指標に頼りたくなる。」
これには社会人2年目の私はめちゃくちゃ共感しちゃいました。大学生のときって、子どもでもないし大人でもないという不思議な時期ですが、社会のことをわかった気でいるんですよね。また、義務教育のときなんかは正解なんて簡単出せる、むしろ正解なんてクソくらえだとか思ってるけど、いざ社会に出ると正解なんて与えられれないし、むしろヒントも指標ないから、不安になってしまって正解が欲しくなっちゃうんですよね。

この小説の砂漠という題名は、社会=砂漠と表しているんですね。そして、大学4年間をオアシスと表している。そして、砂漠に出てオアシスを良かったと思う社会人生活ではなく、砂漠にオアシスを作るように人間生活をするんだと活力をくれます。正解がなくても、自分と向き合って自分なりの正解を見つけ出せるように。そのための大学生活があると。

何気ない5人の大学生活を送る姿が描かれていますが、その生活では様々な事件や出来事があります。その中で成長する5人をみることができる素晴らしい小説です。
この小説に学生時代に出逢えていたら、というたらればは野暮ですが思ってしまいます。
前述にこんな大学生活を送りたかったと綴りましたが、友達と酔っ払って夜通し語り明かす時間、部活に明け暮れる時間、社会を垣間見る時間、私が無駄だと思っていた時間って意外と大事な時間だったんだなと思える小説でした。
大学生の日常、そして成長を描く青春小説ですが、物語が淡々と進むのではなく、節々にアクセントがあり読み応え大いにありという感じでした。

最後に。
物語の1番最後に出てきた「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである。」という言葉。
人間関係煩わしいことも多いですし、傷つくことも多くあります。ですが、それと同時に嬉しいことも、温かくなることも、かけがえのないものになるのも人間関係だと。
正にそうだなと。大切にしたいと思える人は一生大事にしたいと思いました。

また次回。

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