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ちょっぴり読書感想vol.16

AX
伊坂幸太郎

グラスホッパー、マリアビートルと続いて、今回読んだ作品は、AXです。

一言で感想を述べるなら、幸せだと感じるのは自分だよと言いたくなる作品でした。

あらすじとしては、家族には内緒で殺し屋をしているが、家庭では妻に頭のあがらない兜が、息子ができてから殺し屋を辞めたいと思うが、そのためにはお金が必要なため、なくなく殺し屋を続けているという始まりです。

この作品は、涙なしには読めませんでした。私は。
殺し屋シリーズですが、前2作とは打って変わり、ほとんどが主人公兜の視点だけで描かれた作品になります。

私には、兜のことが殺し屋ですが良い人間にしか見えません。
兜は考えるのです。私は今幸せだと感じているけれども、私はたくさんの命を奪っていて、そんな私は幸せで良いのかと。愛する家族がいるからこそ、殺し屋としては致命的な優しさが出ちゃうところなんかもあって、私は人間的で好きです。非道徳なことに手を染めすぎて、わからない普通の人間の感情。でも、家族がいて、愛しさを感じて、1人の人間として、夫として、父としての兜がいるんです。
途中、同じ境遇の殺し屋と出逢うのですが、ここもまた感慨深いです。

殺し屋とハートフルとはかけ離れているように感じますが、これはハートフルです。中盤以降、呆気なさに囚われてしまうのですが、後半からの怒涛の展開は、どこか素敵に感じます。最後の終わり方は、控えめに言って好きです。

作品中の兜と息子の交わす会話で蟷螂の斧ということわざに関するものがあり、「そのことわざは、カマキリもその気になれば、一発かませるぞ、という意味合いではないんだろ」「どちらかといえば、はかない抵抗という意味だ」という会話があるのですが、これが後半にしっかり意味を持つものとなり、この会話、後半のシーン、兜と息子の関係、合わせて素敵です。
ついでに言うと、AXアックスは、斧という意味合いですね。

生と死、殺し屋と幸せに対する懊悩、この作品から感じるとることができるものは、まだまとまりきらないのですが、素敵なものだと思います。

また次回。

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